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07 海辺のカラオケ・「おやじ」のフォーク

高齢社会の音楽をフィールドワーク

07 海辺のカラオケ・「おやじ」のフォーク

音楽を通しての交流の場。一漁村、都市近郊コミュニティの事例を通し、日本の高齢者社会の断面を描く。

著者 馬場 雄司
ジャンル 人類学
シリーズ 京都文教大学 文化人類学ブックレット
出版年月日 2011/03/31
ISBN 9784894897670
判型・ページ数 A5・56ページ
定価 本体600円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに
 1 高齢社会の音楽をフィールドワーク
 2 高齢者の居場所づくり──「高齢者」とは?

Ⅰ 漁村の高齢者──三重県紀北地方
 1 海辺のたまり場
 (1)アンケートとフィールドワーク
 (2)たまり場の発見──様々な高齢者の活動の中で
 (3)海辺のたまり場
 (4)保健師と人類学者
 2 カラオケ喫茶
 (1)高齢者の新たな活動
 (2)カラオケ喫茶
 (3)カラオケと高齢者
Ⅱ 「おやじ」フォークバンド──京都府宇治市
 1 政策的なしかけと自然発生的な場の形成──団塊の世代の生きがいづくり
 (1)フォーエバー・フォーク
 (2)ミニステージ・イン宇治
 (3)「おやじ」のフォーク
 (4)女性サポーター
 (5)「おやじバンド」再考
 2 地域の力
 (1)すでにある「場」に注目する
 (2)地域SNSの役割

おわりに

参考文献
本書の内容をよりよく理解するために

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内容説明

自然発生、あるいは行政やボランティアにより、各地に生まれている、音楽を通しての交流の場。一漁村、都市近郊コミュニティの事例を通し、日本の高齢者社会の断面を描く。

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本文より

1 高齢社会の音楽をフィールドワーク

…… 高齢社会の音楽をフィールドワークする。すなわち「福祉」と「音楽」を人類学的に考えるということになるのだが、これはいったいどのような営みをさすのであろうか。

まず、人類学的視点で福祉をみるということについて考えてみたい。「福祉の人類学」を提唱したラッセルとエドガーは、福祉を人類学として研究するためには、抽象概念ではなく、具体的状況に重点をおくことや、国家・地域レベルでの政策の背後にあるローカルな生活に焦点をあてることが重要であると主張している。政策的に行われる福祉では、「弱者支援」のため、「高齢者」「障害者」などの枠組みを設け、そうした人たちに対する支援を行うという形をとる。しかし、そもそも「弱者」とは何だろうか。どんな人も老いていき、現在「健常者」と位置づけられる人も不慮の事故で「障害者」と位置づけられるなど、誰もが「弱者」になる可能性をもっている。また、「弱者」と位置づけられる人々だからこそ発揮できる能力もある。例えば、精神障害を持つといわれる人の中には、豊かなイマジネーションを発揮する人もいるし、年をとった人は、長年の人生経験で培った知恵を持っている。「弱者」の基準は社会・文化によっても異なる。また、「弱者」であることが問題になるのは生活のどのような具体的状況によるのか、どのような文脈によるのかを細かくみていくと、ある人を簡単に「弱者」と位置づけてしまうことはできないように思われる。

フィールドワークを主な研究手法とする文化人類学では、現場に密着しながらいろいろなことを考えていくが、福祉の現場においてもこうした手法を用いることによって、そこで起こる様々なできごとを、より豊かに掘り起こしていくことができる。人類学のこのような営みは、福祉の専門家と連携することで、現場での営みをより豊かにすることができるのではないかと考えている。福祉現場で実践を行う人々は、どうしても目の前の「問題」を「解決」することに追われがちである。文化人類学では、これまで問題と考えられてこなかったことを、考えるべき問題として提起したり、問題と考えられたものも、別の角度から考えてみると問題ではないのではないか、ということを提起したりする。問いを発見する人類学と問題を解決する現場の実践が協力して意味のある福祉の実践ができるのである。このことに関しては、具体的な例に則してのちほど改めて考えてみることにしたい。

次に、人類学的視点で音楽をみるということについてである。ここでは、音楽家のノウハウ、すなわち演奏や歌い方のノウハウを扱うのではない。……

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馬場雄司(ばば ゆうじ)

京都文教大学文化人類学科 教授

著書『職能としての音楽』(共編著 1990年、東京書籍)、『音のフィールドワーク』(共著 1996年、東京書籍)、『土地所有の政治史』(共著 1999年、風響社)、『国際看護への学際的アプローチ』(共著 2008年、日本放射線技師出版会)、『タイ文化圏の中のラオス』(共著 2009年、慶友社)、『東アジアにおける宗教文化の再構築』(共著 2010年、風響社)、科学研究費報告書『近代的福祉システムと伝統的相互扶助─タイと日本の比較』(2001年)

 

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