生きづらさの根にある「線引き」を、よってたかって考えてみた。つらい時、前を向く言葉が見つかることを目指して編まれた一冊です。
著者 | 好井 裕明 編 宮地 弘子 編 石岡 丈昇 編 堀 智久 編 松井 理恵 編 |
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ジャンル | 社会・経済・環境・政治 |
シリーズ | 風響社あじあブックス |
出版年月日 | 2024/11/10 |
ISBN | 9784894890251 |
判型・ページ数 | A5・480ページ |
定価 | 本体3,000円+税 |
在庫 | 未刊・予約受付中 |
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目次
序章 「ボーダー」を考える《好井裕明》
1 「ボーダー」というテーマ
2 〝境界〟としての「ボーダー」
3 〝他者と自分を分ける営み〟としての「ボーダー」
4 〝「ちがい」を確認する営み〟としての「ボーダー」
5 「ボーダー」と向き合い、「ボーダー」とつきあうこと
●第1部 ボーダーを可視化する
第一章 イギリスのインクルーシブ教育──日本の学校のあたりまえを疑う《堀 智久》
一 イギリスでの研究活動
二 イギリスのインクルーシブ教育
三 「分けること」のもつ意味
四 日本の学校のあたりまえを疑う
第二章 入院時のリハビリ経験から対面的インタビュー調査について考える《宮内 洋》
一 突然の骨折から入院へ
二 自らの状況を無視しない「自分語り」
三 入院時のリハビリ経験
四 リハビリの経験から対面的インタビュー調査について考える
第三章 「見える問題/見えない問題」が見えなくするもの《矢吹康夫》
一 「見える問題/見えない問題」という対比
二 「見える/見えない」と「知っている/知らない」
三 「見える問題/見えない問題」の語られ方
四 普遍的な問題としての「知らない」
第四章 「洗う」と「きたない」から「きれい」を考える──多様化する「きれい」《梅川由紀》
一 「きれい」を確認する方法
二 洗濯から「きれい」を考える
三 風呂から「きれい」を考える
四 「きたない」から「きれい」を考える
五 「きれい」とは何か
第五章 「問わず語り」の意味──かつて銅山で栄えた町で暮らして《三浦一馬》
一 調査地で暮らすようになるまで
二 登場人物──田口家とヨリちゃん
三 介護の日常、その過酷さ
四 介護をする理由
五 介護生活の終わり
六 過疎の体験──問わず語りに出会い続ける
第六章 炭鉱労働者、トット屋さん、そしてマラソンランナー──ある家族が生きた戦後史《坂田勝彦》
一 過去が歴史へと変わりつつある中で
二 ある家族の経験から辿り直す
三 炭鉱という場所で育まれた縁と文化
四 炭鉱を離れるとき
五 移住先での生活をめぐる試行錯誤
六 それぞれのその後
【コラム】筑波大学大学院の好井ゼミを振り返って《坂田勝彦》
●第2部 ボーダーとともに生きる
第七章 止むに止まれぬ──自発性と非自発性のボーダーに立つボランティア《小野奈々》
一 研究の立場を問い直す
二 「役割の察知」と「コール」
三 ボランティアの公共的役割
四 自発性と非自発性のボーダーとしての「応答」
五 自発性の呪い
六 かすかな「違和感」に向き合う社会学
第八章 ボーダーと向き合い、他者に出会うこと──外国で暮らす日本出身女性の語りから《松井理恵》
一 二つの異なる文化のはざまに生きる?
二 韓国の在留外国人
三 下関から韓国へ
四 社会から自分を切り離す「ボーダー」から、自分で動かせる「ボーダー」へ
五 日本出身の母親として直面する「ボーダー」
六 「何を考えているのかがわかる外国人」になる
七 「ボーダー」の向こう側にいる他者と出会う
第九章 複数のボーダー──ある在日フィリピン人家族の経験から《石岡丈昇》
はじめに
一 ジェイソン・マルーの一家
二 移住者家族の内部の経験へ
三 家族をやっていく
四 ボーダーとつきあう社会学へ
第一〇章 古民家と生きる──茨城県つくば市の事例から《石本敏也》
一 古民家の活用
二 マルシェの開催──古民家の庭園の活用
三 「普段通り」の手入れ──発想の背景
四 「邑マルシェ」の運営法──「普段通り」の手入れの共有
五 古民家と生きるということ
第一一章 仲人を「商売」にしない──結婚相手を世話する仲人のボーダー《田中久美子》
一 仲人と結婚の壁
二 地域社会と結婚
三 結婚相手を世話する仲人
四 結婚相手の世話と「商売」のボーダー
第一二章 容姿にまつわる「生きづらさ」を紐解いて──ある若年女性のライフ・ストーリーから《香川七海》
一 はじめに ──シオさんとの出会い
二 当事者として卒業論文を書く
三 シオさんへのインタビュー
四 まとめ ──インタビューを終えて
第一三章 どうやって母親と対話できるようになったのか──彼女と過ごした最期の一四カ月を通して《吉村さやか》
一 「母親」をめぐる常識的カテゴリーを問い直すということ
二 なぜ私は母親と対話できなかったのか
三 「シンデレラ・ストーリー」ではない、彼女のライフストーリー
四 どうやって対話できるようになったのか
【コラム】夏の関学好井集中ゼミの風景《伊藤康貴》
●第3部 ボーダーを引き直す
第一四章 伝わることば──エイズ・アクティヴィズムの「手紙」《大島 岳》
一 好井先生との出会い
二 手紙とアクティヴィズム
三 手紙の広がり
四 ボーダーラインを伝わることば
五 あなたへの「手紙」
第一五章 よそよそしい連帯──「フラワーデモ京都」世話人としての日々から《山本 めゆ》
一 赤の他人と私たち
二 花を手に集まるようになるまで
三 フラワーデモ京都
四 フラワーデモを後押しした人びと
五 よそよそしさが拓く創造性
第一六章 地域の祭礼文化の研究者か、担い手か──「青森ねぶた祭」を巡るメディアとしての私《佐々木 てる》
