目次
●第1部●桂平県金田鎮
1─1 王謨村『劉氏族譜』
解題・系図
1─2─1 彩村『羅家族譜』
1─2─2 広東高明県『高明羅氏族譜』
1─2─3 『広西郷試シュ巻』羅啓コウ
1─2─4 彩村『建造社亭碑記
解題・系図
1─3─1 古程村『黄氏族譜』
1─3─2 黄體正『帯江園雑著草』
1─3─3 黄體正『帯江園詩草』
解題・系図
1─4 鰲田村・莫村『許氏族譜』
解題・系図
1─5 莫村『傅氏族譜』
解題・系図
1─6 理村『楊氏族譜』
解題・系図
1─7 理村韋氏『宗支部』
解題・系図
1─8 安衆村・吉嶺村鍾氏『族部』
解題・系図
1─9 禾寮村『呉氏祠堂碑記』
解題・系図
●第2部●桂平県江口鎮、ドウ心郷
2─1─1 江口鎮竹斐村『陳族世系』
2─1─2 『広西選抜貢巻』陳志元
解題・系図
2─2─1 江口鎮盤石村『黄氏族譜』
2─2─2 江口鎮盤石村『黄氏信亭公族譜』
2─2─3 江口鎮盤石村『萬霊廟碑』
解題・系図
2─3─1 江口鎮古練村『黄氏族譜』
2─3─2 江口鎮古練村『黄廷勲墓碑』
2─3─3 『広西郷試シュ巻』頼鶴年
2─3─4 江口鎮古秀村『重修3宝寺碑記』
解題・系図
2─4─1 江口鎮石頭脚村『陳光業墓碑』
2─4─2 江口鎮石頭脚村陳氏『家史』
2─4─3 江口鎮蓮塘村『陳氏族譜』
2─4─4 江口鎮尋線村陳氏『真明公族譜草案』
解題
2─5─1 ドウ心郷王挙村『謝氏族譜』
2─5─2 ドウ心郷王挙村謝氏『王挙2世祖建菴公家訓』
2─5─3 『広西郷試シュ巻』謝宗清
解題・系図
2─6─1 ドウ心郷上瑶村陳氏『族部』
2─6─2 ドウ心郷陳氏『上瑶嶺之文表府』
解題・系図
●第3部●桂平県(その他)
3─1 桂平県蒙墟鎮古城村『侯氏族譜』
解題・系図
3─2 『広西郷試シュ巻』陳鳳誥、陳岱コン
解題
●第4部●平南県、藤県、蒙山県
4─1 平南県官成鎮官村『羅氏族譜』
解題・系図
4─2 平南県官成鎮『胡氏族譜』
解題・系図
4─3 藤県和平・太平鎮、平南県同和鎮『呉氏族譜』
解題・系図
4─4 藤県5屯江『覃氏族譜』
解題・系図
4─5─1 蒙山県『西馬陸氏家譜』
4─5─2 藤県大黎郷古制村『陸氏族譜』
解題・系図
●第5部●その他
5─1 容県石寨郷龍胆村『陸氏家譜』
解題・系図
5─2─1 広東信宜県銭排鎮凌氏『河間流水譜』
5─2─2 広東信宜県銭排鎮『凌氏族譜流水部』
解題・系図
あとがき
参考文献
内容説明
現地踏査で得た新史料・族譜の精緻な分析から、移民・少数民族接触地域における社会的流動性と、階層上昇エネルギーを跡づけ、運動参加に至るメカニズムを解明。史料編には、40余の史料に解題・註・系図等を付す。
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序文(史料編) 菊池秀明
歴史家の仕事は大きく分けて3つある。その1つはある歴史的事象について歴史家自身が生きた時代の要請に基づいて分析する作業であり、第2はその内容を後世に語り継ぐ作業である。そして第3の仕事とは、歴史家自身が野に埋もれた史料を捜し出し、風化しつつある史実を掘り起こす作業である。
この第3の仕事の重要性については、司馬遷が『史記』を執筆するにあたり、多くの父老を訪問して伝承を記録した例が思い起こされる。また日本史研究者にとってみれば、文書の発掘は今更取り上げるまでもない日常の作業であろう。だが外国史研究、特に国内所蔵の漢籍史料を中心に研究を進めて来た日本の中国史研究においては、長く日中の国交が断絶していたこともあって、新史料の発掘を行なう可能性は殆んど存在しなかった。
近年中国との交流が盛んとなり、日本の中国史研究者が現地を訪問し、様々な研究活動を行なうことが可能となった。また中国に長期滞在し、中国社会に身を置く中から問題意識を形成することも出来るようになった。だが現状を見る限り、我々はこのチャンスを存分に活かして、先達が果たせなかった右の課題に取り組んでいるとは言いがたい。その原因として言語や習慣の壁、性急な結果を求める日本社会の圧力、中国側研究機関の受け入れ体制など様々な要因が挙げられるが、何よりも我々が研究そのものを「図書館(或いはトウ案館)で史料を閲覧すること」と自己規定し、新たな史料を発掘する努力を怠っていることが大きいのではないかと思われる。
