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沖縄における門中の歴史民俗的研究  新刊

沖縄における門中の歴史民俗的研究

沖縄の人びとは門中の祖先をどのように観念しているのだろう。日常生活の文脈に沿って沖縄人の家族・祖先観の全体像を再構築。

著者 小熊 誠
ジャンル 民俗・宗教・文学
委託書籍
出版年月日 2023/10/30
ISBN 9784894899414
判型・ページ数 A5・424ページ
定価 本体5,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

(本書は〈第一書房発行の書籍〉を小社が〈発売元〉となり販売するものです)


序章 問題の所在――歴史的であり多様な門中

 第一節 研究視点と方法
 第二節  間 の民俗
 第三節 「つながり」の門中
 第四節 本書の構成

◆第一部 民俗学研究における沖縄および門中◆

第一章 日本民俗学における沖縄研究

 はじめに

 第一節 日琉同祖論と経世済民から見る柳田国男の沖縄研究
 第二節 戦後の沖縄研究――民俗学と社会人類学――
 おわりに

第二章 門中研究の研究史と研究方法

 はじめに
 第一節 門中研究の戦前・戦後における経緯
 第二節 社会人類学が影響を与えた門中研究
 第三節 民俗学の門中研究と門中の多様性
 おわりに

◆第二部 門中の歴史的研究◆

第三章 近世琉球における士族門中

 はじめに
 第一節 家譜作成における姓と名乗頭の意味
 第二節 琉球王統の歴史と家譜
 第三節 王族における姓の統一
 第四節 名乗頭を必要とする琉球士族社会
 第五節 日中の 間 で形成された琉球士族の門中組織
 おわりに

第四章 近世琉球の士族門中における姓の受容と同姓不婚

 はじめに
 第一節 中国文化の受容と琉球の士族層
 第二節 士族の家譜に表れた同姓不婚の禁忌の有無
 第三節 久米村系士族と首里系士族における婚姻規制の相違
 おわりに

第五章 近世士族門中における養子制度の再検討

 はじめに
 第一節 父系嫡男相続制の再検討
 第二節 養子同門制の再検討
 第三節 相続制度から見る日中 間 の民俗
 おわりに

◆第三部 門中の現代的研究◆

第六章 沖縄における門中組織の多様性

 はじめに
 第一節 記録された系譜
 第二節 つくられる系譜
 第三節 幾重にも広がる士族系門中の結びつき
 第四節 いろいろなタイプの門中
 おわりに

第七章 多様な門中とその活動

 はじめに
 第一節 近世末期における地方役人層の系譜作成
 第二節 百姓系の明治以降における門中化
 第三節 厳格な父系意識と祖先の創生
 第四節 門中の実態
 おわりに

第八章 門中をめぐる諸相

 はじめに
 第一節 沖縄の位牌祭祀
 第二節 門中と女性
 第三節 門中の聖地巡拝
 おわりに

第九章 「つながり」としての門中

 はじめに
 第一節 尚宣威王の墓を祭る四つの門中
 第二節 尚宣威王墓の清明祭に参加する門中
 第三節 尚宣威王墓の清明祭
 第四節 門中の「つながり」
 おわりに

終章

 第一節 門中の歴史的研究と外来文化―― 間 の民俗
 第二節 「つながり」を求める門中

あとがき

参考文献

索引


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内容説明

「共通の始祖をもつ父系出自集団」という定義を再検討
沖縄の人びとは門中の祖先をどのように観念しているのだろう。研究者の視点を離れ、日常生活の文脈に沿って沖縄人の家族・祖先観の全体像を再構築する画期的業績。

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序章より



 

 ……ところが、多くの門中を集団の外から見ていくと、祖先の身分によって士族系門中とそうでない百姓系門中という区別だけではなく、そのなかでも祖先のあり方、組織のあり方、活動など実態はかなりの違いをもっていることがわかる。この点を踏まえて、一九六〇年代から八〇年代に社会人類学を中心に行われた門中研究に対して、本論は新たに二つの視点を提示したい。

 第一点は、門中研究の方法である。従来は、ある集落あるいはある地域の門中を集中的に研究することが多かった。従来の研究方法では、その地域に関する門中の特性は分析できたが、士族系門中と百姓系門中の違いについて、あるいは士族系門中のサブグループとしての「屋取系門中」との違いなど、沖縄における門中の形態による多様性についてはほとんど研究されてこなかった。門中の歴史および内容の違いを比較して、沖縄における形態の異なる門中を全体的な視点で分析することを、本論の研究方法とする。

 第二点は、従来の「門中は共通の始祖をもつ父系出自集団である」という定義を再検討し、このような研究者視点の定義から、沖縄の人びとが実際に門中の祖先をどのように観念しているのかという日常生活の文脈に沿って門中の定義を検討する。

 文化人類学あるいは社会人類学における出自による親族研究はすでに終焉を迎え、その批判として文化的な関係論で親族を考える立場が文化人類学で検討されてきた。日常的に集団としての活動がほとんどない門中では、それを父系による親族集団あるいは出自集団という機能構造的側面で捉えるよりも、むしろ祖先と子孫として結びつく人びとの集団として具体的な行為に基づいて検討したほうが、実態により近い門中を把握できる。従来のように、門中を父系出自集団と定義しても、実際には士族系門中のように祖先と子孫が父系出自あるいは父系血縁の記録だけで結びつくわけではなく、屋取系門中や百姓系門中は記録のない祖先との結びつき、あるいは記憶による伝承で結びつく門中が数多くある。門中は父系出自集団であると定義することはすでに事実とは異なり、むしろ自分はどの祖先とどのような関係で結びつくのかという門中における祖先と子孫の意識が重要である。

 そこで、沖縄の門中は、人びとによって祖先と子孫としての「つながり」をもつ集団だと本書では新たに定義することにしたい。この門中における祖先と子孫の「つながり」は、一つの門中において明確な父系血縁だけでなく、口承あるいは伝説による祖先との「つながり」、琉球神話によって琉球王統を祖先とする「つながり」、あるいは女系元祖による「つながり」や娘あるいは養子を通した「つながり」などさまざまな祖先と子孫の関係があり、さらにその祖先との「つながり」が変化したり、創成されたりすることもある。本書では、このような門中における祖先と子孫の「つながり」を検討することによって、従来の民俗学あるいは人類学とは異なる日常生活の文脈における沖縄門中の実態を明らかにしたい。……


 第二部では近世士族の家譜と門中を論じ、第三部では近代以降の門中に関して論ずる。それぞれの研究方法は異なり、第二部の「門中の歴史的研究」では近世士族の家譜と門中について「 間 の民俗」( 間 は「はざま」と読む)という視点によって検討する。……



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著者紹介
 

小熊 誠(おぐま まこと)
1954年、横浜市出身
1985年、筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科中退
1985年、筑波大学歴史・人類学系技術官
1986年、沖縄国際大学文学部専任講師
1993年、沖縄国際大学文学部教授
2009年、神奈川大学外国語学部文化交流学科教授(歴史民俗資料学研究科担当)
2020年、神奈川大学国際日本学部歴史民俗学科教授
2022年、神奈川大学学長

主要著作:
2022年「移住するということ―横浜で行われる沖縄角力」『日本民俗学』310
2019年「風水と自然観―中国江西省贛南地区の村落調査から」上原雅文『自然・人間・神々』お茶の水書房
2016年『〈境界〉を越える沖縄』(編著)森話社
2015年 The Study of Japan through“Japanese Folklore Studies”,Japanese Review of Cultural Anthropology 16
2009年 古家・小熊・荻原『日本の民俗12南島の暮らし』吉川弘文館




 

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