一 研究対象と私の「ボーダー」
二 溶解する「ボーダー」──ねぶた師との出会い
三 メディアとしての私
第一七章 純粋な「話芸」を目指して──秋田実『漫才時代』(一九三六)を読む《後藤 美緒》
一 三八マイクを前にして──漫才がある日常を問う
二 総合雑誌と漫才──教養と娯楽に横たわる深い溝
三 解説書としての「漫才時代」
四 普段着の娯楽
第一八章 フィールドワークが日常生活になった話──ひきこもった当事者との結婚生活《伊藤 康貴》
一 ターニングポイントとしての発達障害診断
二 佐世保での共同生活をはじめる
三 生活がかみ合わない
四 アルコール依存と過食
五 変わるRのキャラクター
六 周期性のある爆発──PMS(月経前症候群)・PMDD(月経前不快気分障害)
七 語尾が聞こえにくい──APD(聴覚情報処理障害)
八 発達障害の診断と精神障害者保健福祉手帳の取得
九 そもそもの問題と感じられること──人とのコミュニケーション
一〇 就労移行支援──コミュニケーショントレーニングと施設外就労
一一 カプセルホテルへの就労
一二 服薬や発達特性との関連で生きづらさを語るという変化
一三 二〇二三年二月、関西に戻る
一四 境界を踏み越えることでみえることと、それを書くこと
第一九章 三つのボーダーとつきあい続けて──労働をめぐる新しい社会学の試み《宮地 弘子》
一 仕事と生活のボーダーへの関心──二四時間戦えますか
二 フィールドから研究室へ
三 フィールドと研究室のボーダーをさまよう
四 方法論的ボーダーに立つ
五 ある調査経験から
六 三つのボーダーとつきあい続ける意味
七 エピローグ
【コラム】日大好井ゼミ──〝アウェー〟から〝ホーム〟、そしてその先へ《吉村さやか》
【コラム】植田今日子さんのこと《松井 理恵》
あとがき《好井 裕明》
編者・執筆者プロフィール
内容説明
壁? 境界? 内と外の違いってなんだろう!
ひととひと、集団と集団、ひとと集団の間にあるもの=ボーダーという存在は実にやっかいだ。身を守る盾は、立場をかえると、するどい矛となって襲いかかる。
生きづらさの根にある「線引き」を、よってたかって考えてみた。
社会学者・好井裕明とその教え子の体験・思索・人生から生まれた、思いの滴たち。
つらい時、前を向く言葉が見つかることを目指して編まれた一冊です。
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はしがき
宮地弘子
今から一五年ほど前のある日、私は茨城県にある筑波大学に向かっていました。当時、教授をつとめておられた好井裕明先生に、大学院受験の許可を得るためです。先生とお会いした私は、知っている限りの知識を散りばめながら、おそらく穴だらけの研究計画を一通りまくしたて、大学院を受験し先生のゼミに参加する許可を求めました。私の気負いとは裏腹に、先生から返ってきた言葉は、拍子抜けするほどシンプルなものでした。「いいけど、自分で研究できる人じゃないとだめだから」という言葉です。
当時の私は、受験の許可を得られてほっとすると同時に、この言葉を、文字通り、研究への主体的な取り組みを求める言葉として聞いていました。しかし、好井ゼミを巣立ち、私自身が先生と呼ばれるようになった今、この言葉にはそれ以上の意味が込められていたようにも思います。研究対象とする社会に身を投じ、その社会を生きる「今、ここ」から自らの関心を追求していくこと。その覚悟が問われていたようにも思うのです。
その社会を生きる「今、ここ」から自らの関心を追求していく? いやいや、生活者としての具体的経験から距離をとり、確固たる説明や理論を打ち立てるのが科学ではないか、という声が聞こえてきそうです。確かに、そうした科学のアプローチから見えてくることもあるでしょう。でも、ある社会で生きることにもっとも精通し、その社会をつくりあげ、つくり変えているのは誰でしょうか。実際にその社会を生きている人々ではないでしょうか。
私たちの社会には、さまざまな「あたりまえ」があふれています。人と会ったら頭突きではなく握手をする、目上の人には口答えをしない、男性はたくましく女性はおしとやかに、といった諸々の知識です。私たちは、他者との関わりあいのなかでそれらの「あたりまえ」を見抜き、したたかに活用することで日常生活を円滑に営み、この社会をつくりあげています。そして、時にそれらの「あたりまえ」に疑いを投げかけることで、社会は大きく変わっていくのです。
「あたりまえ」を見抜き、したたかに活用しながら、時に声をあげてそれに疑いを投げかける。そんな生き生きとした人々の営みに徹底してつきあい、その社会を生きる「今、ここ」から自己をとりまく社会の理解を試みたときにこそ、その社会を生きる人々を知らず知らずのうちに拘束する力や、その力から人々を解き放つ道筋が見えてくるのではないでしょうか。好井ゼミでそうした社会学のスタンスを吸収したからこそ、私は、先生が発したシンプルな言葉に、それ以上の意味を見出すようになったのでしょう。
月日が流れるのは本当に早いものです。好井先生が大学の専任教員としてのお仕事に一区切りつけられたことをきっかけに、筑波大学、日本大学、関西学院大学の大学院ゼミを巣立った研究者たちが集まりました。そして、本書が編まれることになったのです。一九名の著者たちは、好井先生との出会いを通して、生き生きとした人々の営みに徹底してつきあう、という社会学のスタンスに魅入られた者たちです。本書の一風変わったタイトルと構成は、著者たちが魅入られた社会学のスタンスに由来しています。
序章では、「あたりまえ」を見抜き、したたかに活用しながら、時に声をあげてそれに疑いを投げかける、という生き生きとした人々の営みに徹底してつきあう社会学のスタンスを、ボーダーという言葉をキーワードとして、好井先生に読み解いていただきましょう。
