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客家と日本  新刊

知られざる日本と中華圏の交流史

客家と日本

かつて「東洋のユダヤ人」とも言われ、世界各地に移り住み地位を築いた民族集団。知られざるその歴史と暮らしに迫る注目の概説書。

著者 周 子秋
河合 洋尚
ジャンル 人類学
民俗・宗教・文学
歴史・考古・言語
社会・経済・環境・政治
シリーズ 風響社ブックレット
出版年月日 2024/08/25
ISBN 9784894893665
判型・ページ数 A5・100ページ
定価 本体900円+税
在庫 在庫あり
 

目次

口絵

はじめに

第1章 客家とは誰か

  1 なぜ「客」なのか
  2 客家の移動と分布
  3 客家語
  4 客家文化

第2章 中国大陸から日本へ:二〇世紀前半までの動き

  1 日本客家の祖先?
  2 客家による日本訪問の幕開け
  3 広東客家の日本留学
  4 広東客家商人と日本
  5 福建客家と日本

第3章 台湾客家と日本:一八九五~一九四五年

  1 乙未戦争と客家
  2 日本の植民地統治と言語
  3 台湾エリートの日本留学
  4 台湾の客家建築と村落景観
  5 客家音楽家の活動と日本
  6 日台野球と客家

第4章 日本への移住と客家団体:二〇世紀半ばから現在

  1 台湾から日本への移住
  2 客家公会の成立と活動
  3 崇正会の歴史と現在
  4 崇正会の活動
  5 徐福祭祀と崇正会
  6 海外客家団体との交流
  7 日本国際客家文化協会の活動

第5章 日本客家の生活文化と社会活動:現代

  1 生活文化
  2 客家文化の浸透、日本社会との交流
  3 各界での活躍、日本社会への貢献

コラム① 客家に親しむために(1) 客家関連の映画・ドラマ

コラム② 客家に親しむために(2) 客家関連の一般書・専門書

コラム③ 白冷圳:日本統治時代のインフラと客家地域

コラム④ 客家と沖縄

コラム⑤ 円楼と日本社会

参照文献

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内容説明

推薦文(余 貴美子)

この本を通して客家人や客家文化を知ることは、私達の人生の在り方にも、活かされるものがあります。客家人が硬頸(不屈の)精神で、世界中のそれぞれの場所で、誇り高く強い心を持ち、それぞれの居場所を育んできた時間を記録したものです。日本で客家崇正公会を起ち上げ在日客家人を調査記録した先達の、流浪の民だからこそ人と人との繋がりを大事にするという精神を、多くの皆さんに知って頂きたいと思います。

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かつて「東洋のユダヤ人」とも言われ、世界各地に移り住み地位を築いた民族集団。知られざるその歴史と暮らしに迫る注目の概説書。

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はじめに より





 本書は、客家と日本のつながりについて紹介するものである。

 日本では、客家はそれほど広く知れ渡っている名称ではない。だが、一九九〇年代に客家にまつわる一般書が次々と刊行され、客家の住居の一種である円楼がユネスコの世界遺産に登録されたことから、日本でも客家への認知度が次第に高まっているようである。最近では円楼や客家が中学校の英語の教科書に登場するなど、客家について触れるテクストも増えている(→詳しくはコラム⑤参照)。

 客家は中国をルーツとする民族集団(中国語では「族群」と称する)である。民族といっても、中国政府が公認する五六の民族リストに客家という名称はない。客家は中国最大の民族である漢族の支系に属する。漢族は中国の九〇パーセント以上を占める巨大な民族である。したがって漢族の間では多様性が大きく、言語・文化が異なる支系が無数に存在する。客家は、そのうち客家語を話し、漢族のなかでも一風異なるといわれる文化をもつ支系である。

