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西洋医学の内モンゴル伝播  新刊

西洋宣教師・帝国日本・モンゴル知識人

西洋医学の内モンゴル伝播

帝国主義下の内モンゴル地域に西洋医療技術はどのように導入され、モンゴル人社会に近代的衛生観念はどのように定着したのだろうか。

著者 近衛 飛鳥
ジャンル 歴史・考古・言語
出版年月日 2023/11/25
ISBN 9784894893221
判型・ページ数 A5・256ページ
定価 本体3,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

まえがき
凡例

序章 医療衛生研究の理論的背景とその課題

   一 本書の背景
   二 先行研究と本書の目的

第一章 モンゴル教区における聖母聖心会(CICM)の医療宣教

   はじめに
   一 既往研究と本章の史料
   二 宣教師たちのモンゴルへの進出
   三 宣教師による医療宣教
   おわりに

第二章 内モンゴルにおけるカトリック公教医院の創設

   はじめに
   一 公教医院の規模と設備
   二 公教医院の組織と人事
   三 公教医院の医療活動
   四 教会が推進した医学教育
   おわりに

第三章 善隣協会の成立とモンゴルの医療衛生に関する初期の調査

   はじめに
   一 善隣協会の成立とその初期の活動
   二 善隣協会の調査報告とその性質
   おわりに

第四章 善隣協会主導の医療衛生の近代化

   はじめに
   一 巡廻診療班の活動
   二 近代的な病院の建設
   おわりに

第五章 興蒙委員会の創設とその医療衛生活動

   はじめに
   一 興蒙委員会の誕生と近代国家制度の整備
   二 ラマ教改革と医療衛生の近代化
   三 日本とモンゴルによる宗教改革
   おわりに


終章 草原(農村)地帯から都市部への近代化

   一 本書の結論
   二 本書の意義と今後の課題

補論 日本から医学を学んだモンゴル人医学者たちの文化大革命

   はじめに
   一 日本から医学を学んだモンゴル人
   二 留用日本人の経験
   三 内モンゴルの衛生医療の実態
   四 モンゴル人民共和国の衛生医療の実態
   おわりに

あとがき

初出一覧
参考文献
索引

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内容説明

医療・衛生の伝播と定着を描く
帝国主義下の内モンゴル地域に西洋医療技術はどのように導入されたのだろう。そして、モンゴル人社会に近代的衛生観念はどのようにして定着したのだろうか。歴史のパズルを詳細に読み解く。

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まえがきより



 

 二〇一九年末、中国南部の武漢市で謎の発熱で入院する患者が大勢現れたことがきっかけで発覚した新型コロナ・ウイルスは瞬く間に世界的に感染拡大し、人々が体験したことのないパンデミックを起こして現在に至る。人類は未曾有の公衆衛生の危機に直面し、私たちが今日までに享受してきた自由行動もさまざまな形で制限されている。

 人類は今日までの歴史の中で黒死病やスペイン風邪など、数々の感染症を克服してきた。それらの感染症から命を救うために、統治者・指導者は医学関係者を動員してもっとも有効な治療方法やワクチン開発に力を注いできた。その結果、私たちは西洋近代医学の治療を受け、適切な薬剤の使用可能な社会を実現してきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした医療崩壊が一因で、一般の病気を持つ人々が通常の診察・治療を希望通りに受けられないケースもある。我々はいま、改めて医療衛生について思考しなければならなくなったのではないか。

 そもそも一九世紀後半から二〇世紀半ばまでの約半世紀の間、現在内モンゴルと呼ばれている地域に西洋発の医療技術はいかなるルートで、誰によって導入されたのか。そして近代の衛生観念がモンゴル人社会に伝播して定着する過程ではどんな論争があったのか。本書はこうした問いについて歴史文献を中心に記述し、分析していく。

 東アジアにおける医療衛生の近代化を語る際には「宣教師」と「帝国主義の出現」は避けて通れない存在である。西洋医学の内モンゴルへの伝播も例外なく宣教師と帝国日本の大陸進出と直接連動している。二一世紀に入って以降、西洋の近代医学と衛生観念のアジアへの伝達をテーマにした先行研究は既に数多く上梓されている。その中でも、帝国日本の植民地医学が台湾や朝鮮半島での実践と定着に関する先学の成果は細部に至るまで構築されている。満洲国での医療衛生活動に関する研究もまた日本側での資料公開に伴って複数の成果が見られる。満洲国より西のモンゴル人居住地域の医療衛生に関する研究として、伝統医学やシャマニズムの施術についての成果もまた多数存在する。一方、西洋から来た宣教師による宣道医療活動と帝国日本の推進した医療活動の社会的影響を受けたモンゴル人たちの活動については未開拓の分野として残っている。

 本書は、西洋から来た宣教師と帝国日本が内モンゴルへ進出した時代に展開された医療衛生活動と衛生観念の広がりを時代順に追いながら、記述・分析する。また、宣教師と帝国日本の主導で導入された西洋医学がモンゴル人に認められて定着し、現地の知識人たちがそれを受け入れる過程での葛藤と努力について述べる。西洋から来た宣教師、東洋からの帝国日本がモンゴル草原でモンゴル人と出会い、モンゴル人に近代西洋医学の知識を教授し、モンゴル人の病気治療をおこなった。こうした近代医療衛生は社会主義の中華人民共和国にも受け継がれたが、宣教師は追放され、日本から医学の知識を学んだ知識人は粛清された。本書は、医療衛生の伝播と定着の視点から綴った近代史でもある。




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著者紹介
 

近衛飛鳥(このえ あすか)
1984年、南モンゴルのナイマン・ホシュー生まれ。
2019年、宇都宮大学大学院国際学研究科博士課程修了。博士(国際学)。
現在、千葉工業大学社会システム科学部助教。
主な業績に、「日本から医学知識を学んだモンゴル人医学者たちの文化大革命」楊海英編 『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』(集広舎、67-89 頁、2016 年)、『モンゴル伝統医学に関する木版本と手写本』(楊海英と共編、風響社、2023年)など。

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