続く第一部では、「ボーダーを可視化する」と題して、私たちの社会にあふれるさまざまな「あたりまえ」を描き出そうとするエッセーや、人々によって生きられた経験の豊かな意味を描き出そうとするエッセーを集めました。
第二部では、「ボーダーとともに生きる」と題して、さまざまな「あたりまえ」にあふれる社会のなかで、人々がたくましくしたたかに、あるいは、葛藤を抱えながら生きているさまを描き出そうとするエッセーを集めました。
そして第三部では、「ボーダーを引き直す」と題して、さまざまな「あたりまえ」に疑いを投げかけることを通して、自らの生活や、自らが生きる社会をつくりかえていこうとする人々の営みを描き出し、また、そうすることで社会学のありようをもつくりかえていこうとするエッセーを集めました。
本書の著者たちは、好井先生と出会い、先生の社会学に触れ、フィールドの「今、ここ」に身を投じて格闘を重ねるなかで、研究者あるいは当事者として感じた怒りや戸惑い、違和感の源泉を理解しようと試みてきました。同じように、読者の皆さんと本書との出会いが、皆さんの奥底にある関心を呼び覚まし、自己と自己をとりまく社会をより深く理解する一つのきっかけとなることを心から願います。それが、私たち著者を育んでくれた好井ゼミへの、何よりの恩返しになるはずだからです。
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執筆者・編者プロフィール(☆は編者)
★好井 裕明(よしい ひろあき)☆
1956年生まれ
東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学
京都大学博士(文学)
現在:摂南大学現代社会学部特任教授
専攻:日常的差別の社会学、社会問題のエスノメソドロジー、映画の社会学
主要著書:『排除と差別のエスノメソドロジー』(共著、新曜社、1991年)、『エスノメソドロジーの現実』(編著、世界思想社、1992年)、『エスノメソドロジーの想像力』(共編著、せりか書房、1998年)、『批判的エスノメソドロジーの語り』(単著、新曜社、1999年)、『会話分析への招待』(共編著、世界思想社、1999年)、『フィールドワークの経験』(共編著、せりか書房、2000年)、『実践のフィールドワーク』(共編著、せりか書房、2002年)、『差別と環境問題の社会学』(共編著、新曜社、2003年)、『社会学的フィールドワーク』(共編著、世界思想社、2004年)、『繋がりと排除の社会学』(編著、明石書店、2005年)、『「あたりまえ」を疑う社会学』(単著、光文社、2006年)、『ゴジラ・モスラ・原水爆』(単著、せりか書房、2007年)、『差別原論』(単著、平凡社、2007年)、『排除と差別の社会学』(編著、有斐閣、2009年)、『エスノメソドロジーを学ぶ人のために』(共編著、世界思想社、2010年)、『〈当事者〉をめぐる社会学』(共編著、北大路書房、2010年)、『違和感から始まる社会学』(単著、光文社、2014年)、『差別の現在』(単著、平凡社、2015年)、『戦争社会学』(共編著、明石書店、2016年)、『排除と差別の社会学(新版)』(編著、有斐閣、2016年)『「今、ここ」から考える社会学』(単著、筑摩書房、2017年)、『他者を感じる社会学』(単著、筑摩書房、2020年)、『「感動ポルノ」と向き合う』(単著、岩波書店、2022年)、『原爆映画の社会学』(単著、新曜社、2024年)、『くまさんのこだわりシネマ社会学』(単著、晃洋書房、2024年)など。
《社会学・恩師との出会い》
高橋徹先生、山岸健先生、江原由美子先生、井上俊先生、佐藤慶幸先生、中久郎先生、青木秀男先生、桜井厚先生、新睦人先生、神原文子先生、宝月誠先生、磯部卓三先生、鳥越皓之先生、後藤範章先生、激動の人生の節目節目にお世話になりました。ありがとうございました。
《好きな言葉》影響を受けた言葉は数多くありますので、いま好きな言葉に代えさせて頂きます。
「人生、下り坂最高!」
私が大好きな番組『こころ旅』で火野正平さんが自転車で坂を下り降りるとき、叫んだ言葉です。まさに「名言」だと。
《お勧めの一冊》
宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫)。死ぬまででいいから、一度でもこのようなわかりやすく、明晰な文章を書いてみたいと思います。
《取り組んでいるテーマ》
社会学的想像力の源泉として映画を読み解く社会学
社会学の論理や言葉、思いを若い人びとにどうすれば伝わるのか。その工夫とチャレンジ。
執筆者紹介(掲載順)
★堀 智久(ほり ともひさ)☆
1979年生まれ。
2011年筑波大学大学院人文社会科学研究科一貫制博士課程修了。博士(社会学)。
専攻は障害学、インクルーシブ教育論。
現在、名寄市立大学准教授。
主著書として、『障害学のアイデンティティ:日本における障害者運動の歴史から』(生活書院、2014年)、論文として、「英国障害者団体ALLFIEのインクルーシブ教育運動の思想と実践:障害の社会モデル、人権アプローチ、イマンシパトリー・ディサビリティ・リサーチ」(『ソシオロゴス』46号、2022年)など。
《好井先生との出会い》最初の出会いは、大学院入試を受ける前に研究室訪問をさせていただいたときだと思います。緊張しまくっていたこともあって、そのとき何を話したかはまったく覚えていません。当時はまだつくばエクスプレスがなくて、東京駅に向かう帰りの高速バスの車内からグッタリとしながら窓の外を眺めていたことだけが記憶にあります。
《影響を受けた言葉》春休みや夏休み明けの初回の大学院ゼミで、好井先生が毎回、「この本を出版した、あの本を出版した」と、自分の出版物を紹介されていました。「なぜ、こんなにハイペースで本を出版できるのだろうか」と、いまだに不思議でなりません。
