思想史的観点からみた東アジア
日本や朝鮮儒学の詳細な検討により、東アジア思想史をダイナミックな相互関係として再構築した好著。
著者 | 黄 俊傑 著 藤井 倫明 訳 |
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ジャンル | 歴史・考古・言語 |
シリーズ | アジア・グローバル文化双書 |
出版年月日 | 2018/09/30 |
ISBN | 9784894892507 |
判型・ページ数 | 4-6・272ページ |
定価 | 本体2,500円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
第一章 東アジア近世の思想交流における概念の類型とその移動
第二章 東アジアという視点から見た中国の歴史思惟におけるキーワード
第三章 中・朝の歴史における儒教知識と政治権力の関係
第四章 朝鮮時代の君臣間の対話における孔子と『論語』
──論述の脈絡と政治作用
第五章 東アジアの世界から見た江戸時代の儒者の倫理学的立場
第六章 石介と浅見絅斎の「中国」論述とその理論的基礎
第七章 東アジアの儒教的教育哲学が二一世紀にもたらすもの
第八章 王道文化と二一世紀における大中華の道
第九章 孫文の思想とその二一世紀における意義
第一〇章 思想史的観点から考える東アジア研究の方法論
──山室信一理論の再検討
訳者あとがき
索引
内容説明
儒学は過去のものではない。今も東アジア共通の文化基層をなし、各国を動かす大きな思想底流である。本書は、「華夷秩序」的構図を日本や朝鮮思想史の詳細な検討により廃し、東アジア全体のダイナミックな相互関係として再構築。儒学研究をリードし続ける著者の最新業績。
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自序より
本書『思想史の観点から見た東アジア』は、筆者が、近年進めてきた東アジア思想史研究の成果としての短編論文一〇篇を集めて一書にまとめたものである。それぞれの論文のテーマは、互いに独立したものであり、その中には、筆者が近年進めてきた東アジアの儒者の「仁」学に関する研究の上で出会った多くの問題を解決するために著されたものもあるが、ここにそれらを集めて論文集の形で出版することにした。本書を出版するに当たり、各章の要旨を説明して、読者諸賢の便に供したい。
二一世紀に入ってからも世界情勢は混乱し、不安定な状況が続いている。アジアの台頭という新時代の潮流の中、東アジア各国の人文研究には、互いに補い合いながらも、また互いに揺さぶり合う二つの研究方法が出現している。まず、長い歴史を持つ国家を枠組みとする国別の研究が継続して発展しているが、その一方で、東アジアを視野とし、東アジアを一つの区域とする新たな研究が出現し、勢いよく発展を遂げつつある。
(中略)
近年、東アジアを「接触空間」と見なす思想史論著がたくさん世に出ているが、その中で、山室信一(一九五一─)氏の理論は、特に傾聴に値するものであろう。そこで、第一〇章では、山室氏が提唱している東アジア「空間」を「思想」とする研究アプローチとその可能性という問題について検討を加えた。
総じて、思想史的観点から見た東アジアという空間は、それを映像に例えれば、モノクロではなくカラー映像であった。儒教の伝統は、東アジア思想交流において一貫して主流の地位を占めていたが、儒教以外の思潮(仏教など)も逆巻いており、「万山、一渓の奔を許さず」という光景を呈していた。また中国の儒学が朝鮮半島や日本に伝わると、儒教の伝統は、東アジアにおいて新たな解釈を施されて日々新たな変貌を遂げ、中・日・朝・ベトナムなど異なる時代、地域の国君と儒臣が古代儒教経典に現代政治的な意味合いを読み込み、経典中から現実政治と関わるインスピレーションを得ていた。さらに異なる学派の思想家が対話に参与し、新たな解釈を提出した。哲学的立場を異にする各国の儒者が経典を閲読したわけで、そこには当然激しい、主客の衝突という場面も見られた。
山室信一氏の言う「創り出されたアジア」(「与えられたアジア」に対して言う)の形成と発展の過程において、「東アジア」地域は、実際にはさまざまな声で賑わっている劇場であり、決して単一国家によって指揮されている交響曲ではなかった。一七世紀以後、東アジア各国において主体性が次第に形成され、たくましく成長していったが、東アジア各国は儒学・仏教・漢字・中国医学など共通の文化要素を分かち合っており、歴史の地平線において、「東アジア」という概念は東アジア各国の人民の交流の中に存在しており、各国人民から遊離した抽象的概念ではなかった。
東アジアの思想及び文化の主流としての儒教的価値体系は、一貫して東アジア各国の知識人と庶民大衆が共に享受した精神的資産であり、決して少数のエリートや権力階級によって牛耳られたイデオロギーではなかった。儒教の「王道文化」のエッセンスは、まさにこの点にあると言えるであろう。……
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著者紹介
黄俊傑(Huang, Chun-chieh/こう しゅんけつ)
1946年、中華民国(台湾)高雄県生まれ。
国立台湾大学歴史学科学士(1969)、同大学院修士(1973年)、ワシントン大学(シアトル)大学院歴史学部博士(1980年)。台湾大学人文社会高等研究院院長、中華民国通識(大学教養教育)学会理事長などを経て、現在、台湾大学特聘講座教授(Distinguished Chair Professor)、文徳書院院長、中央研究院中国文哲研究所学術諮問委員。
専攻は東アジア儒学、大学教養教育、戦後台湾史など。
日本語の著作には『台湾意識と台湾文化:台湾におけるアイデンティティーの歴史的変遷』(東方書店、2008年)、『東アジアの儒学:経典とその解釈』(ぺりかん社、2010年)、『東アジア思想交流史:中国・日本・台湾を中心として』(岩波書店、2013年)『徳川日本の論語解釈』(ぺりかん社、2014年)、『儒家思想と中国歴史思惟』(風響社、2016年)、『儒教と革命の間』(集広社、2018年)などがある。
訳者紹介
藤井倫明(ふじい みちあき)
1971年、愛知県生まれ。
愛知教育大学教育学部国語科卒、九州大学大学院文学研究科修士課程修了、同大学院博士課程修了。博士(文学)。
中華民国(台湾)立徳管理学院応用日語学系助理教授、雲林科技大学漢学資料整理研究所助理教授、台湾師範大学国際漢学研究所助理教授、同大学東亜学系副教授などを経て、現在、台湾師範大学東亜学系教授。
専門は宋明思想、東アジアの朱子学。
著書に『朱熹思想結構探索:以「理」為考察中心』(台大出版中心、2011年)、訳書に黄俊傑著『東アジアの儒学:経典とその解釈』(ぺりかん社、2010年)、黄俊傑著『東アジア思想交流史:中国・日本・台湾を中心として』(共訳、岩波書店、2013年)などがある。