ホーム > 徐福伝説と民俗文化
目次
序文 (小熊 誠:神奈川大学教授)
まえがき
序章
一 問題提起
二 研究目的
三 先行研究と本書の視点
四 調査地域と研究方法
五 本書の構成
第一章 文献から見る徐福伝説
はじめに
一 『史記』に登場した徐福
二 史料から見る徐福東渡伝説の変容
おわりに
第二章 東アジアにおける徐福伝説の現在
はじめに
一 中国の徐福伝説
二 韓国の徐福伝説
三 日本の徐福伝説
おわりに
第三章 青森県中泊町の徐福伝説に関する民俗文化
はじめに
一 調査地概要
二 青森県中泊町の徐福ゆかりの地とその伝説
三 「中泊徐福まつり」の構造
四 中泊町の徐福伝説に関する民俗文化
おわりに
第四章 和歌山県新宮市の徐福伝説に関する民俗文化
はじめに
一 調査地概要
二 徐福公園にある徐福伝説を語る事物
三 徐福伝説と熊野信仰との関連
四 新宮市の徐福顕彰活動の形成と変遷
五 「熊野徐福万燈祭」の構造
六 新宮市の徐福伝説に関する民俗文化
おわりに
第五章 佐賀県佐賀市の徐福伝説に関する民俗文化
はじめに
一 佐賀市徐福伝説の概要
二 佐賀市の徐福ゆかりの地とその伝説
三 一九八〇年金立神社例大祭の構造
四 佐賀市の徐福伝説に関する民俗文化
おわりに
終章
一 日本における徐福伝説の形成
二 徐福伝承地の特徴
三 徐福伝説の時代における特徴
四 徐福伝説の現代的役割
五 今後の課題
あとがき
参考文献
写真・図・表一覧
索引
まえがき
序章
一 問題提起
二 研究目的
三 先行研究と本書の視点
四 調査地域と研究方法
五 本書の構成
第一章 文献から見る徐福伝説
はじめに
一 『史記』に登場した徐福
二 史料から見る徐福東渡伝説の変容
おわりに
第二章 東アジアにおける徐福伝説の現在
はじめに
一 中国の徐福伝説
二 韓国の徐福伝説
三 日本の徐福伝説
おわりに
第三章 青森県中泊町の徐福伝説に関する民俗文化
はじめに
一 調査地概要
二 青森県中泊町の徐福ゆかりの地とその伝説
三 「中泊徐福まつり」の構造
四 中泊町の徐福伝説に関する民俗文化
おわりに
第四章 和歌山県新宮市の徐福伝説に関する民俗文化
はじめに
一 調査地概要
二 徐福公園にある徐福伝説を語る事物
三 徐福伝説と熊野信仰との関連
四 新宮市の徐福顕彰活動の形成と変遷
五 「熊野徐福万燈祭」の構造
六 新宮市の徐福伝説に関する民俗文化
おわりに
第五章 佐賀県佐賀市の徐福伝説に関する民俗文化
はじめに
一 佐賀市徐福伝説の概要
二 佐賀市の徐福ゆかりの地とその伝説
三 一九八〇年金立神社例大祭の構造
四 佐賀市の徐福伝説に関する民俗文化
おわりに
終章
一 日本における徐福伝説の形成
二 徐福伝承地の特徴
三 徐福伝説の時代における特徴
四 徐福伝説の現代的役割
五 今後の課題
あとがき
参考文献
写真・図・表一覧
索引
内容説明
秦の始皇帝の命により不老不死の仙薬を求め東海へ出航したとされる徐福。青森・和歌山・佐賀に残る伝承と現在の評価から、東アジアの民俗文化の根源に迫る。注目の論考。
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中国と日本は、東アジアに属する一衣帯水の隣国である。両国の人間交流は遥かな古代にまで遡り、現在も続いている。千年以上の中日文化交流史を顧みると、中日間を往復した人間には、遣唐使に代表される入華者と、鑑真らを代表とする入日者がいる。彼らにまつわる史料や日記には、当時の交流の様子が生き生きと描き出されている。遣唐使は「地獄の門」といわれる航路を乗り越え、唐帝国の政治制度や文物などに学ぶため西渡した。だが、航海術が未熟の時代には、さまざまな困難と危険がつきまとっていた。そのことについては、中国の歴史資料や、日本の僧侶である円仁の『入唐求法巡礼行記』などに詳細な記述がある。このような厳しい状況の中で、鑑真は何回もの渡海失敗にもめげず、万里の波濤を乗り越え、自らの弟子と共に来朝した。彼は律宗を日本で広める理想を持ち、弘法のため不惜身命の思いに燃えていたのである。
このような事象は、史料に記録され、建築などで追跡できる事例である。一方、中日交流の佳話として、古くから両国の民間や知識人の間で論じられてきた事例もある。徐福とその伝説は、中日文化交流の美談として語られてきた。これは従来から、東アジアを中心に、歴史・文学・伝説に関わる話題として盛んに取り上げられてきた。このことの歴史的真偽は、不明である。だが、中国・韓国・日本の各地には、徐福に関するさまざまな伝承が残っており、徐福東渡伝説は伝奇色を強め、神秘性を増大させている。
