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宗教美術の身体美学  新刊

チベット・タンカの人類学的研究

宗教美術の身体美学

タンカをヒトと感応し合う「模倣言語」と読み解き、修行や巡礼、制作実践にも通底する「身体による世界認識の原理」に至る論考。

著者 張 詩雋
ジャンル 人類学
シリーズ 人類学専刊
出版年月日 2024/03/20
ISBN 9784894893610
判型・ページ数 A5・312ページ
定価 本体4,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに

序論

   一 問題の所在と目的
   二 先行研究および本書の理論的視座
   三 調査地概要
   四 調査概要――ラサにたどり着くまで
   五 本書の構成

●第Ⅰ部 神仏の肖像

第1章 タンカを生みだすチベットという場所

   一 チベットに関する諸概念
   二 聖城ラサ

第2章 チベット・タンカの様式記述

   一 タンカの誕生と様式――タンカを対象にする美術史研究
   二 度量経
   三 タンカの演劇的要素と没入的要素
   四 小括

第3章 タンカを造る:Xタンカ技芸学院の制作と日常

   一 功徳をめぐる諸概念
   二 タンカを生み出す場所――ラサ市内にあるタンカ制作所
   三 Xタンカ技芸学院
   四 タンカの制作
   五 タンカの制作特徴
   六 絵師の宗教実践
   七 小括

第4章 タンカの働き

   一 タンカ、神仏、人間
   二 タンカの効果
   三 双子のタンカ――仏でありながら福田でもある
   四 五感で認識するタンカの魅力――ショトン祭りと巨大なコク・タンカ
   五 小括

●第Ⅱ部 近代化のなかで再編される「チベット・タンカ」

第5章 西蔵の近代化

   一 チベットにおける近代化の歴史
   二 「甜茶派」のモダンアート運動――チベット人がまなざす西蔵
   三 「第二文連」――他者がまなざす西蔵
   四 現代芸術に参加しなかったタンカ
   五 小括

第6章 文化資源、文化産業、文化遺産──西蔵タンカにまつわる近代的な言説

   一 西蔵におけるタンカの「産業化」
   二 「非物質文化遺産」になるタンカ
   三 タンカ伝承と絵師の育成――タンカ絵師大会
   四 非物質文化遺産のタンカへの眼差し――ラサにおけるタンカ展示
   五 タンカ言説・制度のズレ
   六 小括

第7章 文化資本になるタンカ──産業化されたタンカの芸術的展開

   一 西蔵タンカ画院――公認機関になる経緯と戦略
   二 タンカの芸術化――アートの模擬
   三 タンカを売る
   四 小括

第8章 タンカのポスト産業化時代――「離れる」絵師たち

   一 ラサにおけるタンカ産業の光と影
   二 「蔵漂」生活
   三 蔵漂の絵師たち
   四 米の土産物用タンカ店
   五 西蔵の初の近代的なタンカ学校――パンデタルジェ
   六 新世代タンカ絵師の行方
   七 小括

第9章 結論と今後の課題

   一 タンカの身体美学
   二 現代西蔵におけるタンカの変容
   三 今後の課題

あとがき

参考文献一覧

●付録
   付録1 タンカの制作手順
   付録2 西蔵自治区非物質文化遺産名録項目申報書
   付録3 西蔵自治区政府機構略
   付録4 調査協力者・協力機関一覧

索引
写真図表一覧

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内容説明

「像の力」の根源に迫る
「肖像」でありながら、「化身」でもあるタンカ。本書は、図像学的分析を離れ、タンカをヒトと感応し合う「模倣言語」と読み解き、修行や巡礼、制作実践にも通底する「身体による世界認識の原理」へと至った。宗教が繋ぐ芸術とヒトの「相即の間合い」を描く斬新な論考。

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序 論

一 問題の所在と目的

 

 

 

 

 文化人類学における物質文化研究、特に芸術研究は近年大きく変貌を遂げている。しかし、芸術と一口に言ってもそれは多様性に満ちていて、社会的な位置付けも様々である。本書の対象となる中国・チベット社会は1951年に併合されて以来大きな変動を被ってきた。

 しかしながら、そこは近年、仏教の拠点としても、また観光地としても注目を浴び、宗教美術作品を購入する観光客で賑わっている。政治的弾圧という視点からは見えづらいこうした状況をどう理解したらいいのか。その実態はどのようなものなのか。本書の目的は、以上の二つの問題意識を念頭に、宗教美術の一つ、チベット・タンカ(Tibetan thangka)を取り上げ、文化人類学におけるモノや芸術の研究を検討することにある。さらに、タンカ研究を通じて、チベット社会や中国社会の民族誌に寄与することを目指す。具体的には、タンカの制作と崇拝、およびタンカの社会的な位置付けの近年の変化に注目する。

 チベット・タンカはチベット文化圏で制作される伝統的な宗教美術である。おもにチベット仏教や在来宗教であるポン(Bön)教の仏、神、高僧などを主題とする。タンカはしばしば「仏画」と訳されるが、厳密に言うと絵画だけでなく、刺繍や織物、またはアップリケの技法などを用いて作られたものを含む。チベットの信仰観念によると、タンカは神仏のイメージを表象するモノである一方、正確な方法で制作されるタンカは神仏の化身、神仏そのものとして神聖視される。チベットでは、盛大な開帳儀式から密教修行まで、または僧院の伽藍から吟遊詩人の公演舞台まで、様々な場面においてタンカが登場し人々を魅了する。1990年代以降は、文化資源としてタンカが選出され、宗教的な領域や現地の文脈をこえて民族性、チベット文化、さらに国家の表象になっている。

具体的な事例を検討する前に、次の節では、本書のテーマに関わる主要な先行研究を概観し、筆者の理論的視座を明らかにしていきたい。



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著者紹介
 

張 詩雋(ちゃん しじゅん)
1987年、中国・瀋陽市生まれ。
2021年3月、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程(単位取得満期退学)。
2021年11月博士(人間・環境学)。
2021年4月〜2022年12月国立民族学博物館外来研究員。関西大学社会学部非常勤講師。
現在、北京大学社会学系・社会人類学研究所PD研究員。
専攻は、文化人類学、芸術人類学、チベット研究。
論文として、「神仏の肖像:チベット・タンカの制作と崇拝について」(『文化人類学』85(4)、2021年)、Traveling Thangka Painter: Anthropological and Historical Aprroach towards the Multi-travelling Experiences of Tibetan Artists, Japanese Review of Cultural Anthropology 22(1), 2021など。
第17回日本文化人類学学会研究奨励賞受賞。

なお、本書刊行にあたっては、「令和5年度 京都大学人と社会の未来研究院若手出版助成」を受けた。

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