ルワンダの今 別巻20
ジェノサイドを語る被害者と加害者
重いわだかまりを、人間はどう乗り越えるのだろうか。アフリカならではの方法を見つめ、隣人たちの心の葛藤とその背景に迫る。
著者 | 片山 夏紀 著 |
---|---|
ジャンル | 人類学 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 > ブックレット〈アジアを学ぼう〉別巻 |
出版年月日 | 2020/10/15 |
ISBN | 9784894892859 |
判型・ページ数 | A5・54ページ |
定価 | 本体600円+税 |
在庫 | 在庫あり |
ネット書店を選択 |
---|
目次
一 ルワンダってどんな国?
1 概略
2 民族
3 革命、内戦、ジェノサイド、終結後
4 ガチャチャ裁判概要
二 人間関係をとりもつバナナビール
1 ジェノサイドで大量に飲まれたバナナビール
2 家庭で作るバナナビール
3 人間関係に一役買うバナナビール
4 生活に馴染むバナナ
三 調査地での聞き取り
1 聞き取りの難しさ
2 加害者への聞き取り
3 聞き取り内容と裁判記録の照合
4 責任を取り続ける加害者
5 理不尽な境遇の被害者
四 交流を重ねる被害者と加害者
1 被害者の過酷な人生
2 加害者の犯した罪
3 関わり続けていく被害者と加害者
4 まとめ
五 賠償を支払う加害者家族
1 ガチャチャ裁判
2 賠償の実際
3 賠償をめぐる交渉
4 まとめ
おわりに
参考文献
あとがき
内容説明
重い口を開く当事者に寄り添う
長い歳月を経ても残るわだかまりを、人間はどう乗り越えるのだろうか。現地には、バナナビールやガチャチャ裁判といったアフリカならではの方法があった。隣人たちの心の葛藤とその背景に迫る、渾身のフィールドワーク。
*********************************************
…… 二〇一四〜二〇一六年までの二年間ルワンダに滞在し、三つの調査地に住み込みながら五つの村で聞き取りを行った。論文や一般書でルワンダのジェノサイドについて情報を集めてきたが、ジェノサイドに巻き込まれた人々から直接話を聞き取ると、一人一人から語られる当時の状況や心情や終結後の生活は、筆者の想像を絶するほど凄惨で過酷なものであった。
ジェノサイドに巻き込まれた被害者は、二度と戻らない家族の記憶や、受けた暴力の傷を背負い続けて生きている。ジェノサイドに関与した加害者や加害者家族は、刑や賠償で罪を償い続けている。このような被害者と加害者は、ジェノサイド以前から相続されてきた土地や家を手放さずに村に留まり、今も関わり合って生活している。
本書は、そのような現状での被害者と加害者の関わり方を考察してきた。被害者と加害者の中には、頻繁に交流を重ねている者もいれば、友人関係から被害者と加害者の関係に変わって以前のように交流できなくなった者もいる。
聞き取りによれば、昔は牛や土地を贈り合うことが深い友情の証であり、皮膚を切って血を飲み合い契約を結んだ者同士が財産を共有した。このような血を飲み合う契約は、ルワンダ語でクニュワナと呼ばれる[Ingeraere 2016: 157]。
しかし、このように親密な関係であった者同士でも、ジェノサイド以降は被害者と加害者という重くのしかかる記憶を引きずりながら生活していかなければならない。
調査に協力してくれた神父によれば、ある被害者が「加害者を赦したいが赦せない」と悩みを打ち明けたことに対して、次のように説いたという。加害者と顔を合わせることに耐えられず村を離れる被害者も多い中で、村に留まり加害者と共に生活できていることで「和解」は七割方達成されているのだと。
この調査で聞き取りを行った当事者たちの多くも、訪ね合う、農作業を手伝い合う、結婚式に招き合うことを「和解」と捉えているようだ。筆者としては、深い関わりであろうと浅い関わりであろうと、被害者と加害者がジェノサイドの現場に住み、共に生活していくことを「和解」と捉えたいと思う。
……
*********************************************
著者紹介
片山夏紀(かたやま なつき)
1987年、長崎県生まれ、大阪府育ち。
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻「人間の安全保障」プログラム博士課程在籍。
主な論文に「ガチャチャ裁判が命じた賠償をめぐる当事者の交渉――ルワンダ・ジェノサイドに関連する罪の赦しと和解」(『アフリカレポート』2019年、第57巻、22〜33頁)、「『ジャガイモをおいしくするもの』――笑いを誘うルワンダ詩」(『スワヒリ&アフリカ研究』2020年、第31号、1〜16頁)などがある。