本書では、日本における徐福伝説を中心に、それに関わる民俗文化の展開や役割などを考察した。日本の徐福渡来伝承地に着目し、徐福伝説を懸け橋として東アジアとの交流を探った。まず、歴史資料や筆談資料、日記などの整理を行い、各地域で実地調査を実施した。それらを基に、徐福伝説とそこから生じた祭祀活動や民俗文化などを研究対象として、徐福とその伝説の位置づけを考察した。本書では、歴史学的なアプローチと民俗学的なアプローチという二つの分析方法を採用した。
徐福とその関連文化は、古くから東アジアの文人たちが争って議論してきた話題の一つである。徐福を懸け橋として展開してきた友好交流は、現在も行われている。近年では、徐福故里海洋文化節、国際徐福文化節、徐福文化と海上シルクロード国際学術シンポジウム、徐福映画などの開催と上映が、中国・韓国・日本で相次いでいる。これら徐福をテーマとした文化活動は、三国の徐福文化に対する共感を強め、東アジア諸国の文化交流を促進させている。
現代の徐福伝説は、中国・韓国・日本の各徐福伝承地で活用されている。伝説は、これらの地域間の絆を深め、地域社会の活性化にもつながっている。特に、近年この三国が共同で開催した徐福国際シンポジウムでは、東アジアの徐福東渡伝説を世界無形文化遺産に登録しようとする声が高まった。徐福伝説は、中国・韓国・日本を有機的に接続し、文化・観光・政治などの面で大いに利用されている。こうした伝説を、東アジアの国際的な視点から研究を展開することは、非常に有意義なことであると思われる。
歴史を鑑とし、時代と共に進むことは大事なことである。本書では、歴史資料と民間伝承を結びつけ、歴史学的なアプローチと民俗学的なアプローチを試みた。この二つのアプローチを統合し、徐福伝説とそれに関する民俗文化の研究を行った。特に、「中日韓文化協力」という時代背景の下、改めて歴史・伝説・文学などの分野で話題となった徐福伝説に関する研究を展開することは、今の時代の流れに合っているといえる。それだけでなく、中国・韓国・日本の三国の文化的アイデンティティを向上させることにもつながるであろう。
本書では、各徐福伝承地でフィールドワークを行い、現時点での徐福に関する民俗文化に着目した。そして、徐福伝説と人々との生活の結びつきを考察した。また、歴史書に記された徐福記録と民間に伝承された徐福伝説の比較分析から、その時代ごとの変化や特性などを論じた。
本書においては、いくつかの仮説を提出した。今後のご批判、ご教示を切にお願いしたい。最後に、本書がこれからの中国・韓国・日本の文化交流や、三国の友好発展に寄与できれば幸いである。
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著者紹介
華 雪梅(か・せつばい Hua Xuemei)
1990年、中国山東省生まれ。
2019年、神奈川大学歴史民俗資料学研究科 歴史民俗資料学専攻博士課程修了。博士(歴史民俗資料学)。
2020年1月より江蘇理工学院外国語学院講師。
主要論文に、「宋代来華日僧筆談述略」(『東亜的筆談研究』王勇編、浙江工商大学出版社、2015年)、「和歌山県新宮市における徐福伝説について ―「熊野徐福万燈祭」を中心に」(『歴史民俗資料学研究』第24号、2019年)、「徐福伝説と航海信仰に関する一考察―青森県中泊町小泊村を事例に」(『青森県の民俗』第14号、2019年)、「佐賀県佐賀市における徐福ゆかりの地とその伝説」(『非文字資料研究』第18号、2019年)など。
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まえがき
中国と日本は、東アジアに属する一衣帯水の隣国である。両国の人間交流は遥かな古代にまで遡り、現在も続いている。千年以上の中日文化交流史を顧みると、中日間を往復した人間には、遣唐使に代表される入華者と、鑑真らを代表とする入日者がいる。彼らにまつわる史料や日記には、当時の交流の様子が生き生きと描き出されている。遣唐使は「地獄の門」といわれる航路を乗り越え、唐帝国の政治制度や文物などに学ぶため西渡した。だが、航海術が未熟の時代には、さまざまな困難と危険がつきまとっていた。そのことについては、中国の歴史資料や、日本の僧侶である円仁の『入唐求法巡礼行記』などに詳細な記述がある。このような厳しい状況の中で、鑑真は何回もの渡海失敗にもめげず、万里の波濤を乗り越え、自らの弟子と共に来朝した。彼は律宗を日本で広める理想を持ち、弘法のため不惜身命の思いに燃えていたのである。
