タイ現代文学覚書 44
「個人」と「政治」のはざまの作家たち
作家・編集者・研究者との対話、多くの作品の渉猟から、同時代の文学として生成する「今日のタイ文学」を俯瞰。
著者 | 福冨 渉 著 |
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ジャンル | 文学・言語 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 |
出版年月日 | 2017/12/15 |
ISBN | 9784894897939 |
判型・ページ数 | A5・76ページ |
定価 | 本体800円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
1 一〇〇冊の良書と「文学バカ」
2 日本におけるタイ文学
3 執筆の動機
一 タイ文学小史
1 プラープダー・ユンの「新しい」タイ文学と、生きるための文学
2 「創造的」な文学
3 作家たちの活動と「個人」の文学
二 二一世紀のタイ文学の潮流
1 「孤独」の文学
2 「政治」の文学
3 「個人」と「政治」のはざまの文学
三 独立系書店と地方の作家
1 バンコクの独立系書店
2 地方の作家と書店
おわりに──タイ文学のこれから
1 若手作家の諦念
2 旅に出るタイ文学
参考文献
あとがき
内容説明
海外文学としてタイ文学を読む。
同時代の文学として生成する「今日のタイ文学」を俯瞰。作家・編集者・研究者との対話、多くの作品の渉猟から生み出された本書は、おそらく世界初の「タイの現代文学史」である。
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……以上を踏まえると、本ブックレットを執筆する動機は、二つに大別できる。
一つには、タイ文学の研究者・翻訳者として、なんらかの形で、タイ文学に興味をもつ人のための手引き、見取り図となるものを書きたいという思いがある。タイ文学を学ぶ、読む、翻訳するといっても、これまで日本国内で発表されたタイ文学の研究書・入門書・教科書は、ほとんど存在しない。あってもそれは、後述する一九七〇年代までの「生きるための文学」の時代に焦点をおいたものばかりであった。それ以後のいわゆる「現代文学」について触れているものは、一部の短文や解説を除いて存在しない。
この状況は、タイ国内においても大差がない。先述のように「本を読まない社会」だといわれているタイにおいて、文学の研究は決して盛んではない。包括的な文学史といったものもほとんど書かれておらず、現代文学となると、なおのことだ。作品テクストと、断片的な論文の記述などを頼りにした上で、「タイ文学界の現代的な状況は読むことではなく、話を聞くことでしか把握できない」というある研究者の言葉の通り、さまざまな作家・編集者・研究者との交流をもつ必要がある。
その上で、もう一つの動機となりうるのは、筆者が交歓した作家たちの活動をなんらかの形で記録しておきたいという個人的な思いだ。筆者がタイに長期滞在した二〇一三年から二〇一四年は、政治的状況の激化と相まって、文学の世界にも大きな動きが見られた時期であった。その時期に、タイ社会における文学の意義について模索を続ける彼ら・彼女らと時を過ごせたことは、とても幸運なことだった。むろん、それは単なる感情的な仕事としてではなく、第一の動機と接続する形でなされるべきであろう。そういった仕事を続けていき、脚注をつけずともタイ文学を楽しむことができる状況を生み出す。それは、筆者の考える理想でもある(とはいえ、脚注や訳注の意義を否定しているわけではない)。
本ブックレットは、三つの節で構成されている。第一節はタイの現代文学を歴史的側面から記述する。第二節では、作品テクストに触れる。第三節では、その環境的側面、すなわち独立系書店と、地方の作家について述べる。なお、本文中で作品テクストから引用をおこなう場合は、煩雑さを避けるため、原書のページ数のみ表記した。……
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著者紹介
福冨渉(ふくとみ しょう)
1986年東京都生まれ。
鹿児島大学グローバルセンター特任講師。タイ文学研究者、タイ語翻訳者。
主な論文に、“เราพบกันใหม่ในความมืด และแสวงหาแสงริบหรี่แห่งความหวังด้วยกัน: ข้อสังเกตเกี่ยวกับ ‘ผู้อื่น’ และ ‘อนาคต’ จากเรื่องสั้น “แสงสลาย” ของ ปราบดา หยุ่น”〔「私たちは暗闇の中で再会し、仄かな希望の光をともに探す——プラープダー・ユンの短編『崩れる光』における「他者」と「未来」に関する一考察」〕(อ่าน ย้อนยุค, 2014)など、共著書に『アピチャッポン・ウィーラセタクン——光と記憶のアーティスト』(夏目深雪・金子遊編、フィルムアート社、2016年)など、翻訳にウィワット・ルートウィワットウォンサー「2527年のひどく幸せなもう一日」(『東南アジア文学』14号、2016年)など。批評誌『ゲンロン』でコラム「タイ現代文学ノート」の連載、プラープダー・ユン「新しい目の旅立ち」を翻訳連載中。