自然災害と社会・文化 10
タイのインド洋津波被災地をフィールドワーク
調査地で直面した津波。村落社会で起きた事象から災害の多面性・長期性を詳細に描き、社会の防災力を考察。
著者 | 小河 久志 著 |
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ジャンル | 人類学 |
シリーズ | 京都文教大学 文化人類学ブックレット |
出版年月日 | 2013/03/30 |
ISBN | 9784894897687 |
判型・ページ数 | A5・50ページ |
定価 | 本体600円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
Ⅱ インド洋津波
1 インド洋津波の概要
2 インド洋津波とタイ
Ⅲ 津波被害と復興支援
1 被災地M村
2 被害と復興に向けた取り組み
3 復興支援をめぐる問題
Ⅳ 村落経済の変化
1 背景
2 沿岸漁業の衰退
Ⅴ 分断する村
1 新たな派閥の誕生
2 二つの選挙
Ⅵ 宗教実践の変化
1 イスラーム復興運動タブリーグの宣教活動
2 新たな宗教実践の誕生
3 再興する民間信仰
Ⅶ おわりに
参考文献
本書をもっと理解するために
資料
内容説明
調査地で実際に遭遇した津波。被災地に身を置き体験した多面的・長期的な被害と複雑な復旧・復興の現実。政治・経済・宗教など様々な局面から「災害」の全容に迫る。
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しかし、インド洋津波による被害は、そうした物理的な打撃だけに留まるものではなかった。災害人類学者のオリヴァー=スミスは、災害を「すべてを包合して発生するものであり、人の生活のあらゆる側面にわたって吹き荒れ、環境・社会・経済・政治・生物などの状態に影響を与えるもの」[オリヴァー=スミス 二〇〇六:二九]と述べている。インド洋津波という自然災害が被災地に与えた影響もまた、多様な領域に及んだ。それは、建造物の破壊や人命の喪失といった直接的な被害に加えて、復興の過程で生じる社会や文化の変化など間接的なかたちをとっても現れた。そして、そこには、被災地におけるさまざまな種類、次元の要因が、複雑に絡み合っていたのである。
本書は、タイのインド洋津波被災地を事例に、被災者の視点からそのような複雑で多面的な過程としての津波災害を描きだすことを試みる。その際のもととなる資料は、津波が起きる前の二〇〇四年一〇月末から二〇〇六年七月末までの約二一ヶ月間にわたり筆者が南部トラン県のM村で行った長期のフィールドワークによって得られたものである。
フィールドワークとは、異文化理解の学問である文化人類学の根幹をなす研究手法である。フィールドワークなくして文化人類学はない、といっても過言ではない。文化人類学におけるフィールドワークはふつう、一年以上の長期にわたって調査者が、一人で異文化社会のなかに住み込むことを前提とする。そこにおいて調査者には、滞在先の社会や文化のありようを詳細にとらえるために、現地の言葉を習得し、現地の日常生活に参加することが求められる。フィールドワークは、調査者に驚きや感動を与える一方、しばしばさまざまな困難を強いる。しかし、そこで直面する問題を解決していくなかで、調査者は、現地の社会や文化に対する理解を深めていくことができる[林 二〇〇八:二三七]。災害のあらわれ方は、それが起きた地域の自然環境とともに、社会・文化的状況とも密接な関係にある。この点を踏まえると、文化人類学のフィールドワークは、災害の多面的で複雑な実態を把握するのに極めて有効な方法であるといえるだろう。
最後に、筆者がタイのインド洋津波被災地をフィールドワークすることになった経緯について簡単に触れておきたい。上に記したフィールドワークの実施期間をみてわかるように、私は、津波が襲来する前からM村に滞在して調査を行っていた。村人の信仰生活について調べていた私は、その最中に津波に遭遇した。私は、津波が村を襲う直前に村人とともに内陸部に避難したが、数日後には村に戻った。その結果、緊急期から復旧・復興期に至るM村の災害プロセスに身を置くことになったのである。それは、津波から一年半以上の長期にわたって津波災害の多面的な様相を目の当たりにする機会でもあった。……
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小河久志(おがわ ひさし)
1975年、石川県生まれ、宮城県育ち。主な業績に、『東南アジアのイスラーム』(共著、東京外国語大学出版会、2012年)、『自然災害と復興支援』(共著、明石書店、2010年)、「インド洋津波後のタイ沿岸漁業の変化─南部アンダマン海沿岸の事例」『アジア経済』52巻7号(2011年)、「宗教実践にみるインド洋津波災害─タイ南部ムスリム村落における津波災害とグローバル化の一断面」『地域研究』11巻2号(2011年)、「イスラーム教育の変容と多様化する宗教実践─タイ南部ムスリム村落の事例から」『イスラム世界』72号(2009年)、「南タイ・ムスリム村落におけるイスラーム復興の現在─開発と『平等性』をめぐる村人の対応」『東南アジア研究』45巻4号(2008年)等がある。