《お勧めの一冊》好井裕明著『「感動ポルノ」と向き合う:障害者像にひそむ差別と排除』(岩波書店、2022年)。こんな使い方は想定されていないと思いますが、本を読まない(「映画なら観る」という)学生に卒論を書かせるためのありがたい書。
《取り組んでいるテーマ》インクルーシブ教育の日英比較研究。
★宮内 洋(みやうち ひろし)
1966年生まれ。
1998年10月、北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位修得退学。
専攻は、発達研究、臨床文化学。
現在、群馬県立女子大学文学部教授。
主著書として、『体験と経験のフィールドワーク』(北大路書房、2005年)、『〈当事者〉をめぐる社会学:調査での出会いを通して』(北大路書房、2010年、共編著)、『共有する子育て:沖縄多良間島のアロマザリングに学ぶ』(金子書房、2019年、共編著)、『〈生活-文脈〉理解のすすめ:他者と生きる日常生活に向けて』(北大路書房、2024年、共著)、『質的心理学講座第1巻 育ちと学びの生成』(東京大学出版会、2008年、共著)、論文として、「貧困と排除の発達心理学序説」(『発達心理学研究』第23巻、2012年)など。
《好井先生との出会い》本文でも述べましたが、好井先生が制度上の指導教員であったことは一度もありません。一方的に、好井先生の御著書を読み、勝手に学んでおりました。勇気を振り絞って、好井先生に一方的に拙稿をお送りしたところ、ご返信をいただけたことから、文通のようなかたちでやりとりをさせていただいてきました。
《影響を受けた言葉》「私が考え、実践しつつある一つの可能性は、『私』という『身体』の注視であり、『私』がかかわるワークの解読であり、『エスノメソドロジーはエスノメソドロジーである以前に、徹底した、その意味でラディカルなエスノグラフィーである』という端的な事実の確認である。」(好井裕明1994「螺旋運動としてのエスノメソドロジー-“生きられたフィールドワーク”のラディカルな方法として-」、『社会情報』Vol.3 No.2、99頁)
《お勧めの一冊》好井裕明・桜井厚編『フィールドワークの経験』(せりか書房、2000年)。
《取り組んでいるテーマ》日本社会における非中心的領域での生涯発達及び臨床発達心理学研究。
★矢吹 康夫(やぶき やすお)
1979年生まれ。
2013年立教大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。博士(社会学)。
専攻は社会学、障害学。
現在、中京大学教養教育研究院講師。
主著書として、『私がアルビノについて調べ考えて書いた本:当事者から始める社会学』(生活書院、2017年)、『履歴書の顔写真が採用選考の判断に及ぼす影響:企業人事を対象とした履歴書評価実験の結果概要の報告』(2021─22年度科学研究費補助金研究成果報告書、2023年)など。
《好井先生との出会い》好井さんにはじめて会ったのは、大学院の指導教員が主催していた研究会だったと思いますが、ちゃんと話をしたのはその後非常勤で担当された大学院のゼミで、さらに大学院退学後は日本学術振興会特別研究員(PD)の受け入れ研究者を引き受けていただき、日大の好井ゼミに参加するようになりました。
《影響を受けた言葉》具体的な言葉は思いつきませんが、人の研究に興味を持ち、いつも面白がって聞いていて(だからといって批判的なコメントをしないわけではない)、何かを思いついたときに嬉しそうに話している様子は、キャリアを重ねてきた現在、仕事で出会う相手への向きあい方の指針になっています。
《お勧めの一冊》好井裕明編『排除と差別の社会学(新版)』(有斐閣、2016年)。好井ゼミで学会報告の草稿を発表したら、その場で「新版が出るから書いて」と言われて、その原稿をもとに私も分担執筆した本。
《取り組んでいるテーマ》外見に基づく差別(ルッキズム)
★梅川 由紀(うめかわ ゆき)
1984年生まれ。
2020年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。
専攻は環境社会学。
現在、神戸学院大学現代社会学部講師。
主著書として、『現代社会の探求:理論と実践』(学文社、2023年、共著)、論文として、「『ごみ屋敷』を通してみるごみとモノの意味:当事者Aさんの事例から」(『ソシオロジ』第62巻1号、2017年)など。
《好井先生との出会い》学部時代、好井先生のご著書『批判的エスノメソドロジーの語り:差別の日常を読み解く』(新曜社、1999年)を読み、先生のものの考え方に感銘を受けました。居ても立っても居られず、先生の大学院ゼミに入りたいと話しに行ったのが出会いです。話をじっくり聞いてくださったのが印象的でした。
《影響を受けた言葉》「うん、面白いね」。ごみについて考えることは大好きなのに、関心事をどのように研究テーマへと昇華させ内容を深めるべきか、悩みながら行ったゼミ発表後にかけていただいた言葉です。私の興味を肯定しつつ、不足部分を指摘し、あるべき方向へと導いてくださいました。私も、そんな声かけのできる指導者に近づきたいです。
《お勧めの一冊》『「あたりまえ」を疑う社会学:質的調査のセンス』(光文社、2006年)。平易な言葉の裏に込められた深い指摘は、読むたびに新たな気づきを与えてくれます。
《取り組んでいるテーマ》「ごみとは何か」に興味があります。高度経済成長期や「ごみ屋敷」への調査から検討しています。ネガティブに語られることの多いごみを、ポジティブに語ってみたいと考えています。
★三浦 一馬(みうら かずま)
1990年生まれ。
2023年日本大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。
現在、足尾町内の介護施設にて介護士。
