01 ラグビー&サッカーinフィジー
スポーツをフィールドワーク
フィジーのラグビースタイルを人類学の目で捉える。インド系とフィジー系のラグビーがあり、ヨーロッパ・スポーツの土着化があった。
著者 | 橋本 和也 著 |
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ジャンル | 人類学 |
シリーズ | 京都文教大学 文化人類学ブックレット |
出版年月日 | 2006/08/30 |
ISBN | 9784894897618 |
判型・ページ数 | A5・50ページ |
定価 | 本体500円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
1 世界に広がるスポーツ──土着化、国民スポーツ化
1 ローカル化、土着化、国民スポーツ化
2 スポーツの南北問題
2 世界の中のフィジー諸島共和国
3 インド系住民のサッカー
1 二〇歳以下ユース代表の調査
2 フィジー系選手とインド系選手
3 ビジネスとしてのサッカー
4 フィジー系住民のラグビー
1 フィジー・ラグビーの近代化
2 フィジー文化としてのラグビー
3 文化を代表する存在としてのマネージャー
4 「フィジー・ラグビー」とは
5 伝統文化とラグビー
おわりに 「全体的な理解」にむけて──フィールドワークを終えて
参考文献
本書をもっと理解するために
内容説明
フィジアン・マジックで知られる独特のラグビースタイルを人類学の目で捉える。そこにはインド系とフィジー系のラグビーがあり、ヨーロッパ・スポーツの土着化があった。京都文教大学・文化人類学ブックレット 1巻。
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「全体的な理解」にむけて
フィールドワークを終えて
本書では、これまで私が南太平洋の小国フィジー諸島共和国のスポーツをフィールドワークした成果を紹介してきた。フィールドワークではまず調査対象を絞り、できるだけ詳細な観察と聞き取りを行う。いつ、だれが、どのような行動や発言をするのかを観察し、次にその理由を行為者や関係者から聞く。そして考えた自分なりの解釈を現地の人に聞いてもらい、妥当かどうかを確かめる。同意が得られなかった場合にはさらに調査を深めていく。このような過程を経てフィールドワークの成果は発表されるのである。
しかし、フィールドワークで調査対象としたスポーツの詳細が分かっても、当該地域の歴史や文化、そしてスポーツをとりまく国内的・国際的な状況が見えてこなければ「全体的な理解」にはたどり着けない。フィールドワークでは調査対象をとりまく全体的な状況をつねに意識し、そのなかで対象がどのような役割や意味をもっているのかを分析し考察することが求められる。そのための効果的な方法は比較の視点を取り入れることである。本書ではおもにフィジーのサッカーとラグビーを比較し、その他に日本とフィジーのラグビーの違いや、野球とベースボールとの違いなども参考にした。するとそれぞれのスポーツを楽しむ人々の考え方の違い、文化の違いが浮き彫りになってきた。
繰り返すが、フィールドワークでは調査対象の詳細を知っただけで満足し、広がりのない理解で終わってしまう危険がある。フィジーの状況は複雑であった。スポーツの場面だけでなく、それを楽しみ熱中する人々と彼らの文化的・経済的・政治的な背景についての理解を深めなければ、フィジーのスポーツについて理解したとは言えない。ラグビーを楽しむ先住のフィジー系住民は、経済的に優位に立つインド系住民の動向をつねに意識し、彼らに対抗でき、彼らより優位に立てる領域であるスポーツに精力を注いでいる様子がうかがえる。
フィジーのラグビーやサッカーを調査することによって、世界的なスポーツの状況とその中におけるフィジーのスポーツの位置が明らかになる。フィジーの「スポーツをフィールドワーク」することを通して、フィジーの植民地化の歴史や民族問題が明らかになる。「フィールドワーク」するには調査対象とそれをとりまく地域全体、さらには世界的な状況についての考察をつねに心がける必要がある。
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著者紹介
橋本和也(はしもと かずや)
京都文教大学文化人類学科 教授
著書
『キリスト教と植民地経験』(1996年、人文書院)
『観光人類学の戦略』(1999年、世界思想社)
『観光開発と文化』(編著、2003年、世界思想社)
『ディアスポラと先住民』(2005年、世界思想社)
論文
「スポーツにおける語りと土着性:近代スポーツの土着化」『スポーツ人類学研究』第3号(2003年)