『十善福白史』と『輝かしい鏡』
オルドス・モンゴルの年代記
オルドス・モンゴルに伝わる貴重な年代記2点の影印版に詳細な解説を付す。チンギス・ハーン祭祀などの基礎資料。
著者 | 楊 海英 編 |
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ジャンル | 書誌・資料・写真 |
シリーズ | モンゴル学研究基礎資料 |
出版年月日 | 2018/03/20 |
ISBN | 9784894898745 |
判型・ページ数 | B5・120ページ |
定価 | 本体1,500円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
1.従来の研究
2.モンゴル社会内のホトクタイ・セチェン・ホン・タイジ
参考文献
『十善福白史』Qoyar yosun-u dörben törü-yin arban buyan tu nom-un čaγan teüke orusiba
『輝かしい鏡』Gegen Toli
内容説明
オルドス・モンゴルに伝わる貴重な年代記2点の影印版に詳細な解説を付す。チンギス・ハーン祭祀などの基礎資料。
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序文
2002年、私は南モンゴルのオルドス出身の知識人オーノス氏(1929-2010,写真1 オルドス・モンゴルの知識人、著名な写本収集家オーノス氏)が保管していたモンゴル語の写本類の一部をカタログの形で公開した。その中に、私が「歴史」のジャンルに分類した写本群には『十善福白史』(Qoyar yosun-u dörben törü-yin arban buyan tu nom-un čaγan teüke orusiba)も含まれ、No.35にカウントしていた。写本は、「雙盛合造 一本萬利」というシナ製の古い便箋を二つ折りにし、糸で左綴じした冊子である。大きさは24.2cm×26.3cmで、一ページに毛筆で12行書き、計14枚ある。筆跡は美しい。扉ページには「門克吉慶」という赤い判子が押してあるが、おそらくムンクチチクというモンゴル人の漢字名であろうが、それがどんな人物なのか、ついにオーノス氏に確認することはできなかった(楊 2002:156)。オーノス氏は私の叔父で、2010年に他界した。亡くなる前に、『十善福白史』の公開を私に託したので、今回、写真版の形で公にすることにした。
もう一冊は『輝かしい鏡』(Gegen Toli)である。こちらは私が2002年にオルドスのオトク前旗のモンゴル学者ソノム(Sonom)氏が保管しているゼロックス・コピーを譲り受けたものである。元々はオルドスのウーシン旗西部にあるシベル寺(Siber Süme)の僧ロンルブ(Lhünrüb,写真2 シベル寺の僧ロンルブ。写真には「32歳の時に、私ロンルブ楡林にて」(γučin qoyar nasun-a Lhünrüb minu beye Temegetü-dü)とある。撮影の年代不明。)が1954年に内モンゴル社会科学院に提供したものである。ソノム氏は1995年に同年代記を現代の正字法に準じて整理・校注して出版している(Sonom 1995:4-35)が、オリジナルを影印で示していなかったので、今回、併せて写真版で上梓することにした。この二つの年代記を一緒に公開した理由は、前者はホトクタイ・セチェン・ホン・タイジ(1540-1587)が編集に関わったとされていることと、後者はそのホトクタイ・セチェン・ホン・タイジの主要な事績(ündüsülel-ün čadiγ)を描いているからである。この二つの年代記を生んだオルドス・モンゴル人も両者の内容が密接につながっていると理解している。
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著者紹介
楊海英(Yang Haiying)
日本国国立静岡大学人文社会科学部教授。専攻、文化人類学。
主な著書
『草原と馬とモンゴル人』(日本放送出版協会,2001年)
『チンギス・ハーン祭祀―試みとしての歴史人類学的再構成』(風響社,2004年)
『モンゴル草原の文人たち―手写本が語る民族誌』(平凡社,2005年)
『モンゴルとイスラーム的中国―民族形成をたどる歴史人類学紀行』(風響社,2007年)
『モンゴルのアルジャイ石窟―その興亡の歴史と出土文書』(風響社,2008年)
『墓標なき草原―内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(上・下,岩波書店,2009年,第十四回司馬遼太郎賞受賞)
『続 墓標なき草原―内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(岩波書店,2011年)
『植民地としてのモンゴル―中国の官制ナショナリズムと革命思想』(勉誠出版,2013年)
『中国とモンゴルのはざまで―ウラーンフーの実らなかった民族自決の夢』(岩波書店,2014年)
『ジェノサイドと文化大革命―内モンゴルの民族問題』(勉誠出版,2014年)
『チベットに舞う日本刀―モンゴル騎兵の現代史』(文藝春秋,2014年,第十回樫山純三賞受賞)
『日本陸軍とモンゴル―興安軍官学校の知られざる戦い』(中公新書,2015年,国基研・日本研究賞受賞)
『逆転の大中国史』(文藝春秋,2016年)
『モンゴル人の民族自決と「対日協力」―いまなお続く中国文化大革命』(集広舎,2016年)
『「中国」という神話』(文春新書,2018)