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比較日本文化研究 11

比較日本文化研究 11

国際的・学際的視野からの日本文化研究・人間文化研究のための雑誌。特集:「冥福という〈来世〉──高齢化社会と変わる老人観」。

著者 比較日本文化研究会
ジャンル 定期刊行物
シリーズ 雑誌 > 比較日本文化研究
出版年月日 2007/12/08
ISBN 9784894899117
判型・ページ数 A5・152ページ
定価 本体1,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

新たな出発に向けて 小松和彦

【特集】冥福という〈来世〉──高齢化社会と変わる老人観

特集について 山 泰幸

スウェーデンの冥福観と老人介護  大岡頼光

「スウェーデンの冥福観と老人介護」へのコメント──民俗学の立場から  岩本通弥

日本とスウェーデンの人口高齢化──異なる歴史過程の比較から見えてくるもの  高坂宏一

【論文】

成立史上における『紙芝居の作り方』の位置──紙芝居に関する最初の単行本、その意義と著者久能龍太郎のこと  堀田 穣

巡礼による死者供養について──四国遍路での「供養」を中心として  中山和久

【研究ノート】

民俗社会における「陰陽師」の存在形態・補遺──近世槇山郷の博士関係文書紹介  小松和彦

近代大和の民俗資料「奈良県風俗誌」──高田十郎の関わりを中心に  安井眞奈美

【書評論文】

日本文化における伝播の特質──The Culture of Secrecy in Japanese Religionをめぐって マルクス・リュッターマン

執筆者紹介
彙報
英文目次
編集後記

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内容説明

国際的・学際的視野からの日本文化研究・人間文化研究のための研究・交流の場となることを目指して創刊。11号からはより開かれた雑誌を目指しリニューアル。特集:「冥福という〈来世〉──高齢化社会と変わる老人観」。


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新たな出発に向けて 小松和彦


比較日本文化研究会は、国際的・学際的視野からの日本文化・人間文化研究のための交流の場となることを願って一〇年余り前に設立されました。


設立趣旨は上述に尽きますが、私たちはその趣旨のなかに、特定のイデオロギーや理論に偏重しないことと、地味ではあっても持続させることも託しました。言い換えれば、多様な研究内容の研究会、開かれた研究会、息の長い研究会を目指したのでした。


その機関誌として創刊した本誌もまた、同様の趣旨のもとで編集され、一九九三年の創刊号を皮切りに、紆余曲折を経ながらも号を重ね、昨年第一〇号を発行し、一つの区切りに至りました。


十年一昔といいます。しかし、昨今のめまぐるしい世の中の動きは、象牙の塔などと揶揄されもした学問の世界にも波及し、この十年の間に、大学を初めとして研究所、専門学校等は激しい改編あるいは統廃合にさらされるという事態に直面しています。十年一昔どころか、今や三、四年で一昔と感じるほど、学問も大学の学部や学科の編成も、変転が繰り返されているのではないでしょうか。


そのようななかで、本誌が一〇号を数えたことは喜ばしいことです。しかし、そのいっぽうでは、本研究会を取り巻く諸環境の変貌を前にして、今後も研究会や会誌を従来通りのやり方で持続させていく意義があるのか、という反省も迫られることになりました。


もちろん、この研究会がこの間、変転する学問的流行や理論的変遷に対して無関心であったわけではありません。年に一度の研究会では、事実上の維持会員である運営委員たちの合議によって、新しい研究動向を踏まえたテーマ設定を行ない、その成果を機関誌にも反映させてきました。


とはいえ、やはり一〇年を越える歳月は、従来通りの研究会運営や会誌の編集を続けるだけでは、その未来は明るいものとはいえないでしょう。つまり、さらなる飛躍をするためには、適切なメンテナンスが必要になってきます。


そこで、合議を重ねた結果、巻末の運営委員会報告に詳述したように、とりあえず会誌について、これまでの一〇号をかりに第一期とすれば、これからの一〇号を第二期としてとらえ、装幀を新たにするとともに、従来の蓄積を踏まえつつも、今後新しい企画も積極的に試みようということになりました。


周知のように、現在ではあまり目立たない基礎的研究が危機に瀕しています。役に立つ学問、商品に結びつく科学技術開発に、国家や企業の投資が偏向してきているからです。とりわけ人文・社会系の基礎研究は、すぐに役に立たないことが多いため、自然科学系の基礎研究以上にないがしろにされています。さらに、大学もまた、大学の増加と少子化の大波に襲われて、学生定員確保のために、目先の改革に躍起になり、やはり、一見役に立たないかにみえる学問の軽視が増しています。


しかし、そうした状況にあっても、私たちは、人文学系の学問が、最終的には人間らしく生きるための知恵つまり教養を培うためにある、ということを確信しております。


たとえば、環境破壊とそれによってもたらされた温暖化現象が典型的に物語るように、科学技術が進歩し、それによって生活が便利になったとしても、それとともに人間の生活が豊かになり、人間に好ましい未来を思い描けるわけではありません。