このような事象は、史料に記録され、建築などで追跡できる事例である。一方、中日交流の佳話として、古くから両国の民間や知識人の間で論じられてきた事例もある。徐福とその伝説は、中日文化交流の美談として語られてきた。これは従来から、東アジアを中心に、歴史・文学・伝説に関わる話題として盛んに取り上げられてきた。このことの歴史的真偽は、不明である。だが、中国・韓国・日本の各地には、徐福に関するさまざまな伝承が残っており、徐福東渡伝説は伝奇色を強め、神秘性を増大させている。
本書では、日本における徐福伝説を中心に、それに関わる民俗文化の展開や役割などを考察した。日本の徐福渡来伝承地に着目し、徐福伝説を懸け橋として東アジアとの交流を探った。まず、歴史資料や筆談資料、日記などの整理を行い、各地域で実地調査を実施した。それらを基に、徐福伝説とそこから生じた祭祀活動や民俗文化などを研究対象として、徐福とその伝説の位置づけを考察した。本書では、歴史学的なアプローチと民俗学的なアプローチという二つの分析方法を採用した。
徐福とその関連文化は、古くから東アジアの文人たちが争って議論してきた話題の一つである。徐福を懸け橋として展開してきた友好交流は、現在も行われている。近年では、徐福故里海洋文化節、国際徐福文化節、徐福文化と海上シルクロード国際学術シンポジウム、徐福映画などの開催と上映が、中国・韓国・日本で相次いでいる。これら徐福をテーマとした文化活動は、三国の徐福文化に対する共感を強め、東アジア諸国の文化交流を促進させている。
現代の徐福伝説は、中国・韓国・日本の各徐福伝承地で活用されている。伝説は、これらの地域間の絆を深め、地域社会の活性化にもつながっている。特に、近年この三国が共同で開催した徐福国際シンポジウムでは、東アジアの徐福東渡伝説を世界無形文化遺産に登録しようとする声が高まった。徐福伝説は、中国・韓国・日本を有機的に接続し、文化・観光・政治などの面で大いに利用されている。こうした伝説を、東アジアの国際的な視点から研究を展開することは、非常に有意義なことであると思われる。
歴史を鑑とし、時代と共に進むことは大事なことである。本書では、歴史資料と民間伝承を結びつけ、歴史学的なアプローチと民俗学的なアプローチを試みた。この二つのアプローチを統合し、徐福伝説とそれに関する民俗文化の研究を行った。特に、「中日韓文化協力」という時代背景の下、改めて歴史・伝説・文学などの分野で話題となった徐福伝説に関する研究を展開することは、今の時代の流れに合っているといえる。それだけでなく、中国・韓国・日本の三国の文化的アイデンティティを向上させることにもつながるであろう。
本書では、各徐福伝承地でフィールドワークを行い、現時点での徐福に関する民俗文化に着目した。そして、徐福伝説と人々との生活の結びつきを考察した。また、歴史書に記された徐福記録と民間に伝承された徐福伝説の比較分析から、その時代ごとの変化や特性などを論じた。
本書においては、いくつかの仮説を提出した。今後のご批判、ご教示を切にお願いしたい。最後に、本書がこれからの中国・韓国・日本の文化交流や、三国の友好発展に寄与できれば幸いである。
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著者紹介
華 雪梅(か・せつばい Hua Xuemei)
1990年、中国山東省生まれ。
2019年、神奈川大学歴史民俗資料学研究科 歴史民俗資料学専攻博士課程修了。博士(歴史民俗資料学)。
2020年1月より江蘇理工学院外国語学院講師。
主要論文に、「宋代来華日僧筆談述略」(『東亜的筆談研究』王勇編、浙江工商大学出版社、2015年)、「和歌山県新宮市における徐福伝説について ―「熊野徐福万燈祭」を中心に」(『歴史民俗資料学研究』第24号、2019年)、「徐福伝説と航海信仰に関する一考察―青森県中泊町小泊村を事例に」(『青森県の民俗』第14号、2019年)、「佐賀県佐賀市における徐福ゆかりの地とその伝説」(『非文字資料研究』第18号、2019年)など。