韓国朝鮮の文化と社会 17
特集=病いと医療 をはじめ、人類学・歴史学の論文、資料、エッセイ。
著者 | 韓国・朝鮮文化研究会 編 |
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ジャンル | 定期刊行物 |
シリーズ | 雑誌 > 韓国朝鮮の文化と社会 |
出版年月日 | 2018/10/15 |
ISBN | 9784894899674 |
判型・ページ数 | A5・194ページ |
定価 | 本体3,500円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
〈問題提起〉 秀村研二
〈特集論文〉
朝鮮時代の疾病と医療観
――天人相関の視点から 野崎充彦
現代韓国社会における医療の構図
――がん治療をめぐる事例から 澤野美智子
論文
『槿域書画徴』制作の意図とその意義 金 貴 粉
研究ノート
朝鮮初期の財政制度と鄭道伝 六反田 豊
書評
伊藤亜人著『北朝鮮人民の生活 脱北者の手記から読み解く実相』 文 聖 姫
本の紹介
『本の未来を探す旅 ソウル』 辻野裕紀
ひろば/マダン
韓国学界における遺民墓誌研究の現況――最近刊行された資料集の比較を中心に 植田喜兵成智
共同体(コンドンチェ)を考える――二編の民族誌から 本田 洋
エッセイ
訪忘憂亭記――朝鮮士人と亭子文化 長森美信
ある文化財指定をめぐって 秀村研二
彙報
編集後記
韓国・朝鮮文化研究会会則
英文目次・ハングル目次
執筆者一覧
内容説明
特集=病いと医療
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【問題提起】特集「病いと医療」について 秀村研二 より
本号の特集「病いと医療」は、二〇一七年一一月四日に神田外語大学を会場として開催された韓国・朝鮮文化研究会第一八回研究大会における同名のシンポジウムの成果をまとめたものである。このシンポジウムの企画の最初の出発点は、『韓国朝鮮の文化と社会』第一五号に掲載された野崎充彦氏による申東源著の『コレラ、朝鮮を襲う――身体と医学の朝鮮史』の書評[野崎 二〇一六]に触発されたことに始まる。病いというものは人間にとっては身近で避け得ないものである。その普遍的に持たざるを得ない宿命に対し、韓国朝鮮社会がどのように病いを認識し、対処しようとしてきたのか、また近代に入りそれがどのように変化したか、病いを扱う医療がどのように対処しようとしたかなどについて歴史的、文化的側面から検討することを意識して企画された。
伝統社会においては、病いは病気にかかった個人においてもまた周囲の家族や社会においても、まずは「語られるもの」としてあった。そこでは、どんな症状が病いとして認定されるのか、またそれは誰がするのか、治すには何をしなければならないかが問題となる。またその判定が一定であるわけでもない。つまり病いの「語り」は明確に境界付けられていないある範囲の中でおこなわれていたとみなすことができよう。それに対して近代医療では、概ね病気を心身二元論の立場から機械的に身体を取り扱い、疾患の原因をはっきりとさせ取り除こうとする傾向が強い。そして近代医療と伝統医療の間にはさまざまなバリエーションが存在するであろう。
朝鮮の伝統社会、とくに朝鮮王朝期には中国の影響を受けつつも独自の病気の理解の体系化がおこなわれていた。それは独自性を認識し、それによって医薬の需要が増大した点に現れる[申東源 二〇一五:二七九]。一四四五年には東アジアの医学を集成した『医方類聚』が完成する。さらに許浚によってまとめられた『東医宝鑑』によって朝鮮の医療は深化し、「病気の医療と予防、健康増進を同じ水準で見わたせるようにした」[申東源 二〇一五:二八六]ことにより養生の伝統と医学の伝統とが統合された。心身を体系的に理解しようとした『東医宝鑑』は朝鮮だけではなく、朝鮮の医療が手本としていた中国やまた日本でも高く評価された。
一方、庶民の間では巫俗の病因論による呪術的な儀礼(クッ)がムーダンたちによっておこなわれていた。様々なハン(恨)によって引き起こされる病気をハンプリ(恨解き)によって治療しようとするもので、庶民たちの信仰を集めていた。現在でもその伝統は継続していて、近代医療で説明のつかない病気に対して巫俗儀礼が一定の役割を果たしている。
例えば祈祷院というキリスト教周辺の施設のなかに病気治しを専門的におこなう場所があった。特に医療保険制度がよく整備されていなかった解放後から一九九〇年代半ば頃まで、専門的に病気治しをおこなう祈祷院では、伝統的な巫俗の病因論とキリスト教が融合して治療がおこなわれており、一種のホスピスのような様相をみせていた。そのような祈祷院では「病にかかったのは悪霊のせい」とされ、ハンを抱いた死者である鬼神の憑依との混同という点で巫俗との類似が見られるという指摘がなされてきた。一九九〇年代になると祈祷院での病気治しはキリスト教会の主流から異端との判定を受けたり社会的な批判を受けて、神の恩寵で病いが癒やされるという側面が強調されるようになった[秀村 一九九六:一八六―一八七]。このように祈祷院ではキリスト教と巫俗的な要素とが融合した様相がみられた。
『東医宝鑑』にみられるような長い医学の伝統と独自の説明体系を持っていた朝鮮社会と近代的な西洋医学との出会いは興味深い。両者がどのように出会い、近代西洋医学がどのように解釈され定着していったのか。一方で伝統的な医学はどのような自己認識をしたのであろうか。日本による植民地の前にキリスト教の宣教団体を中心として導入された西洋の医療、植民地期に整備された帝国の医療制度や衛生制度と伝統的な医療は如何に関係し合ったのだろうか。医療や衛生をめぐる問題は植民地研究の大きな問題として注目されている。
一方で民間信仰でムーダンが病気治しのためにおこなうクッは単に迷信として抑圧されるだけだったわけではない。現在まで巫俗の治病儀礼が持続しているのをみるとき、その原動力は何であるのかについて問われなくてはならない。
本号に掲載した二つの特集論文はいずれもシンポジウムの報告者によるものである。ただしシンポジウムで報告されたままではなく、当日の議論を踏まえて加筆修正がなされたものを寄稿して頂いた。
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執筆者一覧(掲載順)
秀村研二 明星大学人文学部 教授
野崎充彦 大阪市立大学大学院文学研究科 教授
澤野美智子 立命館大学総合心理学部 准教授
金 貴 粉 国立ハンセン病資料館 主任学芸員
六反田 豊 東京大学大学院人文社会系研究科 教授
文 聖 姫 『週刊金曜日』記者・編集者、博士(文学)
辻野裕紀 九州大学大学院言語文化研究院 准教授
本田 洋 東京大学大学院人文社会系研究科 教授
植田喜兵成智 学習院大学東洋文化研究所 助教
長森美信 天理大学国際学部 教授