《好井先生との出会い》足尾町での共通の調査協力者の紹介でした。研究室で初めてお会いした時、進学することは決めていたものの、それ以上のことは決まっておらず、ただ大学院の相談をするつもりで伺いました。自分の研究についてでさえ要領よく話せない私の話を先生はそっと聞いて、「うちに来てもいいよ」と優しく受け入れてくださりました。
《影響を受けた言葉》先生と一緒に出掛けた足尾の調査では、常宿の温泉に浸かりながら、お酒を飲みながら、いろいろな話をしました。好井先生があることがきっかけで明確に作品の想定する読み手を変えたとおっしゃっていたのが強く印象に残っています。誰に向けて書いていくのか、当たり前のことですがいつも考え続けています。
《お勧めの一冊》阿保順子著『認知症の人々が創造する世界』(岩波書店、2011年)。認知症患者同士の会話は度々つじつまが合わない。それをあえて「あいまいなまま」にすることで、その事態に直面することを回避した「虚構の現実生活」がその場には創り出されている。
《取り組んでいるテーマ》過疎地域における高齢者の生活史。過疎地域で暮らしながら、そこで暮らし、衰えゆく方たちの語りを聞いていく。
★坂田 勝彦(さかた かつひこ)
1978年生まれ。
2010年筑波大学大学院人文社会科学研究科一貫制博士課程修了。博士(社会学)。
専攻は社会学、生活史。
現在、群馬大学情報学部教授。
主著書として、『ハンセン病者の生活史:隔離経験を生きるということ』(単著、青弓社、2012年)など。主な論文として、「炭鉱の遺構と記憶は開発主義以降のまちづくりでいかに見出されたか:ある産炭地における取り組みから」(『社会学評論』第75巻1号、2024年)など。
《好井先生との出会い》筑波大学大学院に入院(学)から修了までゼミに参加させていただきました。
《影響を受けた言葉》「次に研究の話を聞くときは、あなたがフィールドで出会った人や言葉から考えたことを、ぜひ話してほしい」。大学院に入ったばかりの新入生歓迎会で、大学院で取り組みたい研究について尋ねられ、一通り話したあとに、先生がおっしゃった言葉です。
《お勧めの一冊》好井裕明・三浦耕吉郎編『社会学的フィールドワーク』(世界思想社、2004年)。調査での「つまずき」や「失敗」もまた、考えるべき重要なテーマであることを正面から検討している論集で、いまでも何かあると読み直します。
《取り組んでいるテーマ》ハンセン病問題に関する調査・研究、戦後日本における石炭産業と産炭地に関する調査・研究。
★小野 奈々(おの なな)
1975年生まれ。
2008年筑波大学大学院人文社会科学研究科一貫制博士課程修了。博士(社会学)。
専攻はボランティア論、環境社会学。
現在、和光大学現代人間学部准教授。
主な論文として、「環境NPOによる社会問題構築の挑戦と困難 : 霞ヶ浦湖岸植生帯の緊急保全対策事業を事例として」(『和光大学現代人間学部紀要』16号、2023年)、「環境ガバナンスにおける環境正義の問題点:アフリカ系ブラジル人の鉱山コミュニティに対する環境保全と開発支援の事例研究」(『環境社会学研究』21巻、2015年)など。
《好井先生との出会い》筑波大学に異動する前の好井先生が、出張講義でエスノメソドロジーに基づいた調査研究をテーマにした集中講義を行い、それを受講したのが最初の出会いです。その後、異動後の好井先生のゼミナールを履修し、参加するようになりました。
《影響を受けた言葉》「『あたりまえ』を疑う」。好井先生は、常識に疑問を持ち、「普通」を見直す重要性を説いています。そして、フィールドで他者と出会うことの大切さを強調し、自己やマジョリティの「普通」を見直し、その傲慢さに気づく契機を得るように促してきました。「あたりまえ」を覆す社会学者の使命がこの言葉に込められています。
《お勧めの一冊》好井裕明著『「感動ポルノ」と向き合う:障害者像にひそむ差別と排除』(岩波書店、2022年)。善意や親切心に潜む無意識の差別に警鐘を鳴らす。ボランティア研究者必読の書。
《取り組んでいるテーマ》地域社会におけるボランティア活動の役割と影響。市民参加による公共政策の形成と実践。
★松井 理恵(まつい りえ)☆
1979年生まれ。
2011年筑波大学大学院人文社会科学研究科一貫制博士課程修了。博士(社会学)。
専攻は社会学。
現在、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部まちづくり学科准教授。
主著書として、『大邱の敵産家屋:地域コミュニティと市民運動』(共和国、2024年)、『〈日韓連帯〉の政治社会学:親密圏と公共圏からのアプローチ』(青土社、2023年、共編)、『特権と不安:グローバル資本主義と韓国の中間階層』(岩波書店、2023年、編訳)など。
《好井先生との出会い》好井先生が筑波大学に着任された2003年に大学院に入学し、右も左もわからない状況で好井ゼミに参加させていただきました。
《影響を受けた言葉》修士論文審査の最後に、好井先生から「これからジェンダーについて考えていくことになるだろう」と予言されました。当時はジェンダーにまったく関心がなくてピンと来なかったのですが、約20年が過ぎた今、その通りだったと驚いています。
《お勧めの一冊》R. エマーソン+R. フレッツ+L. ショウ著『方法としてのフィールドノート:現地取材から物語作成まで』(佐藤郁哉+好井裕明+山田富秋訳、新曜社、1998年)。好井ゼミで最初に輪読した本。当時は人数が少なかったので、輪読と個人発表を交互におこなっていました。フィールドワークへの不安と期待を抱えながら読みました。
《取り組んでいるテーマ》自分の生活にまともに向き合いながら、自分の研究を進めていくこと。
★石岡 丈昇(いしおか とものり)☆
1977年生まれ。
2008年筑波大学大学院人間総合科学研究科一貫制博士課程単位取得退学。博士(学術)。
専攻は社会学、身体文化論。
現在、日本大学文理学部教授。
