カンボジアの10年の歩み
一九七九〜一九八九年
フン・センが語る、ポル・ポト政権崩壊後の困難・戦略・交渉。激動期を知るための貴重な歴史の証言。
著者 | フン・セン 著 今川 幸雄 監 川口 正樹 訳 |
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ジャンル | 社会・経済・環境・政治 |
シリーズ | アジア・グローバル文化双書 |
出版年月日 | 2022/10/31 |
ISBN | 9784894892729 |
判型・ページ数 | 4-6・336ページ |
定価 | 本体3,000円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
序文 アンコール・ワットの修復とクメール民族の誇り
――内戦終結時の五課題を四三年かけて達成(石澤良昭)
凡例
序言
第一章 軍事・政治情勢の進展
一 カンボジア問題発生の原因とポル・ポト政権の崩壊
二 かつてポル・ポト派と対峙した勢力が翻って合同する
三 ポル・ポト派の三段階の戦略と一回目の抵抗
四 敵対する派閥同士の連合
五 ポル・ポト派の二回目の抵抗と戦略の後退
六 ポル・ポト派の新戦略
七 対抗勢力の分裂
八 対峙から交渉へ――革命段階の移行、同盟関係の変化
九 逡巡と障害
第二章 経済、社会、文化分野の一〇年間の発展と解決すべき課題
一 経済分野の業績と課題
二 社会事業・文化分野での業績と課題
第三章 国力の構築
第四章 将来への道
一 戦争と平和
二 改革
解題 (今川幸雄)
訳者あとがき(川口正樹)
カンボジア略年表
人物・用語解説
図・表・写真一覧
索引
内容説明
「この本は、カンボジアにとって非常に重要な時期に直面した多くの課題や社会のあらゆる分野における根本的な変化といった出来事を記したものです。……近年のカンボジアの歴史と私の指導の下でカンボジアが直面した課題や発展ぶりについて理解を深めて頂けるものと確信します」── フン・セン
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序言(フン・セン) より
私がこの本を著したのは、過去一〇年間に起こった出来事、今後起こりうる状況の変化に関する予測、残された政治問題の解決や経済社会開発に関する考えを記録するためである。
この本は、政治理論の教育を目的とするものでもなければ、党や政府の全般的な立場を記したものでもないが、読者、特に次の若い世代の同胞たちの理解の一助になりうるものと信じている。
私は、この本を、国家と国民のために犠牲になった全ての人々の英霊に対し、またポル・ポト虐殺政権の下で非常に痛ましい死を遂げた全ての人々に対し、更に、過去一〇年間、国家建設と祖国防衛に参画された全ての人々の業績に対して捧げる。
この本の執筆は、カンボジア国内の情勢及びカンボジアを取り巻く国際情勢が急速かつ複雑に進展する時期の中で、業務を遂行し、ジャカルタで和平交渉をし、また敵対するカンボジア各派との交渉もするという時間的制約の下で行った。このため、本書の内容をこれ以上包括的にすることはできなかった。読者の寛大なご理解をお願いしたい。
訳者あとがき(川口正樹) より
このフン・セン首相の著書の翻訳の監修をして頂いた今川幸雄元駐カンボジア日本大使が、二〇二一年一二月三〇日に逝去された。心からご冥福をお祈り申し上げる。
・・・・・・・
この本の思い出について一言だけ述べさせて頂く。
このフン・セン首相の著書は、カンボジア語専門家としての自分にとり教科書であった。フン・セン首相は、カンボジアの最高権力者であり、かつ有言実行の人であるので、その発言は政府の政策そのものであり、また政策の背景説明であったりもした。そのため、同首相を理解することは、カンボジアを理解することに等しかった。
フン・セン首相は、頭脳明晰ではあるものの、外国語は不得手で、日本の要人と会談する際にはカンボジア語を用いる。また、カンボジアの特殊事情としてポル・ポト時代の知識人の虐殺の影響もありカンボジア政府に日本語の専門家が極めて少ないということがある。このため、長年に亘り私達外務省のカンボジア語専門家が日本側のみならず、カンボジア側の通訳も担当する双方向通訳(一人二役)を行ってきた。幸い、私も何度となく同首相と日本の要人との通訳を務める機会に恵まれた。その際に、私はこのフン・セン首相の著書を翻訳のために読み込んでいたため、同首相の考え方のみならず、文章表現や語彙などが頭に入っていたので、通訳を務める上で非常に役立った。
この本に記述されたカンボジアの歴史は、カンボジアで最も困難な時期の記録である。その後、カンボジアを取り巻く内外の情勢は変化し、カンボジアはポスト・コンフリクト国としては、比較的順調に発展してきたと考える。今後紆余曲折はあるかもしれないが、カンボジア人のレジリエンス(精神的回復力)で、より良い未来を築いていかれることを確信している。
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著者紹介
フン・セン(Hun Sen)
1952 年にカンボジア・コンポンチャム州で生まれる。
1970 年にクーデターで失脚させれたシハヌーク殿下の呼びかけで、カンプチア民族統一戦線に加わる。
1977 年にクメール・ルージュ軍を逃亡し、1978 年にカンボジア救国連帯戦線を結成し、ベトナム軍と共にクメール・ルージュ政権を打倒。
その後設立されたカンボジア人民共和国の外務大臣に就任。
1985 年には首相兼外相に就任。1980 年代終盤の9 回に亘るシハヌーク殿下との二者会談
により実質的なカンボジア和平に合意。
1993 年の国連による総選挙後は第二首相、1998 年以降は首相として強力なリーダーシップを発揮して経済発展を牽引。
1991 年グエン・アイ・コック・ベトナム共産党学校政治学博士号取得。
監修者紹介
今川幸雄(いまがわ ゆきお)
1932 年〜2021 年
1955 年早稲田大学政経学部卒業。
1956 年外務省入省。
在マルセイユ総領事、在フランス公使、在タイ公使、在カンボジアSNC 担当大使を歴任し、1992 年に和平後最初の駐カンボジア日本大使に就任。
1996 年退官。その後、関東学園大学法学部教授、上智大学アジア文化研究所客員教授、日
本カンボジア協会会長、日本クメール学研究会会長を歴任。
主な著訳書に『現代カンボジア風土記』(KDD クリエイティブ刊、発売= 連合
出版)、『アンコール遺跡とカンボジアの歴史』(フーオッ・タット著、めこん)、
『カンボジアと日本』(連合出版)など。
執筆者紹介
石澤良昭(いしざわ よしあき)
1937 年生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。専門は東南アジア
史、中でもカンボジア・アンコール時代の碑刻文学。
パリ大学高等学術研究院にて古代クメール語碑刻文字を研究。文学博士。
鹿児島大学教授を経て、1982 年より上智大学教授。2005 年同大学学長、2007
年文化庁文化審議会会長に就任。現在、上智大学アジア人材養成研究センター
所長、上智大学アンコール遺跡国際調査団団長。
主な著書に『アンコール・王たちの物語』(NHK 出版、2005 年)、『新・古代カン
ボジア史研究』(小社、2013 年)、『カンボジア近世史』(キン・ソック著、めこ
ん、2019 年)、『カンボジア中世史』(マック・プン著、めこん、2021 年)、『アン
コール王朝興亡記』(NHK 出版、2021 年)など多数。
訳者紹介
川口正樹(かわぐち まさき)
1967 年生まれ。
中央大学商学部卒業。米国ハーバード大学公開教育学科教養学修士課程修了。
1990年外務省入省。3 回のカンボジア在勤、2 回の米国(ボストン、ナッシュビル)
勤務を経て、2021 年からカンボジア・在シェムリアップ領事事務所長。