目次
凡例
明史 巻九十三 志六十九 刑法一
明史 巻九十四 志七十 刑法二
明史 巻九十五 志七十一 刑法三
典拠とした主要な引用文献・参考文献一覧
索引
内容説明
『明史』刑法志の平明な日本語訳に、精密な注釈(書名・人名・制度名や、原文記述に関連する文献史料)を加え、その索引を付す。政治史・社会史研究の前提となる法政史の研究の中でも、特に重要な明代刑法の分野における基礎的文献の決定版。
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はしがき 野口鐵郎
『明史』巻九三・九四・九五の計三巻によって構成される刑法志は、葉方靄が『明史』の編修を総裁したときに、纂修官に挙げられた姜宸英を中心として著述された。
その初巻は、『大明律』『大誥』『問刑条例』などの刑律関連の書の編纂の過程が記され、続いてとくに明代に詳細に定められた贖罪の規定と、その執行状況を概述する。中巻は、会審・朝審・熱審・大審・恤刑・登聞鼓の制などの審判制度を紹介し、誣告などの審判の過程における具体的な規定と方法を述べ、併せて歴代皇帝の刑法への係わりが記される。末巻は、廷杖・東西厰・錦衣衛鎮撫司の獄のあり様を詳述し、厰・衛とそこを拠り所とする宦官による特務恣政を述べる。とくに末巻の『明史』巻九五 志七一に述べられることは、他の歴代刑法志には類例を見ないことで、明史刑法志の大きな特徴であるとともに、明代刑法史の特異点である。
法制が政治の大方針を示すものであるとともに、民生のあり方に密接に関与することはいうまでもない。中国の刑法は、その特色として理想法的側面をもつから、そこに規定されることがそのまま実態を映すとはいえない。その意味で、刑法志に関する研究は、単に法政史にとどまらず、政治史・社会史などの研究の基礎に据えられるべき分野である。
そこで、参考文献に記したように、わが国でも中国でも多くの研究が成され、歴代正史の刑法志に関する研究とともに、数種の訳注も刊行されている。『明史』のそれも、近ごろ公刊された。こうしたなかに立ち混じって、いまさらに一本を出刊しようとするのは、公刊された『明史』刑法志の日本語訳に不満な部分が目についたからである。学問は、そのことに学的関心をもつ研究者の相互批判を踏まえて前進する。この『訳注明史刑法志』が、この分野の進展に寄与することがあれば幸いである。
思えば、『明史』刑法志との係わりは、すでにふたむかし以上前に溯る。『明史刑法志索引』の出版は、第一読解の終わった頃のことであった。その後も、ことさらに繁忙な業務の間隙を縫って断続的に読解の作業を続け、そのために文部省科学研究費の恩恵を受けたことがあったが、刊行するには至らなかった。その時どきに筑波大学・中央大学の大学院生諸氏とともに会読したことがあり、記してその学恩に感謝する。ただし、本書の記述の責任のすべては、訳者にある。また、引用史料の校合には、山田悦美氏(桜美林大学大学院)の助力に俟った部分があることを添書する。
本書の刊行は、風響社に委ねた。社主石井雅氏との交際も古いものがあり、いつかは氏に報いなければ、と考えていたが、果たしてこれが報恩であるかその逆かは、大いに疑問である。
二〇〇〇年一〇月二日
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訳注 『明史』刑法志 凡例
1 『明史』巻九三・九四・九五の三巻にわたる刑法志の全文を、便宜によって二七一段に区切って現代日本語に翻訳し、かつ必要な語に注釈を施した。
2 原文においては、底本とした百衲本『明史』が用いている字形を尊重したが、ときに日本における現代通用の字形とした場合がある。
3 訳文と注釈の文においては、現代通用の字形を用いた。
4 訳文においては、現代日本語として滑らかであるように、意味に重きを置いた訓を漢字への振り仮名として多用した。
5 [ ]によって示された数は、区切られた段を意味する。
6 段ごとに、句読点を付した原文のあとに現代日本語訳を記し、右傍に付された注番号に従って注釈を記した。
7 ( )内は、原文における割り注である。
8 〈 〉内は、引用された『大明律』の文言である。
9 〔 〕によって括られた部分は、日本語に翻訳するに際して、訳文の意味を明確にするために補充した語文である。
10 「 」は皇帝・官僚などの発言を現す。
11 『 』は書名などの固有名詞や、引用発言のなかに引用された文言などである。
12 注釈は、書名・人名・制度名などを含む固有名詞などのほか、原文の記述に関連する他の文献史料にも及んだ。したがって、句ないし文節の解釈のなかに語の解釈を含ませた場合がある。
13 原文、および注釈のなかに引用される文献に付された句読点などは、訳者によるものである。
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編訳者紹介
野口鐵郎(のぐち てつろう)
1932年、東京都に生まれる
筑波大学名誉教授 桜美林大学教授 文学博士
主な著書
『中国と琉球』(開明書院 1977年)
『明史刑法志索引』(国書刊行会 1981年)
『明代白蓮教史の研究』(雄山閣出版 1986年)など