チベットのロックスター 38
仏教聖者ミラレーパ 魂の声
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各地を遊行し、瞑想修行に明け暮れ、大いなる悟りを得たミラレーパ。11世紀に生きたチベットの聖者の人生と思想。
著者 | 渡邊 温子 著 |
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ジャンル | 民俗・宗教・文学 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 |
出版年月日 | 2015/10/15 |
ISBN | 9784894897830 |
判型・ページ数 | A5・50ページ |
定価 | 本体600円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
一 悪縁を順縁へ
1 悪縁としての母
2 仏教の道へ
3 隠遁生活
二 ミラレーパの仏教思想
1 苦しみを糧とする
2 無の現れ
3 衆生利益の意味
三 現代を生きるミラレーパ
1 ミラレーパの仮面舞踏
2 様々なミラレーパの行事
3 消えゆくチベット文化
おわりに
注・参考文献
あとがき
内容説明
民衆の尊崇を受ける聖者を、チベット人の眼差しから描く
各地を遊行し、瞑想修行に明け暮れ、大いなる悟りを得たミラレーパ。自身の体験したものの全てを宗教歌「グル」にして人々に歌い聞かせたが、その歌は魂の叫びそのものであり、聞く者の心を強く揺り動かすのである。11世紀に生きたチベットの聖者の人生と思想。
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空を飛んだだの、極寒のチベットにおいて裸で修行しただの、なんだか眉唾のような話ばかりであるが、ミラレーパとは一体誰であるのか? 彼は魔法使い、……などでは決してなく、れっきとした仏教の行者であった。彼は出家も結婚もしなかったため、僧院にも家庭にも、どこか一カ所に定住することはついになかった。財産を一切持たずに托鉢を行いながら各地を遊行して、洞窟で瞑想修行に明け暮れた。戒律は受けていないため比丘ではないが、日本で言うところの乞食坊主のような生活を送った。そして修行の結果として、大いなる悟りを得たと言われる。
本書ではチベットの聖者ミラレーパの生き方とその思想、そして現代のチベット社会に於いて彼がどのように人々に受け入れられているのかについて見てみたい。ミラレーパは一種の「狂人」であったが、彼の生き方と思想は、我々が日々受け入れている社会の既存の価値観を打ち壊し、自分自身と向き合う機会を我々に投げかける。ミラレーパは、何か難しい仏教論理を確立したわけでも、教団を築いたわけでもない。彼はただ、師から受け継いだ教えを瞑想修行の中で繰り替えし繰り返し修習したのである。そしてそこから生まれてきた自身の体験を「グル」と呼ばれる宗教歌にして人々に歌い聞かせた。その歌は、難しい論理が歌われているわけでも、綺麗な修辞が歌われているわけでもない。それはまさに、ミラレーパの経験したものの全て、魂の叫びそのものであるため、聞く者の心を強く揺り動かすのである。
本書は、チベット人の心にあるミラレーパの姿──その生涯、修行、悟り──を、そのまま表そうとしたものである。筆者もそのように、まずはありのままのチベットを理解しようと努めている。本書執筆にあたっては、いわゆる仏教学や歴史学の手続きを省き、チベット人の信ずる世界に入っていただけるよう、平易に綴ることを心がけた。本書を通して、チベット人の信仰がどのようなものか、少しでも理解して頂けたら幸いである。
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著者紹介
渡邊温子(わたなべ あつこ)
1984年、京都府生まれ。
大谷大学大学院文学研究科国際文化専攻博士後期課程修了。博士(文学)。
現在、大谷大学任期制助教。
主な論文に「ミラレーパの教示法:レーチュンパとの歌の応酬を中心に」(『日本西蔵学会々報』第58 巻)、「カギュー派の源流:マルパからミラレーパへ」(『印度學佛教學研究』第61 巻第1号)などがある