人間の生活が豊かになるためには、人間の研究が不可欠なのです。人間の歴史を学び、その評価と反省の上に、未来を切り拓かなければならないのです。昨今の人間が直面している状況は、高度に発達した科学技術の恩恵を受けるのに反比例するかたちで、人間としての豊かさが失われているかに思われるということです。この状況は今後ますます悪化するかもしれません。


しかし、悪化すればするほど、まだ多くの人々には気づかれてはないかもしれませんが、人間が人間らしくふるまうのための学問、グローバル化する時代での日本人のあるべき姿を探る学問が求められるのではないでしょうか。


「人間らしさ」や「日本人としてのあるべき姿」は、文化であり、時代の産物であり、これまでも作られ、これからも現状や未来に合わせて作られていくことでしょうし、また作っていかなければなりません。


もちろん、本誌は、そうした大それた理想を真正面から掲げた研究誌ではありません。むしろ、私たちの狙いは、「日本文化」と「比較」というキーワードを手がかりに、そうした議論の素材となる論点を探り、地味ながらも研鑽を積み重ね、人間理解を少しでも深めることで、豊かな文化をもった未来の建設にささやかながらも役立てば、というところに置いてきました。


しかしながら、昨今の学問状況を眺めると、こうしたささやかな研究の場さえも確保することが困難になりつつあり、一〇年の節目にあたって、今後も本誌のような場を確保しておくことの大切さを、改めて痛感いたします。


志ある会員の参加を募るとともに、会員諸氏が、この研究会をあるいは会誌を大いに利用し、ますます活性化させ、未来を切り拓く一翼となる雑誌に育て上げてくれることを切望いたします。

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《執筆者紹介》(掲載順)(a生年 b所属 c主要著書・論文 d専攻)

山 泰幸(やま・よしゆき) a一九七〇年 b関西学院大学社会学部准教授 c編著『現代文化の社会学入門』(ミネルヴァ書房、二〇〇七年)、共著『文化遺産の社会学』(新曜社、二〇〇二年) d民俗学、思想史、社会文化理論

大岡頼光(おおおか・よりみつ) a一九六五年 b中京大学現代社会学部准教授 c『なぜ老人を介護するのか??スウェーデンと日本の家と死生観』(勁草書房、二〇〇四年)、「スウェーデンの海難事故における慰霊と追悼」国際宗教研究所編『現代宗教2006』(東京堂出版 、二〇〇六年) d死と生の社会学

岩本通弥(いわもと・みちや) a一九五六年 b東京大学大学院総合文化研究科教授 c共著『「家族」はどこへいく』(青弓社、二〇〇七年)、編著『ふるさと資源化と民俗学』(吉川弘文館、二〇〇七年) d日本民俗学

高坂宏一(たかさか・こういち)a一九五二年  b杏林大学総合政策学部教授 c『人類生態学』(東京大学出版会、二〇〇二年、共著)、『衛生学・公衆衛生学』(医歯薬出版、二〇〇五年、共著)、 d人類生態学

堀田 穣(ほった・ゆたか) a一九五二年 b京都学園大学人間文化学部教授 c『都市福祉のパイオニア 志賀志那人 思想と実践』(和泉書院、二〇〇六年、共著)、『大阪お伽芝居事始め──「うかれ胡弓」回想と台本』高尾亮雄著、堀田編(関西児童文化史研究会、一九九一年) d都市文化史、児童文化史、図書館情報学

中山和久(なかやま・かずひさ) a一九六九年  b京都学園大学非常勤講師 c「旅で出逢う饗宴──接待の民俗」『世界の宴会』(二〇〇四年、勉誠出版)、『巡礼・遍路がわかる辞典』(二〇〇四年、日本実業出版)  d民俗学

小松和彦(こまつ・かずひこ)a一九四七年 b国際日本文化研究センター教授 c『憑霊信仰論』(講談社学術文庫、一九九四年)『妖怪学入門』(せりか書房、二〇〇六年 d文化人類学、民俗学

安井真奈美(やすい・まなみ) a一九六七年 b天理大学文学部准教授 c「胞衣の近代――『奈良県風俗誌』にみる出産習俗」(『山辺の歴史と文化』奈良新聞社、二〇〇六年)、“Expressing Pacific Identities Through Performance: The Participation of Nations and Territories of Western Micronesia in the Eighth Festival of Pacific Arts”(JACS Area Studies Research Reports No.9, 2006)  d民俗学、文化人類学

マルクス・リュッターマン(Ruettermann, Markus)a一九六五年 b国際日本文化研究センター准教授 c「日本語修辞の挨拶用語に於ける『恐怖』―礼儀の一面をめぐる史的考察の試み―」『日本研究』第二八号、二〇〇四年、「日本中世における多数決原理についての補考」『Historia Juris 比較法史研究』第一三号、二〇〇五年。 d日本学、歴史学

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