主著書として、『エスノグラフィ入門』(ちくま新書、2024年)、『タイミングの社会学:ディテールを書くエスノグラフィー』(青土社、2023年)、『ローカルボクサーと貧困世界:マニラのボクシングジムにみる身体文化』(世界思想社、2012年、増補新版2024年)など。
《好井先生との出会い》好井先生が筑波大学に赴任された年の大学院ゼミで、最初の発表者として自分の研究構想を報告しました。他の先生の授業では「ボクシング? そんなの研究じゃない」と言われることもありましたが、好井先生はとてもおもしろがって、たくさん質問をしてくださりました。
《影響を受けた言葉》マニラへ長期のフィールドワークに出かける前夜に、院生たちが壮行会を開いてくれたのですが、その場でビールを飲みながら「ちゃんとフィールドノートをつけるように」と、好井先生に言われたことが印象に残っています。
《お勧めの一冊》好井裕明他著『排除と差別のエスノメソドロジー:いま−ここの権力作用を解読する』(新曜社)。
《取り組んでいるテーマ》マニラの片隅に生きる人びとをめぐるエスノグラフィ研究。
★石本 敏也(いしもと としや)
1975年生まれ
2003年筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科文化人類学専攻修了。博士(文学)。
専攻は日本民俗学。
現在、聖徳大学准教授。
編著として『人のつながりの歴史・民俗・宗教 : 「講」の文化論』(八千代出版、2022年、長谷部八朗監修、講研究会編集委員会編)、共著として『郷土の記憶・モニュメント』(岩田書院、2017年、由谷裕哉編)。論文として「ショウキサマが戦地に赴く説話」(『高志路』427号、2023年)、「棚田稲作の継承」(『日本民俗学』279、2014年)、「アルバムのなかの巡礼-編集し直される四国八十八箇所」(『日本民俗学』241、2005年)など。
《好井先生との出会い》筑波大学にて大学院生向けに開かれたゼミにてお会いしました。もっとも印象に残っているのは、好井先生が学部生に向けた講義で、下記の発せられた言を聞いたときです。後日、種明かしをして下さいましたが、当時下記の言葉からは、自分自身がいかに毎日を無自覚に信じ過ごしてしまっているかを、痛切に考えさせられました。
《影響を受けた言葉》「皆さんは、私が本当に好井裕明だと思っているのか。なぜそう信じるのか」。
《お勧めの一冊》好井裕明著『批判的エスノメソドロジーの語り:差別の日常を読み解く』(新曜社、1999年)。
《取り組んでいるテーマ》日本における文化現象が、如何に上の世代から下の世代に継承されるのか、自然環境や民間信仰などを事例としながら考えています。
★田中 久美子(たなか くみこ)
2007年筑波大学大学院人文社会科学研究科歴史・人類学専攻一貫制博士課程修了。博士(文学)。
専攻は民俗学、社会学。
現在、福岡工業大学社会環境学部准教授。
分担執筆として、『北部九州の盆綱:記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財』(福岡県文化財調査報告書第286集)(福岡県教育委員会、2024年)、『社会環境学へのアプローチとその展望:福岡工業大学社会環境学部20周年記念論集』(風間書房、2021年)など。
《好井先生との出会い》好井先生とはまず、『エスノメソドロジーの想像力』(山田・好井編、せりか書房、1998年)の中の足立重和さんの論文に接する中で出会いました。フィールドで暮らす人々との会話の中から立ち現れてくる民俗事象や人々の経験について考え、エスノメソドロジーに関心を持ったところに偶然、好井ゼミができました。
《影響を受けた言葉》ゼミではない雑談の中で好井先生が、深刻な表情で大学教員はサービス業ですというような話をしたことがありました。社会や大学教育が大きく変わってきた頃でしたが、フィールドという現場に入り込むことを学生と一緒に考え、現場の経験を伝えようとする時に、今でも自分はどうすべきかと当時を思い出します。
《お勧めの一冊》好井裕明著『批判的エスノメソドロジーの語り:差別の日常を読み解く』(新曜社、1999年)。「雑踏の秩序」の例にあるようないわゆる「人々の方法」は、そこで生きる人々を描いていく際のヒントになっています。
《取り組んでいるテーマ》死者とともに生きること、地域社会に寄り添って暮らす人々の「生き方」。
★香川 七海(かがわ ななみ)
1989年生まれ。専攻は社会学(教育社会学、歴史社会学)。
篠原保育医療情報専門学校などの勤務を経て、現在、日本大学法学部准教授。
この間、専修大学人間科学部などで非常勤講師をつとめる。
著書として、『〈戦後教育の現代史〉教育雑誌『ひと』目次集成』(ヴィッセン出版、2020年)、共編著として、『大田堯の生涯と教育の探求』(東京大学出版会、2022年)など。
《好井先生との出会い》好井先生が日本大学文理学部に着任された最初の年のこと。元・中学校教師で、当時、日本大学大学院の院生であった内藤正文さんから、好井先生の院ゼミを紹介していただきました。その後、日本大学、筑波大学、早稲田大学、慶應義塾大学などで好井先生の院ゼミを聴講することになりました。
《影響を受けた言葉》「インタビュー調査は他人の心に上がり込むようなもの」、「だから、土足で上がるんじゃなくて、せめて、靴を脱いで、その靴を揃えて上がったほうがいい」(大意)。調査対象者(当事者)との関係に悩んでいたとき、院ゼミでこのような言葉をいただきました。数年後、好井先生に、「覚えてますか?」と伝えたら、「そんなこと言ったかな?」と応答されて、ひっくり返りました。
《お勧めの一冊》キム・ジヘ著『差別はたいてい悪意のない人がする』(大月書店、2021年、尹怡景訳著)。『差別原論』ほか、好井先生の著作に触れたあと、「次は何を読もう」と迷っている方におすすめです。好井先生の著作と論点がリンクしていて、おもしろいと思います。実は、私もこういう本を書きたかった!
