タマダ 58
中央ユーラシアの宴を司る芸能者
ソ連崩壊後、一変したモンゴル国に住むカザフ人の生活。やがて新しい披露宴形式が生まれ、タマダという司会芸能が誕生した。
著者 | 八木 風輝 著 |
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ジャンル | 人類学 芸能・演劇・音楽 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 |
出版年月日 | 2022/10/25 |
ISBN | 9784894898110 |
判型・ページ数 | A5・70ページ |
定価 | 本体800円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
一 中央ユーラシアの宴に君臨する司会者「タマダ」
1 タマダ=司会者?
2 アサバラックは真の芸術
二 モンゴル国でカザフ人の音楽世界をフィールドワークする
1 モンゴル国に住むカザフ人
2 カザフ人の音楽世界
3 音楽文化のすそ野の広さ
◆コラム1――宴と祈りの文句
三 タマダの誕生
1 バヤンウルギー県の「地方の宴」
2 最初のタマダは誰?
3 町の宴とタマダの需要
4 タマダ主導のプログラム作成
四 披露宴の芸能活動
1 タマダの美学と人々からの評価
2 タマダの音楽演奏
3 特別感の演出
◆コラム2――タマダの余興
おわりに
1 カザフ人タマダが舞台に上がるとき
2 タマダ── 中央ユーラシアの宴の「主役」
注・参考文献
付録 タマダの参考書『トイ(宴)』の目次一覧
あとがき
内容説明
カザフの宴は終わらない!
ソ連崩壊後、一変したモンゴル国に住むカザフ人の生活。
その中で新しい披露宴形式からタマダという司会スタイルが生まれた。
一つの芸能の誕生とその表現を調べ尽くしたユニークな現場レポート。
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はじめに より
「こんばんは! 尊敬する参加者の皆様! 新しく夫婦となる若き二人の披露宴へようこそ!」
真っ赤なシャツとズボンに身を包み、白のジャケットを羽織った男性が、披露宴の始まりを高らかに宣言した。興奮した面持ちで舞台から参加者を見つめている彼は、「タマダ」と呼ばれる司会者である。三〇〇人以上の人が集まった披露宴会場は熱気に包まれ、人々のしゃべり声は、マイクで語りかけるタマダの声をかき消すほど賑わっている。タマダは、そんな彼らにかまわず、主役の新郎・新婦を紹介し、その親族らに祝辞を述べさせる。祝辞の合間には、タマダ自身がカラオケ音源を操作しながらその伴奏で曲を歌い、会場を盛りあげる。タマダが主導する四時間ほどの披露宴は、新郎・新婦というより、タマダが主役のように思えてくる。
・・・・・・
披露宴の成功はタマダで決まると言われるほどの圧倒的な影響力を持つ。その実力によっては一回の披露宴で車を購入できるほどの高額な報酬を得る人気タマダもいる。新郎側の主催者からしても、誰をタマダとして呼ぶかは、一家の名声や評判に関わるのだ。そのため、皆が知っている人気のタマダには予約が殺到する。各地で開催される披露宴においてタマダは非常に重要な人物なのだ。
しかし、これから述べる中央ユーラシアのタマダの活動の実態は、未だに謎に包まれている。これは、披露宴の主役は新郎・新婦であり、司会者タマダは披露宴の脇役であるという、常識的な思い込みのせいかもしれない。多くの研究者は、旧ソ連地域で現地語のタマダをMC(司会者/進行係)やモデレーター(司会者)と訳し、宴で活動する一職業としてごく簡単に記述してきた。では、タマダという職業を「披露宴で司会進行の役割を担う脇役」と表現していいかというと、全く違う。音楽を調査する筆者が調査地でタマダたちと交流を深める中で、彼らには独自の美学があり、その芸能活動は結婚という人生のビックイベントを彩るのはもちろんのこと、現在進行形で宴の新しいスタイルを更新し続ける「主役」であることが分かってきた。
この知られざるタマダの世界に触れた記録が本書である。本書は、 中央ユーラシアの中でもモンゴル国の少数民族カザフ人の披露宴で活躍する「タマダ」を取り上げ、彼らがどのように誕生し、活動を行っているのかを現地社会の歴史的および文化的側面から明らかにする。その上で、中央ユーラシア各地のタマダの活動に関して考察を深めていきたい。
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著者紹介
八木風輝(やぎ ふうき)
1991年、京都府生まれ。
総合研究大学院大学 文化科学研究科 比較文化学専攻 博士後期課程修了。
博士(文学)。
主な論文に、“Transformation of Musical Performances at Wedding Ceremonies in the Post-Socialist period: the Kazakh Tamada in Bayan-Ölgii Province, Mongolia”(Central Asian Survey 39(4))、“Systematization of Kazakh Music in Mongolia: Activities of Theater and Radio Station during the Soviet Era”(Asian Ethnicity 21(3))など。