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民族の移動と文化の動態

中国周縁地域の歴史と現在

民族の移動と文化の動態

歴史・民族両面から、移住の要因、非漢族の移動、民族間接触、国家政策など、民族の移動とそれに伴う様々な文化の「変容」を考究。

著者 塚田 誠之
ジャンル 人類学
シリーズ 人類学集刊
出版年月日 2003/03/24
ISBN 9784894890367
判型・ページ数 A5・728ページ
定価 本体12,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

序文  塚田誠之

      ●第一部 移動の諸相

清代甘粛・陝西回民の新疆進出──乾隆期の事例を中心に  華 立

一 問題点の所在
二 移住の開始と清朝の対応
三 事例でみる甘粛・陜西回民移住の大勢
四 新疆における回民移住者の職業と生態
五 結びにかえて

中国内蒙古自治区におけるモンゴル族の季節移動の変遷  小長谷有紀
    ──錫林浩特市域の事例から

一 はじめ
二 調査地の概要
三 季節移動の変容
四 錫林浩特市への移住
五 さいごに

客家語と客家のエスニック・バウンダリーについての再考  瀬川昌久

一 はじめに
二 羅香林の客家語研究とその影響
三 客家語の系統論争
四 「客家語話者」の境界確定とショオ族の存在
五 客家語の多様性

「モン・ミャオ」における移住と文化社会戦略  谷口裕久

一 はじめに
二 移住と「モン・ミャオ」
三 近来の社会関係と移住
四 おわりに

タイ北部、ミエン族の出稼ぎ──二つの村の比較から  吉野 晃

一 はじめに
二 焼畑耕作による移動──出稼ぎ前史
三 焼畑耕作の縮小──出稼ぎの主要因
四 ミエン・ヤオ族の出稼ぎ──その全国的傾向
五 国内出稼ぎの多い村──ナーン県NG村の事例
六 海外出稼ぎの多い村──パヤオ県PY村の事例
七 考察
八 おわりに

      ●第二部 移動と民族間関係

太平天国前夜の台湾における反乱と社会変容
   ──道光十二年の張丙の乱と分類械闘を中心に  菊池秀明

  はじめに
一 反乱発生の経緯とその背景
二 反乱の拡大過程とその特徴
三 分類械闘の展開とその特質
四 反乱鎮圧の経緯と清朝の台湾統治
  小 結

フロンティアにおける人口流動と民族間関係  長谷川 清

  ──雲南省、西双版納タイ族自治州の事例
一 はじめに
二 雲南における辺境開発と人口移動
三 シプソンパンナーにおける複合社会の形成と人口動態
四 国境に跨る地域経済圏と流動人口の現状
五 フロンティアと民族間関係
六 おわりに

漢族がまつるモンゴルの聖地
    ──内モンゴルにおける入殖漢族の地盤強化策の一側面  楊 海 英

  はじめに
一 調査地概況と漢族の流入
二 聖地オボーにたつ祖師廟
三 モンゴル人をとりこむ策略
四 結びにかえて

      ●第三部 移動と文化の動態

土族語はなぜ残ったか──青海土(トゥー)族の漢化と母語維持  庄司博史

一 はじめに
二 土族をとりまく状況
三 土族語
四 土族の形成
五 土族の農民化と漢族の影響
六 土族語維持の社会言語学的分析
七 土族語維持についての総合的考察
八 結論

「西番」におけるプミ語集団
    ──四川桃巴プミ・チベット族と雲南花プミ族を事例として  松岡正子

  はじめに
一 「西番」におけるプミ語集団
二 地域の概況と民族間関係
三 家族関係と家庭経済
四 新年「ヲシ」と山の神祭り
  結び

中華人民共和国期における新疆への漢族の移住とウイグル人の文化  新免 康

  はじめに
一 中華人民共和国期における新疆の漢族
二 中華人民共和国期におけるウイグル人の言語・文化の変動
三 民族史・民族文化の強調の背景と意味
  おわりに

プユマの対人呼称法  蛸島 直

一 はじめに
二 個人名とあだ名
三 親族名称
四 テクノニミー等
五 年齢階梯制と呼称法
六 その他の呼称法
七 まとめと考察

台湾タオのテクノニミーと慣習名の正名化  野林厚志

一 序
二 タオ概略
三 タオのテクノニミー
四 統治体制の変化と名前の動態
五 結語

壮族の婚姻習俗『不落夫家』に関する一事例
    ──一九四九年以前の広西西部靖西県安徳鎮における  塚田誠之

一 はじめに
二 調査地の概要と住民の移住
三 通婚圏
四 「不落夫家」に関する当事者の語り
五 考察
六 小結

デオヴァンチとその周辺
    ──シプソンチャウタイ・タイ族領主層と清仏戦争  武内房司

  はじめに
一 多重主権地域としてのシプソンチャウタイ
二 デオヴァンチの周辺
  おわりに

  編者あとがき
  写真・地図・図表一覧
  索引

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内容説明

内蒙古・雲南・ベトナムなど広範な周縁地域の事例から、民族の移動とそれに伴う様々な文化の「変容」を考究した論集。歴史・民族両面から移住の要因、非漢族の移動、民族間接触とその諸相、国家政策など、多岐にわたる主題を提示。