《取り組んでいるテーマ》①戦後日本における教育実践の社会史。②語りがたい「生きづらさ」研究。③映像における少年・少女、家族の表象。
★吉村 さやか(よしむら さやか)
1985年生まれ。
2021年日本大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程修了。博士(社会学)。
専攻は社会学、ジェンダー、フェミニズム、社会調査法。
現在、日本大学文理学部社会学科助手。
主著書として、『髪をもたない女性たちの生活世界:その「生きづらさ」と対処戦略』(生活書院、2023年)、『社会学者のための 論文投稿と査読のアクションリサーチ』(新曜社、2024年、分担執筆)、論文として、「『見た目問題』と生きる:ライフコースの視点から」(『社会福祉研究』147号、2023年)など。
《好井先生との出会い》2013年5月29日、好井研究室(日本大学文理学部桜上水キャンパス)にて。
《影響を受けた言葉》継続は力なり。
《お勧めの一冊》好井裕明著『違和感から始まる社会学:日常性のフィールドワークへの招待』(光文社、 2014)。
《取り組んでいるテーマ》外見とジェンダーの社会学、女性の生き方に関するライフコース的研究。
★大島 岳(おおしま がく)
2020年一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程修了。博士(社会学)。
専攻は社会学、社会調査(生活史/オーラルヒストリー研究)。
現在、明治大学大学情報コミュニケーション学部教員。
主著書として、『HIVとともに生きる:傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』(青弓社、2023年)、“Societal Envisioning of Biographical AIDS Activism among Gay People Living with HIV in Japan,” Historical Social Research, 48(4) :329-340(2023年)など。
《好井先生との出会い》本文をご参照ください。
《影響を受けた言葉》本文をご参照ください。
《お勧めの一冊》本文をご参照ください(科研報告書を含め四冊)。
《取り組んでいるテーマ》日本におけるエイズ・アクティヴィズム。
★山本 めゆ(やまもと めゆ)
2020年京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。
専攻は社会学、人種・エスニシティ論、南アフリカ地域研究、ジェンダー史。
現在、立命館大学文学部准教授。
主著書として『「名誉白人」の百年:南アフリカのアジア系住民をめぐるエスノ-人種ポリティクス』(新曜社、2022年)、分担執筆として『引揚・追放・残留:戦後国際民族移動の比較研究』(蘭信三・川喜田敦子・松浦雄介編、名古屋大学出版会、2019年)など。
《好井先生との出会い》博士後期課程在学中に関西社会学会大会で研究報告を行った際、フロアの後方からひときわ鋭い眼光を放っていらしたのが好井先生で、終了後にあわててお礼を申し上げた記憶があります。2020年からは日本大学文理学部社会学科に助手として勤務する機会を得て、好井先生をまったく異なる角度から拝見するという貴重な経験をしました。
〈影響を受けたこと〉助手としての約2年間、好井先生の超人的な仕事ぶりには圧倒されることばかりでした。とりわけメールのレスポンスはもしや影武者がいるのではと疑いたくなるほど早く、常に助手の動きの数歩先を読んだ内容で、どれだけ助けられたことか。そのうえときには夕食の献立がさらりと書かれてあり、ただただ頭が下がる思いでした。
《お勧めの一冊》質的調査に挑戦する学生には、いつも好井裕明著『「あたりまえ」を疑う社会学:質的調査のセンス』(光文社、2006年)を勧めています。
《取り組んでいるテーマ》アパルトヘイト期南アフリカにおける「名誉白人」研究の一環として、台湾での調査を始めました。
★佐々木 てる(ささき てる)
1968年生まれ。
2003年筑波大学大学院社会科学研究科博士課程修了。博士(社会学)。
専攻は社会学。
現在、青森公立大学教授。
主著書として、『複数国籍』(明石書店、2022年、編著)、『パスポート学』(北海道大学出版会、2016年、共著)、『マルチ・エスニック・ジャパニーズ:〇〇系日本人の変革力』(明石書店、2016年、編著)、論文として、「人口減少地域における外国人政策 :青森県を事例として」(『社会分析』46号、2019年)、「複数国籍容認にむけて:現代日本における重国籍者へのバッシングの社会的背景」(『移民政策研究』11号、2019年)など。
《好井先生との出会い》筑波大学の助手時代に先生が部屋に来てくださり、朝一緒にコーヒーを飲みながらいろいろな事をお話したのがきっかけ。また指導教員が定年退職した後、好井先生に責任教員として面倒をみてもらっていた。
《影響を受けた言葉》影響を受けた言葉そのものはあまり記憶にないが、研究スタンスについてはかなり影響を受けた。特に平易な言葉で、奥深く、日常生活に根差した文章を書く好井先生のスタイルは、自分の目標もしくは指針となっている。
《お勧めの一冊》好井裕明著『「今、ここ」から考える社会学』(筑摩書房、2017年)
