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モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料14

絵画・写真・ポスターが物語る中国の暴力

モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料14

編者が20数年かけて収集した膨大な画像資料から厳選。プロパガンダが果たした大衆動員、そして、その暴威を多方向から見る

著者 楊 海英
ジャンル 書誌・資料・写真
出版年月日 2022/01/23
ISBN 9784894898943
判型・ページ数 478ページ
定価 本体14,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

目次
はじめに
一 画像資料に関する既往研究
1.1 画像資料の概要
1.2 ポスターを中心とした欧米の先行研究
1.3 日本の中国プロパガンダ研究

二 描かれた中国人の暴虐
2.1 絵画の日本語「前書き」
2.2 原作者「中文前言」
2.3 Өмнөх үг

三 写真が物語る内モンゴル自治区における中国の暴力

四 礼賛された中国からの暴力―風刺漫画

五 称賛させられる毛沢東等中国人の神々

六 紅い太陽に照らされた幻想の内モンゴル

七 終わりに

参考文献


〈本書所収資料一覧〉
一  内モンゴル自治区シリーンゴル盟バヤンジュルヘ地域における中国人からモンゴル人への暴虐
図1:太いうどんを食べさせる
図2:麻花という揚げパンを食べさせる
図3:パイを食べさせる
図4:美酒佳餐
図5:喫煙
図6:板を食わせる
図7:熱烈接待
図8:冷静な反省
図9:マニキュア
図10:人工呼吸



図54:接吻


二 写真が物語る社会主義の内モンゴル自治区
1.破壊されたチベット仏教寺院
2.1950年代の南モンゴル人
3.トゥメト旗政治協商委員会メンバー
4.沙漠化防止の現場における政治学習会
5.牧畜地域の模範ウーシンジョー人民公社
6.オルドスのトゥク人民公社の歌舞団
7.政治学習会議の風景
8.モンゴル人ジェノサイドを指揮した滕海清将軍
9.モンゴル人ジェノサイドの責任を負わされた作家ウラーンバガナ
10.作家ウラーンバガナの作品群



164.モンゴル人の祖国はどこ?


三 礼賛された中国から暴力―風刺漫画
1.把烏蘭夫反黨集團統統揪出來、斗倒斗臭
2.徹底砸爛烏家王朝!、呼和浩特革命造反聯絡總部美術組
3.徹底批倒斗臭烏蘭夫反黨集團、呼和浩特革命造反聯絡總部美術組
4.宜將剩勇追窮寇、呼和浩特革命造反聯絡總部美術組
5.把黨内走資本主義道路的當權派打翻在地、再踏上一隻脚、讓他永世不得翻身!
6.把埋在内蒙黨内的定時炸彈全部挖掉!
7.天翻地覆慨而康
8.解放軍是無產階級革命派堅强後盾
9.緊緊掌握鬥爭的大方向
10.讓我們高舉毛澤東思想偉大紅旗、把烏蘭夫在包頭的代理人寒峰、墨志清、吳步淵斗垮、斗倒、斗臭、讓他們永世不得翻身




31.『魯迅画刊』第五期


四 称賛させられる毛沢東等中国人の神々
1.人々敬愛毛主席
2.毛沢東著作学習班記念撮影
3.我們心中的紅太陽
4.数風流人物還看今朝
5.毛沢東に敬礼させられるモンゴル人
6.政治集会に飾られた毛沢東
7.政治学習会議場に飾られた毛沢東
8.民兵の作戦会議。
9.天幕内に飾られた毛沢東
10.天幕内に飾られた毛沢東



52.毛沢東と華国鋒に付いていかねばならない


五 空想の内モンゴル

1.我國是一個團結的統一的多民族國家
2.慶豐收
3.騎馬上學
4.改良綿羊品種
5.加強飼養管理、鞏固改良成果
6.認真做好預防接種、控制和消滅傳染病
7.計畫免疫好
8.牧業學大寨、建設新草原(組合掛圖)
9.草原(組合掛圖1)
10.草原(組合掛圖2)



58.我們的朋友遍天下

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内容説明

本書は内モンゴル自治区でおこなわれた中国文化大革命に関する第一次資料を解説し、影印するシリーズ。編者が過去20数年間かけて収集したポスターを中心に、絵画と写真、風刺漫画といった第一級の史料群を用いてその詳細を伝える。

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              はじめに



中国が1966年に文化大革命を発動し、一時的に終息する1976年までの間に内モンゴル自治区で大規模なモンゴル人ジェノサイド(Genocide)が発生した。操作された、中国政府の後日の公式見解によると、人口約150万人弱のモンゴル人を対象に、中国政府と中国人(漢民族)は346,000人を逮捕し、27,900人を殺害し、120,000人に身体障害を残したという[楊 2013a;2014a:78;2014b:433-434;2019a:37;2021a:1-17]。中国政府のデータに疑問を抱く欧米の研究者は、殺されたモンゴル人の数は10万人に上る可能性があると指摘している[Jankowiak 1988:276; Sneath 1994:409-430]。この10万人という数字には文化大革命(以下、文革と略す)が一段落した後に、殺戮運動中の組織的暴力が原因で死去したモンゴル人、即ち「遅れた死」は含まれていない。文革が原因となる「遅れた死」を算定に入れると、中国によって死に追い込まれたモンゴル人の数は30万人に上ると主張する知識人もいる[Shirabjamsu 2006:44]。