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序文  塚田誠之


周知のように、中国には多様な民族集団が存在している。それらは歴史上、人々の頻繁な移動と他集団との相互作用を経て形成されてきた。また、現在においても沿海部を主な移住地とする出稼ぎやその他の形で進行中である。中国において人の流動は一刻もとどまることなく続けられてきたのである。本書は一九九七年度から一九九九年度にかけて国立民族学博物館で行われた共同研究「中国における諸民族の移動と文化の動態──いわゆる周縁地域を中心として」の成果である。この共同研究では、中国南部および北部地域、さらには人々の実際の生活圏を考慮し、歴史的に画定された政治的な国境線にとらわれずに、台湾や東南アジア大陸部にまたがる中国周縁地域という広い地域の諸民族を対象として、人の移動と文化の動態に焦点を当てた。


中国における人の移動に関しては、一九八〇年代後半のいわゆる「盲流」や一九九〇年代初期以降の「民工潮」という、内陸部から沿海部への大規模な出稼ぎ移住が全世界の注目を集めた。これらの現象の生起を一つの契機として、現在の、あるいは歴史的な移住に対する関心が高まり、筆者を代表者として一九九四年度から一九九六年度にかけて南部地域を中心として「中国大陸諸民族の移住とエスニシティ──華南地域を中心とした整理と分析」と題して共同研究を行った。その研究の主要な目的は、移住のプロセスと国家政策、移住にともなって生ずる民族間関係、移住にともない他者と接触する過程において生ずる新たな民族集団の形成や個人のアイデンティティの揺らぎ、といった点の解明にあり、その成果は塚田誠之・瀬川昌久・横山廣子編『流動する民族──中国南部の移住とエスニシティ』(二〇〇一年、平凡社)として上梓された。


その際に課題として残された問題点の一つとして、中国の周縁地域を広く対象として諸事例を比較検討することがあった。人の移動は南部地域にとどまらず、中国北部やほかの地域にも見られたのである。また、他者との接触・交流の過程において文化現象になんらかの変化が生じたことは、すでに上記の一九九四年度から一九九六年度の共同研究でもその一端を取り上げたが、そもそも移住にともなう変化を含めて中国における諸民族集団の文化の動態に関してはまだまだ研究の蓄積が十分ではなかった。


研究の継承とさらなる発展・深化を得ようとする問題意識のもとに共同研究が行われ、その成果として編まれたのが本書である。本書は中国のさまざまな地域の事例を扱っている。たとえば、南部では雲南・四川・広西・広東など、北部では内蒙古・青海・陜西・甘粛・新疆、さらには台湾、ヴェトナム西北部、タイ北部と、周縁地域をほぼカヴァーしている。中国東北地域、現在のチベット自治区、さらにモンゴル・ロシアなどの北部における中国との国境地域の(中国側から見ての)いわば外側の地域が扱われなかったものの、主要な地域がほぼ網羅されている。


主題として扱われた民族として、中国では漢族・回族・ウイグル族・モンゴル族・チワン族・タイ族・トゥー族・チベット族・プミ族・ミャオ族が、タイではミエン族(中国のヤオ族の一派が移住したもの)、ヴェトナムでは現在のターイ族に当たる民族が、台湾ではプユマ族・タオ族が扱われた。漢族としては、一般の漢族のほかに下位集団「客家」が扱われた。それぞれの地域を理解する際のポイントとなるような主要な民族がほぼ出揃った感がある。


方法論のうえから言えば民族学(文化人類学)以外に歴史学的な分析をも重視した。歴史学と民族学との緊密な連携のうえに成り立った研究という点は本研究の大きな特徴である。なお、本書には本格的な歴史学的分析方法に重点が置かれた論文に加えて、現地調査によって得られた資料と歴史文献とを結合させた論文もある。言うまでもなく歴史に対する理解は、現在生じている事象をより深く掘り下げて把握するための足懸りを構築するうえで重要であり、このような調査資料と歴史文献の両方を用いた研究が多く収録されているのも、本書の特徴の一つである。


本書は、移動・移住のそれぞれの地域と民族における諸相、移動・移住にともなう民族間関係のありよう、移動・移住を契機とする文化現象の動態の三部から構成されている。以下に各論文の要点を挙げよう。……後略