平易な言葉ではあるが、社会学の視点がしっかりと説明されている。教える側としても非常に参考になる。
《取り組んでいるテーマ》最近は地域社会における日常文化、常民文化について。特に祭礼を中心に行っている。具体的には「青森ねぶた祭」の研究。なおこれまで通り、ライフ・ワークとしての国籍研究は継続している。
★後藤 美緒(ごとう みお)
1981年生まれ。
2014年筑波大学大学院人文社会科学研究科一貫制博士課程修了。博士(社会学)。
専攻は歴史社会学、知識人論、大衆文化論。
現在、相模女子大学人間社会学部准教授。
論文として、「話芸を書き残す:漫才作家秋田実と雑誌」(阪本博志編『大宅壮一文庫解体新書』勉誠出版、2021年)「関東大震災と学生たちの自発的活動の展開:東京大学学生救護団および帝大セツルメントを中心に」(『都市問題』114巻9号、2023年)、「幹線移動者たち:国道16六号線上のトラックドライバーと文化」(塚田修一・西田善行編『国道16号線スタディーズ』青弓社、2018年)など。
《好井先生との出会い》一度目は大学院ゼミで、二度目は務めた大学先で、三度目はこの本です。教師のみならず、上司として、研究者として出会うなど学生時代には想像していませんでした。どの立場でお会いしても、決断の速さ、それを支える情報量と整理の精度、そしてフットワークの軽さに圧倒されます。好井先生の多筆ぶりは日々の過ごし方に現れているように思います。
《影響を受けた言葉》「漫才が聴こえるように書いてよ」、「漫才には古典がない」。上方漫才に取り組み始めた頃のゼミ発表でいただいたコメントです。このときの漫才の発音はたいへん珍しく大阪のアクセントでした。核心を一言で突きすぎていることにじんわりと気づき、本稿をはじめリプライ中です。
《お勧めの一冊》『「感動ポルノ」と向き合う』(岩波書店、2022年)です。ゼミで1年かけて読みました。文中の好井先生に倣い、参加者に映画を分析してもらいました。学生とともに手と頭を動かして向き合った一冊です。
《取り組んでいるテーマ》博士論文のテーマになった「近代日本における知識人と大衆の関係」、そこから派生した「大衆娯楽とローカルメディア」、さらに近年は「首都圏における旧軍用地の転用と地域社会」の3つのテーマに取り組んでいます。できるだけ「現場」に立つことを心掛けています。
★伊藤 康貴(いとう こうき)
1984年生まれ。
2015年関西学院大学大学院社会学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。博士(社会学)。
専攻は社会問題論、地域社会学、家族社会学、当事者研究。
現在、大手前大学現代社会学部准教授。
主著書として、『「ひきこもり当事者」の社会学:当事者研究×生きづらさ×当事者活動』(晃洋書房、2022年)など。
《好井先生との出会い》毎年夏季に開講されていた関学の集中ゼミが最初の出会いだったと思います。私の指導教授は三浦耕吉郎先生だったので、三浦先生や大学院の先輩方のすすめもあって参加しました。その様子は本書コラムでも書いていますが、いま振り返ると、毎年夏の4日間という短期間でありながらも(短期間だからこその)濃密な好井ゼミは、研究者としての自分の感性を研ぎ澄ますとても貴重な機会だったと思います。
《影響を受けた言葉》たしか一番最初の私の発表の際におっしゃられた「自分史みたいなそういうものを書いたんなら、それをちゃんと後始末しなきゃいけないね」という言葉だったと思います。なかなか後始末が終わらないですが(むしろ始末に負えないぐらい)、月並みながら、今回の寄稿した原稿に取り組むなかで、やはり書くことが始末のつけ方のひとつであろうということを実感しました。
《お勧めの一冊》好井裕明・三浦耕吉郎編『社会学的フィールドワーク』(世界思想社、★★年)。
《取り組んでいるテーマ》自分も経験した「ひきこもり」と呼ばれる社会問題について、当事者グループや家族会の活動をフィールドワークしながら、その営みの共同性や創造性に着目しています。
★宮地 弘子(みやじ ひろこ)☆
1971年生まれ。
2015年筑波大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。
専攻は質的社会調査、労働社会学。
現在、職業能力開発総合大学校 能力開発応用系 准教授。
主な論文として、「柔軟で裁量的な働き方の実現に向けて:デザイン労働をめぐる問題経験の語りから」(『語りの地平』8号、2023年)、主著書として、『デスマーチはなぜなくならないのか』(光文社、2016年)など。
《好井先生との出会い》「会社を辞めて研究したいので拾ってください」と先生の研究室に押しかけました。よく拾ってくださったなあと思います。先生の気の迷い?に感謝です。
《影響を受けた言葉》先生から言葉で諭された記憶があまりありません。むしろ、「勝手に盗め」と言わんばかりに旺盛な研究活動を展開される先生の背中から多くを学んだように思います。先生の筆の速さだけは、どう頑張っても盗める気がしませんが。
《お勧めの一冊》好井裕明著『「あたりまえ」を疑う社会学』(光文社、2006年)。テーマを問わず、読む人の奥底で脈打つ社会学的関心を呼び覚ます一冊です。
《取り組んでいるテーマ》ITエンジニアをはじめとした専門職の労働問題に取り組み続けています。