 客家は中国東南部の山岳地帯を本拠地とするが、中国各地だけでなく、世界各地にも移民を送り出している。世界各地へ移住した中国系移民は華僑・華人といわれるが、客家はその重要な一派閥を形成しているのである。客家は、中国大陸から香港、澳門、台湾、東南アジア諸国に渡っており、客家の大半はこれらの地域で生活を営んでいる。さらに、客家は、南アジア、オセアニア、南北アメリカなどにも移住している。

 世界各地で成功を収めた客家も少なくない。政治家ならば、中国の元最高指導者である鄧小平、シンガポールの初代首相であるリー・クワンユー(李光耀)、タイの元首相であるタクシン・チナワットとインラック・チナワットの兄妹、台湾の元総統である李登輝や蔡英文、ガイアナの初代大統領アーサ・チュン、商人ならば、タイガーバームの開発・販売で財をなした胡文虎、タヒチの真珠王ロバート・ワンらが、客家であるといわれる。客家は、世界各地の政治・経済などに「隠れた」影響を与えてきたことから、「東洋のユダヤ人」と呼ばれることもある。

 客家と聞くと、海外の遠いところに住む人びとであるかのように思われるかもしれない。だが客家は実は日本にも住んでいる。本書で詳しく紹介するが、日本では崇正会と呼ばれる客家の団体がいま五つある。編者(河合)がかつて住んでいた家の近くにある高齢者福祉施設、幼少期から馴染みのある商業街、勤務先の近くにあった病院なども――当時は知らなかったが――客家の経営であった。客家は我々の身近な生活にいることもあるのだ。

 日本の客家については、研究者の間でもまだ十分に知られていない。日本の華僑華人をめぐる研究蓄積は豊富であるが、その研究のほとんどは二〇世紀前半までに日本に移住した広東系、福建系の老華僑、もしくは一九八〇年代以降に中国各地から日本に移住した新華僑を対象としている。他方で、客家研究と呼ばれる分野は、中国本土や台湾、東南アジアなどの客家に焦点を当てるあまり、足元である日本の客家をなおざりにしてきた。

 日本と客家のつながりについて正面から研究されはじめたのは、まだここ一〇年ほどのことである。本書は、人類学者と歴史学者が中心となり、日本の客家をめぐる歴史・社会・文化について研究した成果の一環である。本書は難解な専門書でなく、なるべく幅広い読者層に客家と日本の関係性を知っていただくことを目的に編まれた。また、我々は日本の客家をめぐる研究成果を展示という手段でも公開すべく、国立民族学博物館の企画展(創設50周年記念企画展「客家と日本――華僑華人がつむぐ、もうひとつの東アジア関係史」二〇二四年秋開催)に向けて準備を始めている。本書は、展示ガイドではないが、企画展の展示内容とも大きく重複している。本書を通して、日本と客家のつながりについて理解を深めていただくことができたら幸甚である。


(後略)

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刊行に寄せて──みんぱく企画展と本書

奈良雅史(国立民族学博物館)





 国立民族学博物館(以下、民博)では、2024年9月5日から同年12月3日にかけて創設50周年記念企画展「客家と日本――華僑華人がつむぐ、もうひとつの東アジア関係史」の開催を予定している。博物館を有する文化人類学の研究所である民博の研究者たちは、世界各地で暮らす人びとの文化と社会を対象とした研究に従事してきた。それは客家も例外ではない。

 民博の初代館長・梅棹忠夫は客家に対して大きな関心を持っており、1985年に客家集住地域のひとつである広東省梅県を訪問している。また、日本の華僑であった周達生・民博名誉教授や客家研究の第一人者である瀬川昌久・東北大学名誉教授、本書の編者である河合洋尚・東京都立大学准教授が民博において客家研究に従事してきた。そのため、民博には100点以上の客家関係資料が収蔵されている。

 さらに、2015年には、台湾・日本芸術文化交流事業「台湾光点計画」の一環として、客家研究者や日本在住の客家の方々を招いて講演会を開催した。その際、客家語を主体とした台湾映画の上映会や、客家の伝統音楽である八音の楽団、客家山歌の歌い手や、紙傘、藍染の職人を招いて公演も実施し、客家文化を広く日本社会に紹介しようと試みてきた。