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執筆者紹介(掲載順)
華 立(ファ リー)
1950年生まれ、中国・北京市出身、中国人民大学大学院博士課程修了、歴史学博士。
中国人民大学清史研究所専任講師、副教授を経て、現在、大阪経済法科大学教養部教授。
著書に『清代新疆農業開発史』(黒龍江教育出版社、1996年)など。

小長谷有紀(こながや ゆき)
1957年、大阪府生まれ、京都大学大学院博士課程修了。
京都大学助手、国立民族学博物館助手を経て、現在、同館助教授。
著書に『モンゴル草原の生活世界』(朝日選書、1996年)など多数。

瀬川昌久(せがわ まさひさ)
1957年、花巻市生まれ。
現在、東北大学東北アジア研究センター教授。専攻:文化人類学。
主著に『族譜──華南漢族の宗族、風水、移住』(風響社、1996年)など。

谷口裕久(たにぐち やすひさ)
1962年、京都市生まれ。神戸大学大学院博士課程単位取得退学。
現在、同志社大学非常勤講師。
論文に「新しいカミの創造と『癒し』──タイ少数民族における女性神信仰の誕生」京都文教大学「宗教と癒し」研究会編著『宗教と癒し──救いの手がかりを求めて』(三五館、2000年)など。

吉野 晃(よしの あきら)
1954年、東京都生まれ。東京都立大学大学院博士課程単位取得退学。
東京学芸大学講師、助教授を経て、現在、同大学教授。
論文に「中国からタイへ──焼畑耕作民ミエン・ヤオ族の移住」塚田誠之他編『流動する民族──中国南部の移住とエスニシティ』(平凡社、2001年)など。

菊池秀明(きくち ひであき)
1961年、神奈川県生まれ、東京大学大学院博士課程修了。
中部大学国際関係学部講師、同助教授を経て、現在、国際基督教大学準教授。
著書に『広西移民社会と太平天国』【本文編】【史料編】(風響社、1998年)など。

長谷川 清(はせがわ きよし)
1956年、埼玉県生まれ。上智大学大学院博士後期課程単位取得退学。
岐阜聖徳学園大学助教授を経て、現在、文教大学教授。
論文に「中華の理念とエスニシティ──雲南省徳宏地区、タイ・ヌーの事例から」塚田誠之他編『流動する民族──中国南部の移住とエスニシティ』(平凡社、2001年)など。

楊 海 英(ヤン ハイイン)
1964年、中国内モンゴル自治区生まれ。総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了。博士(文学)。
中京女子大学助教授等を経て、現在、静岡大学人文学部助教授。
著書に『オルドス・モンゴル族オーノス氏の写本コレクション』(国立民族学博物館・地域研究企画交流センター、2002年)など。

庄司博史(しょうじ ひろし)
1949年、大阪府生まれ、関西外国語大学大学院修士課程修了。
国立民族学博物館助手、助教授を経て、現在、同博物館教授。
編著書に『ことばの二〇世紀』(ドメス出版、2000年)など。

松岡正子(まつおか まさこ)
1953年、長崎県生まれ、早稲田大学大学院博士課程単位取得退学。
現在、愛知大学現代中国学部教授。
著書に『中国青蔵高原東部の少数民族──チャン族と四川チベット族』(ゆまに書房、2000年)など。

新免 康 (しんめん やすし)
1958年、大阪府生まれ。東京大学大学院博士課程単位修得退学。
現在、中央大学文学部教授。
著書に『新疆ウイグルのバザールとマザール』(真田安・王建新との共著)(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2002年)など。

蛸島 直(たこしま すなお)
1957年、北海道生まれ、筑波大学大学院博士課程単位取得退学。
現在、愛知学院大学文学部教授。
論文に「プユマ族のカルマハンと知識──系譜の認識機構を中心に」(『台湾原住民研究』6、風響社、2002年)など。

野林厚志(のばやし あつし)
1967年、大阪府生まれ、東京大学大学院博士課程中退。
現在、国立民族学博物館助手。
論文に「台湾パイワンのイノシシ猟」『核としての周辺』(京都大学学術出版会、2002年)など。

塚田誠之(つかだ しげゆき)
1952年、北海道生まれ。北海道大学大学院博士課程修了。
現在、国立民族学博物館民族社会研究部教授。
著書に『壮族社会史研究──明清時代を中心として』(国立民族学博物館、2000年)、『壮族文化史研究──明代以降を中心として』(第一書房、2000年)など。

武内房司(たけうち ふさじ)
1956年、栃木県生まれ。東京大学大学院博士課程中退。
現在、学習院大学文学部教授。
論文に「中華文明と『少数民族』」『岩波講座 世界歴史 第28巻・普遍と多元』(岩波書店、2000年)など。

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