MBAたちの中米変革 6
国際学術協力による地域経済統合
従来の開発独占の民族資本から、グローバル化に連動する経済エリート達の政・経再編の時代へと移行する、中米の現在を読み解く。
著者 | 笛田 千容 著 |
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ジャンル | 社会・経済・環境・政治 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 > ブックレット〈アジアを学ぼう〉別巻 |
出版年月日 | 2014/10/14 |
ISBN | 9784894897762 |
判型・ページ数 | A5・60ページ |
定価 | 本体700円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
1 中米の括り方
2 自由主義の遺産
3 中米エリート研究の問題点
一 周辺のブルジョワジー
1 民族資本の形成
2 外国資本の進出
3 政治的帰結
二 地域ブルジョワジーの登場
1 地域経済統合の新展開
2 知的支援の注入
3 地域経済人脈の形成
三 ブルジョワジーの交代と政治変動
1 エルサルバドル
2 ニカラグア
3 コスタリカ
おわりに
内容説明
「周辺のブルジョワジー」から「地域ブルジョワジー」へ
従来の開発独占の民族資本から、グローバル化に連動する経済エリート達の政・経再編の時代へと移行する、中米の現在を読み解く。
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はじめに
南北アメリカ大陸をつなぐ中米地峡に、鎖状に連なる小国群がある。太平洋とカリブ海に囲まれたこの地域は、狭い範囲に多彩な地形と微気候に恵まれた、生物多様性の宝庫として知られる。一方、火山が多く、地震やハリケーンなどの自然災害や、温暖化に対する脆弱性も指摘される。
国際政治経済の観点からこの地域を理解するためのキーワードは「周縁性」である。国際政治においてはアメリカ合衆国という(相対的な凋落が指摘されるとはいえ)超大国の覇権の下に置かれ、国際貿易においてはコーヒー、バナナ、砂糖といった少数の熱帯農産品の輸出と、安価な人件費を前提とする労働集約型、単純労働型の保税加工に特化してきた。
国際市場において価格変動の著しい一次産品や、低付加価値製品の輸出に大きく依存する経済構造は、封建的な社会制度を残したまま貧富の格差を拡大し、地域に恒常的な政情不安をもたらした。多くの国が長年にわたる個人独裁ないし軍政を経験し、東西冷戦下では左右両極によるテロが激化して内戦状態に陥った。
紛争はあらゆる面で多大な損失を生じたが、一九九〇年代に各国で和平が結ばれると、継続して堅調な復興が見られた。そして、中長期的な開発・成長戦略について話し合われるなか、これらの国々は、国境を越えた広域インフラ計画や経済社会開発を通じて、地域としての一体性を高めながら、国際経済に参入する方針を打ち出した。すなわち、グローバリズムとリージョナリズムという二つの大きな流れを汲みながら、国際競争に適応していく道を選んだのである。
政治的には民主主義、経済的には新自由主義が地域に浸透した一九九〇年代を中心に、各国の生産・権力関係は、どのような調整を迫られたのだろうか。たとえば、まだ萌芽的だった商工業は、どのように国際展開を図ったのだろうか。そして、かつて軍政を支持していた財界は、どのように民主政治を受け容れたのだろうか。
本書が注目するのは、改革の担い手となるエリートの育成である。具体的に、専門経営者教育や政策形成支援といった、ソフト面での援助需要に焦点を当てる。そして、国際学術協力の受け手として登場した新しいタイプの企業家による地域ネットワークの形成と、各国の財界における新旧勢力の交代について考察を加える。
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著者紹介
笛田千容(ふえた ちひろ)
1976年、石川県生まれ。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。
同研究科地域文化研究専攻北米・中南米文化講座助教。中米政治社会論。
主な論文に、「エルサルバドル財界の家族と変容」(『イベロアメリカ研究』第XXVII巻第1号)、「中米の企業社会と政治変動―エルサルバドルとグアテマラの経済頂上団体を中心に」(『ODYSSEUS』第18号)などがある。