そして人生は続く 別巻13
あるペルシャ系ユダヤ人の半生
イランで生い立ち、革命、戦争、そしてパキスタンからイスラエルへの決死行。「約束の地」での暮らしは。激動と波乱の人生を聴く。
著者 | 辻 圭秋 著 |
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ジャンル | 歴史・考古・言語 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 > ブックレット〈アジアを学ぼう〉別巻 |
出版年月日 | 2017/12/15 |
ISBN | 9784894897991 |
判型・ページ数 | A5・66ページ |
定価 | 本体800円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
一 本書の理解のために
1 中東系ユダヤ人小史
2 イラン・ユダヤ・イスラエル
二 革命前のイランに生まれて
1 エスファハーンとユダヤ人
2 家族・学校・言語
3 ムスリムの学校に編入
4 差別・反ユダヤ主義
5 音楽
三 革命、戦争、そして脱出
1 革命
2 戦争と結婚
3 脱出を決意する
4 闇に潜んで山を越える
5 パキスタンからイスラエルへ
四 乳と蜜の流れる約束の地にて
1 移民収容センターにて
2 ヘブライ語のクラスにて
3 イスラエル社会へ飛び込む
4 ユダヤ系イラン人から、ペルシャ系ユダヤ人に
おわりに
注・参考文献
あとがき
内容説明
ユダヤ系イラン人の半生
イランで生い立ち、革命、戦争、そしてパキスタンからイスラエルへの決死行。「約束の地」での暮らしは。激動の歴史以上の波乱の人生を聴く。
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……(前略)
辻:イランにいた時と、イスラエルで暮らし始めた頃と、アイデンティティーは変化しましたか?
ダリア:イランにいた時は自分はユダヤ人である、という意識が強かったのですが、イスラエルに来て以来、自分のペルシャ性に大変自覚的になりました。今までよりもさらにイラン出身であることに誇りを持つようになりました。私はゾロアスターの時代より続く偉大なイラン文化、ペルシャ文化の担い手です。私にとってはユダヤ人であるのと同じくらい、ペルシャ系であることは重要です。
辻:ユダヤ人としてのディアスポラ(離散の状態)から、今度は再びペルシャ系としてのディアスポラが始まったのですね。
ダリア:はい。やはり社会の中のマイノリティーでいるとアイデンティティーに自覚的になってくると思います。故郷のエスファハーンのユダヤ人は、ここイスラエルでの千倍くらい、ユダヤ人であることを意識し、大事にして守ろうとしていましたね。私はイスラエルに来て改めてペルシャ文化を自分で学びたいと思い、勉強を始めました。たとえば詩です。知っての通り、私たちペルシャの民は詩の民です。
(中略)
おわりに
ダリアとの対話は、以上である。残念ながら紙幅の都合で本書に採用できなかったエピソードは数多くあるが、興味深いと思われるものを採用したつもりである。本書の中核部分は以上なのだが、一点だけ本書の聞き取り調査の意義を指摘しておきたい。筆者も聞き取りの際に大変衝撃的だったことなのだが、ダリアはユダヤ系の学校に通っていたにも関わらず、イスラエルという「ユダヤ人国家」が存在することを知らなかった。さらに、イスラエルに着いてから初めてホロコーストという歴史的事実を知る。イランに残っている彼女の姉は二〇〇〇年代中盤までそのことを知らずにいた。
その事実が筆者にとって衝撃的だったのは、「そのようなユダヤ人はいるわけがない」という筆者の勝手な思い込みがあったからである。イスラエル人とユダヤ人が、そしてヨーロッパのユダヤ人史及びそれに深く関連するイスラエル史と彼女たちの歴史が、筆者の頭の中で綺麗に切り離された瞬間だった。西洋近代や、それが生んだイスラエルと無関係・並行的に存在する、個別のユダヤ史。それを今も生き続けるダリアの姉。そのイランからイスラエルへと脱出避難し、西洋近代やイスラエルと邂逅を果たすものの同化に困難を覚え、しかし新しいディアスポラで生きる覚悟をしたダリア。
……(後略)
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著者紹介
辻 圭秋(つじ よしあき)
1983年、大阪府八尾市生まれ。同志社大学神学研究科博士課程単位取得満期退学。主要業績に、「S.D. Goiteinのイスラーイーリーヤート理解─一神教研究の観点から」『一神教世界』2010年、第1号、「イエメン・ユダヤ詩の作詩技法d──ジャワーブとその分類」『一神教世界』2015年、第6号など。