 また、2017年には、台湾において客家文化の発展と保護を担う機関である客家文化発展センター、台湾における客家研究の中心のひとつである、交通大学客家文化学院(当時)とのあいだで三者協定を締結し、客家研究をめぐる学術研究交流を促進してきた。その成果として、2020年から翌年にかけて客家文化発展センターにて、民博が展示協力を行った特別展「川流不息――台湾客家与日本国際展」が開催された他、『百年往返――走訪客家地区的日本学者(百年の往来――客家地域を訪れた日本の学者)』(簡美玲・河合洋尚編、客家文化発展中心・国立陽明交通大学客家文化学院、2021年)など三冊の書籍も刊行された。

 この度の企画展は、民博でのこれまでの客家研究の成果の一部として開催される。本書は展示ガイドとして出版されたものではないが、企画展と概ね一致した内容となっている。民博には上述のように多くの客家関連資料があり、そのなかには常設展で展示されているものも少なくない。企画展の開催期間中はもちろんだが、会期後であっても、本書を片手にぜひ民博にお越しいただきたい。





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監修者・編者・執筆者紹介(【 】内は、担当項目)

監修者

周子秋(吉本秋雄)
 全日本崇正会連合総会・会長。台湾・新竹生まれ。昭和大学医学博士、大連大学客員教授。著書:『日本客家述略』、『日本文化探訪』、『実用臨床検査』。客家委員会資詢委員。

編者

河合洋尚(かわい・ひろなお) 【編集および1章1・2・4、2章1~3、3章1・2・4・6、4章、5章、コラム②の執筆または共同執筆】

 東京都立大学人文社会学部/人文科学研究科・准教授(博士)。専門は社会人類学、景観人類学、漢族研究。中国南部および環太平洋の客家社会における移住・社会組織・景観を研究。

執筆者(50音順)

飯島典子(いいじま・のりこ)【4章7、5章2】

 広島市立大学国際学部・准教授(博士)。専門は華僑華人史、華南地域研究(客家の移住と鉱山開発の関連性)。現在は華南の人形劇についても研究中。

小林宏至(こばやし・ひろし)【2章5、コラム⑤】

 山口大学人文学部・准教授(博士)。専門は社会人類学、漢族(客家)研究。福建客家の民間建築(土楼)、親族組織、民俗知識などを主に研究している。

神宮寺航一(じんぐうじ・こういち)【2章1、コラム④】

 東京都立大学人文科学研究科・博士後期課程。専門は、社会人類学、都市人類学、華僑・華人研究。日本国内の客家社会や台湾・香港の客家地域における移住・エスニシティを研究。

田井みのり(たい・みのり)【3章5】

 東京都立大学人文科学研究科・博士後期課程。専門は社会人類学、音楽人類学、儀礼研究。日本や台湾客家の冠婚葬祭の音楽実践について研究。

陳來幸(ちん・らいこう)【2章4】

 ノートルダム清心女子大学国際文化学部・教授(博士)。専門は歴史学、華僑華人研究。主として中国の社会経済史を研究。

范智盈(はん・ちいん)【1章3、3章3、5章2】

 大阪大学人文学研究科・招聘研究員。専門は社会人類学、地域研究。客家の日本への移動およびその文化実践、変容、継承などを研究。

横田浩一(よこた・こういち)【5章1・2】

人間文化研究機構人間文化研究創発センター研究員・東京都立大学客員研究員(博士)。専門は社会人類学、漢族研究。潮州系や台湾客家のエスニシティや食文化を研究。

渡邊泰輔(わたなべ・たいすけ)【5章2、コラム①、コラム③】
 東京都立大学人文科学研究科・博士後期過程。専門は社会人類学、歴史人類学。台湾中部の漢族社会における歴史認識・まちづくりを研究。


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