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前間恭作の学問と生涯 35

日韓協約の通訳官、朝鮮書誌学の開拓者

前間恭作の学問と生涯

外務省の通訳官として歴史の舞台を演出し、『韓語通』『古鮮冊譜』など多くの著作を残し、朝鮮学の基礎を築いた人生を掘り起こす。

著者 白井 順
ジャンル 歴史・考古・言語
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2015/10/15
ISBN 9784894897809
判型・ページ数 A5・58ページ
定価 本体700円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに

一 前間恭作の家族

二 幼少期〜長崎時代〜東京

  初めての朝鮮/笠原半九郎・田中義一との出会い/長崎の叔父・友諒/東京遊学/父の収監/親友・上山良吉/笠原百里の許で──明治一九年〜二一年三月/慶應義塾時代──明治二一年四月〜二四年四月

三 朝鮮時代──明治二四年八月〜四四年三月

  朝鮮留学──明治二四年八月〜二七年七月/日清・日露・日韓併合条約の渦中で/結婚とシドニー駐在/伊藤博文との交流/朝鮮学の黎明──朝鮮会/『韓語通』の出版と白鳥庫吉/朝鮮語研究会/京城の在山楼

四 東京・青山時代──東洋学のために

  帰国後の生活/盟友・浅見倫太郎/花下居と娘・善/在山楼蔵書を東洋文庫へ寄贈/鮎貝房之進との交流/『月印釈譜』をめぐる人々/孫晋泰『朝鮮古歌謡集』について/小倉進平『郷歌及び吏読の研究』について/花下居を往来する人々

五 福岡・箱崎時代──後進のために

  中村庄次郎と『交隣須知』/岩井大慧と二度目の寄贈/九州帝国大学の人々/京城帝国大学と書物同好会/その他の交流/売却した蔵書/『朝鮮の板本』と『半島上代の人文』

六 遺品の行方

参考文献
前間恭作 略年譜
あとがき

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内容説明

歴史を紡いだ在野の研究者の足跡をたどる
『韓語通』『古鮮冊譜』など多くの著作を残し、朝鮮学の基礎を築いた前間恭作。外務省の通訳官として歴史の舞台を演出しながらも、45歳で退官。以後の人生を朝鮮書誌研究に捧げた。本書は知られざる波乱の生涯を克明に掘り起こした労作である。

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 前間恭作は、明治二四年から明治四四年まで朝鮮に滞在し通訳官として働く一方で、在野において朝鮮研究をした人物である(写真1)。大正一三年一月に前間恭作は、朝鮮に滞在した間に集めた蔵書〔在山楼蒐書〕を東洋文庫に寄贈し、在野の研究者として終生朝鮮研究を続けた。彼の『校訂交隣須知』(明治三七年、一九〇四)・『韓語通』(明治四二年、一九〇九)・『龍歌古語箋』(大正一三年、一九二四)・『鶏林類事麗言攷』(大正一四年、一九二五)・『朝鮮の板本』(昭和一二年、一九三七)・『半島上代の人文』(昭和一三年、一九三八)・『訓読吏文』(昭和一七年、一九四二、没後刊行)・『古鮮冊譜』(昭和一九年、一九四四・昭和三一年、一九五六・昭和三二年、一九五七没後刊行)などは、朝鮮学の基礎を築いた業績と言っても過言ではないだろう。
 しかしながら、前間に関する研究は末松保和「前間先生小伝」があるのみである。本書のスタンスを理解して頂くべく、まず本書と「前間先生小伝」の違いを述べたい。末松保和は前間の謦咳に接し、その学術的な功績を伝えるため、前間の代表作『古鮮冊譜』の付録として「前間先生小伝」を記した。私のこの小伝では「当時の前間にとって何があったのか」という事を基準に、資料を通して彼の足跡を辿って行く。例えば、彼の預貯金がいくらあったかという事は、当時の前間にとっては切実で非常に重要だが、現在の朝鮮学からみればどうでもいい問題である。ところが、その預金でいつどんな本を買ったのか、何をしたのかが分かれば、俄然リアルな前間の思考と行動を立証するものになってくる。前間の具体的な行動と肉声を知ってもらいたい、人間・前間恭作の生身の横顔、息づかいを伝えたいというのが私の執筆意図である。前間自身が述べているが、学問面でも生活面でも、前間の人生はさまざまな人に引き立てられながら歩んできた。だからこそ、彼は周囲にいる人たちと、具体的にどのような交流を結んだのかということが重要なのであり、本書が人と人との具体的交流に関わる話を多く引用するのもそのためである。

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著者紹介
白井 順(しらい じゅん)
1974年、横浜生まれ。2003年大阪市立大学大学院博士後期課程単位取得退学。2011年、中国学博士(大東文化大学)を取得、現職は四川大学古籍整理研究所副研究員。
「『朱子訓蒙絶句』は如何に読まれたか─朱子学の普及と伝播の一側面」(『日本中国学会報』58集、2007年)、「陽明後学と楊応詔─嘉靖年間の理学と『閩南道学源流』の背景」(『東方学』第115輯、2008年)、「東アジアにおける薛瑄『読書録』の刊行と変容」(『日本中国学会報』61集、2009年)等。

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