本書は『広西移民社会と太平天国』【本文編】において、論拠として挙げた族譜、碑文などの第一次史料のうち、重要と考えられる四十三篇を収録したものである。その多くは編者が1989年から1993年までに広西桂平市(旧桂平県)、平南県、藤県、広東信宜県で行なった農村調査において発見、収集したもので、従来の研究では用いられたことがないか、部分的に紹介されるに止まっていた文献史料である。
これらの史料を収集するにあたり、編者は次の3点を重視した。1)広西移民社会の形成過程を把握するに足る系統的な発掘作業であること、2)出来る限り史料的信憑性の高い文献史料を収集すること、3)太平天国運動の発生原因を多方面から明らかにするため、運動参加者とこれに対立した勢力の双方について調査を行なうことである。
各県における調査に先立っては、地方志と建国後の中国で行なわれた太平天国に関する調査報告をベースに調査対象の村落及び宗族を選定した。この作業では地方志の列伝、科挙合格者の1覧表、各種公共事業における参加者リストを活用し、多くの科挙合格者を生んだエリート層に焦点を定めた。また科挙合格者の数そのものは少なくとも、地域社会でリーダーシップを発揮したと思われる宗族、人物についてはこれを重視した。
この結果例えば桂平県金田、江口鎮で清代に進士、挙人に合格した四十名余りのうち、二十二名の人物に関する記載を本編に収録することが出来た。また科挙エリートとして成功を収められなかった宗族についても、太平軍参加者、団練指導者を中心に出来るかぎり調査した。さらに広西の主要な少数民族であるチワン族についても、数篇の族譜を収録している。なお族譜を発見出来なかった幾つかの宗族については、『広西郷試シュ巻』(科挙合格者が作成する試験答案の小冊子)によってこれを補った。
本編に収められた史料は族譜、碑文が中心であるが、それぞれが一定の目的を持って作成されたものである。特に祖先の功績を称えることに重点が置かれた族譜の場合、その活用は慎重を期すべきである。そこで本書は収録した各史料について考証作業を行ない、地方志などの記事と照合することで記載内容の信憑性を確認し、これを注記した。また史料(或いは宗族)ごとに解題を加え、史料の性格と特徴、発見時の状況など明記した。これらの作業は現時点で必ずしも完全なものとは言えないが、今後さらに調査を継続することで不足部分を補いたいと考えている。
本書の編纂にあたっては、史料の体裁を出来る限り忠実に再現するよう努めたが、「抄録」の史料については読者の便宜を考えて1部配列を変更した場合がある。また広西で盛んだった「風水」に関する記載や、個人の生年月日、死亡日時に関する記録は一部省略した。なお文中の括弧のうち、[ ]は文脈を補うもの、( )は補足を意味するが、その他原註に関わる括弧は史料ごとにその内容を記している。
末筆になったが、調査に協力して下さった方々、史料の閲覧を快く許可して下さった諸老人に心からお礼を申し上げたい。桂平市は1994年に洪水が発生し、金田、江口両鎮の被害は甚大だったと聞く(本編に収録した史料の中にも被害を受けた例があると推測される)。一日も早い復興をお祈りする次第である。
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著者紹介
菊池秀明(きくち ひであき)
1961年、神奈川県生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了、文学博士。
1987年から1990年まで広西師範大学歴史系、広西社会科学院歴史研究所に留学し、農村調査を行なう。
現在、中部大学国際関係学部助教授。
〈主要論文〉
「太平天国前夜の広西における移住と『客籍』エリート」
「明清期、広西チワン族土官の『漢化』と科挙」
「明清期の両広南部地区における客家移民の活動と国家」