 大虐殺を実施したのは、中国人民解放軍と中国政府に動員された中国人労働者と農民、それに学生たちであった。人民解放軍は系統的な命令で動くが、大衆は政府による動員が必要であった。大衆の動員には政府主導の強力なプロパガンダが欠かせない。当時の中国政府はありとあらゆめメディアをフルに稼働してモンゴル民族全体を敵として定め、長期間にわたって大虐殺を展開した。中国の独特な宣伝手法について、編者は今までに壁新聞[楊 2016a]と紅衛兵新聞を事例に[楊 2017;2018]資料を公刊してきた。また、既刊の資料集にはビラ(伝単)や各種の冊子も含まれていた。これらはすべて中国人大衆を動員するのに大きな役割を果たした。紅衛兵新聞と雑誌、それにビラにはまた風刺漫画とポスター、そして写真が大量に掲載されていた。これらの可視的な画像からなるメディアは中国人大衆の暴力行為を革命的行動として正当化するのに制度的に使われていた。当然、被害者のモンゴル人は虐殺されるという過酷なプロセスの中で自らの経験を画像化すること、画像で以て残すことは不可能であった。

 本書は画像資料を用いてモンゴル人ジェノサイドの実態を伝えることを目的としているる。具体的には以下のような画像からなる。

一、モンゴル人被害者が描いた中国人の各種暴力

二、加害者側の写真

三、加害者側の中国人が断罪に用いた政治的な風刺漫画

四、加害者の中国のプロパガンダ画像(ポスターと写真)

モンゴル人が最も重要な画像資料として位置づけているのは、被害者たち自身が大虐殺の後に自らの経験を詳細に描いた絵画である。加害者の中国側の人間が撮影した写真と、政府が作成した政治的な風刺漫画は、被害者自身が描いた絵画の裏付けとなる資料群である。モンゴル人が中国政府と中国人に大虐殺されたのは、彼らが理想とする「中国の内モンゴル自治区」を創出したかったからである(写真,文化大革命の発動を全国に宣言した中国共産党中央委員会の「五・一六通知」。★電子化した画像ファイル内の08-001,08-002使用★)。言い換えれば、中国政府と中国人はプロパガンダ通りのモンゴルを空想し、幻想的で、彼らが理想とする「民族団結」、「幸せなモンゴル人」を作り出す為に、大虐殺を進めていたのである。というのも、モンゴル人は中国政府と中国人の意向に沿って、恭順な態度を示さなかったからである。

以上のような四種の画像資料はすべて中国政府と中国人の組織的暴力を物語る第一級の記録である。今回の画像資料を編者が今日までに公にしてきた文字資料と合わせて研究することで、今後は文革期のモンゴル人ジェノサイドの歴史が更に究明されるに違いない。





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編者紹介

楊 海英(Yang Haiying)
国立静岡大学人文社会科学部教授。専攻、歴史人類学。

主な著書
『草原と馬とモンゴル人』(日本放送出版協会、2001年)
『チンギス・ハーン祭祀―試みとしての歴史人類学的再構成』(風響社、2004年)
『モンゴル草原の文人たち―手写本が語る民族誌』(平凡社、2005年)
『モンゴルとイスラーム的中国―民族形成をたどる歴史人類学紀行』(風響社、2007年)
『モンゴルのアルジャイ石窟―その興亡の歴史と出土文書』(風響社、2008年)
『墓標なき草原―内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(上・下、岩波書店、2009年、第十四回司馬遼太郎賞受賞。続、2011年)
『植民地としてのモンゴル―中国の官制ナショナリズムと革命思想』(勉誠出版、2013年)
『中国とモンゴルのはざまで―ウラーンフーの実らなかった民族自決の夢』(岩波書店、2014年)
『ジェノサイドと文化大革命―内モンゴルの民族問題』(勉誠出版、2014年)
『チベットに舞う日本刀―モンゴル騎兵の現代史』(文藝春秋、2014年、第十回樫山純三賞受賞)
『日本陸軍とモンゴル―興安軍官学校の知られざる戦い』(中公新書、2015年、国基研・日本研究賞受賞)
『逆転の大中国史』(文藝春秋、2016年)
『モンゴル人の民族自決と「対日協力」―いまなお続く中国文化大革命』(集広舎、2016年)
『「中国」という神話』(文春新書、2018年)
『「知識青年」の1968年―中国の辺境と文化大革命』(岩波書店、2018年)
『最後の馬賊―「帝国」の将軍・李守信』(講談社、2018年)
『モンゴル人の中国革命』(筑摩新書、2018年)
『内モンゴル紛争―危機の民族地政学』(筑摩新書、2021年)
『紅衛兵とモンゴル人大虐殺―草原の文化大革命』(筑摩選書、2021年)

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