タイ国王を支えた人々 45
プーミポン国王の行幸と映画を巡る奮闘記
絶大だった国王の権威を生み出したものは。行幸は国民の敬愛を産みだし、「陛下の映画」により国王は「国の象徴」となった。
著者 | 櫻田 智恵 著 |
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ジャンル | 歴史・考古・言語 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 |
出版年月日 | 2017/12/15 |
ISBN | 9784894897946 |
判型・ページ数 | A5・66ページ |
定価 | 本体800円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
一 プーミポン国王とは
1 プーミポン国王の家族と突然の即位
2 プーミポンの帰国セレモニーとアメリカの思惑
二 美しき奉迎風景──その誕生
1 プーミポン国王の地方行幸
2 地方行幸はする? しない?
3 急ごしらえの初行幸
4 行幸の「成功」とは──奉迎方法の重要視へ
三 美しき奉迎風景──その展開
1 奉迎セレモニーの成功なるか?──史上初の東北部行幸
2 奉迎セレモニーの綿密な準備
3 奉迎経験を後世に伝える──プライドをかけた北部での奉迎
4 奉迎のマニュアル化──繰り返され身体化される奉迎セレモニー
四 美しき奉迎風景の美しくない舞台裏
1 膨れ上がる予算──行幸続行の危機
2 泣いた警察官──忘れ去られた下級役人たち
3 膨大な随行員の管理
4 死者の出る会議──奉迎準備に奔走する知事代理
五 「陛下の映画」がやってくる
1 「陛下の映画」とは何か
2 「陛下の映画」は誰が撮る?
3 「陛下の映画」が行く
4 「陛下の映画」の効果とゲーオクワン
おわりに
注・参考文献
あとがき
内容説明
陛下の宣伝部長とそのイメージ戦略
ぶっつけ本番だった初期の行幸。美しき奉迎風景は国民の敬愛を産みだし、「陛下の映画」により国王は「国の象徴」となった。
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……プーミポン国王は一九四六年に即位し、一九五〇年に戴冠式を挙行して、正式に王位についた。一七八二年に始まるラッタナコーシン朝第九代の国王である。即位当初、国王の権威は現在では想像し難いほどに低かった。一九三二年、人民党が起した立憲革命で、絶対王政を否定した影響が続いていたためである。タイ国内に居住すらしない国王が続き、プーミポン国王は、タイ国内で公務を行った実質的には初めての国王となった。国民にとっては国王の存在感は乏しく、地方では国王の顔すら知られていなかった。
プーミポン国王の最初の課題は、自身の存在を国民に知らしめることだった。冒頭のたとえ話は、このような状況下で起こった出来事である。社長が地方支店を視察する。それには随行する幹部や予算が必要であり、何より支店長である「あなた」の懸命な働きが無ければ「実りある視察」は実現しない。
本書の主役は、そのように人知れず奮闘してきた「現場の人」たちである。プーミポン国王本人については、個人的な能力や、歴代の首相らとの関係性など、豊富な研究の蓄積がある。しかし、彼の側近についてはほとんど知られていない。本書では、プーミポン前国王のイメージ形成に寄与した側近や役人の働きに焦点を当て、プーミポン前国王の絶大な権威確立までの奮闘の様子を描き出す。
本書では、プーミポン前国王の七〇年におよぶ治世のうち、特に一九五〇〜六〇年代について論じる。前国王の権威は、一九七三年に初めて政治に介入し、その混乱を収めたことで確立したとされる[玉田 二〇一三:一八―一九]。六〇年代は、その前段階として前国王の存在感を民衆の間に根付かせるために重要な時期であり、そのイメージ形成に向けた模索期でもあった。この時期に着目することは、プーミポン前国王の最も初期のイメージ戦略を知る上で不可欠である。
本書の全体の流れを紹介しておこう。
まず、はじめにでは基本知識をおさえる。プーミポン国王の略歴や、一九五〇年代のタイを取り巻く国際情勢を概観する。第一節と第二節は、プーミポン国王の治世を特徴づけた、地方行幸が主題である。まず第一節では、タイ各地で国王の行幸がどのように演出され、君主と大勢の民衆が相対する美しく華やかな奉迎の場が完成していく過程を見ていく。第二節では、華やかな行幸の舞台裏を支えた役人たちに焦点をあて、その苦闘ぶりを描き出す。第三節では、行幸と並び国王イメージの流布に決定的な役割を担った「陛下の映画」を取り上げる。内容や宣伝方法、そしてプーミポン国王の宣伝部長ともいえる人物の活躍についてみていくこととする。……
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著者紹介
櫻田智恵(さくらだ ちえ)
1986年生まれ。
タイ研究、歴史学(現代政治史)が専門。上智大学グローバル・スタディーズ研究科博士前期課程修了、京都大学 アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程を指導認定退学。現在、同研究科 特任研究員。2012年〜2014年にタイ王国 チュラーロンコーン大学文学部に留学。
直近の著作に、「論稿 タイ・プーミポン国王の崩御とこれから――問われる皇太子のメディア戦略」(Adademic journal SYNODOS、2016年)、「プーミポン前国王による初期行幸と奉迎方法の確立――「一君万民」の政治空間の創出」(小林基金2015年度研究助成論文 小冊子、2017年7月刊行) など。
翻訳本に、チラナン・ピットプリーチャー著、四方田犬彦・櫻田智恵共訳『消えた葉』(港の人、2017年1月発行予定)。