ホーム > 台湾原住民研究への招待

台湾原住民研究への招待

台湾原住民研究への招待

人類学、言語、歴史、考古等の最新の研究を基に、多様な文化および歴史と現状を紹介する初の入門書。【改訂新版準備中!】

著者 日本順益台湾原住民研究会
ジャンル 人類学
歴史・考古・言語
社会・経済・環境・政治
シリーズ アジア・グローバル文化双書
出版年月日 1998/05/30
ISBN 9784938718190
判型・ページ数 4-6・287ページ
定価 本体2,500円+税
在庫 品切れ・重版未定
 

目次

はじめに (笠原政治)
各民族の人口・分布

台湾原住民──その過去と現在 (笠原政治)

  変貌と同化の歴史
  文化復興の気運が高まる中で

第一章 研究史の流れ──文化人類学を中心に (笠原政治)

  一 外部からの原住民研究
  二 清国時代まで(─一八九五)
  三 日本統治時代(一八九五─一九四五)
  四 第二次世界大戦後(一九四五─)
   [研究案内]

 [エッセー]研究事始め
    クヴァラン研究(清水純)
    プユマの何にひかれているのか(蛸島直)
    アカムシ島奮戦記(野林厚志)
    パイワンのむらをたずねて(末成道男)

第二章 各民族の紹介および研究素描

  民族のモザイク (笠原政治)
  タイヤル(泰雅族) (笠原政治)
  サイシャット(賽夏族) (末成道男)
  ブヌン(布農族) (長沢利明)
  ツォウ(鄒族) (宮岡真央子)
  ルカイ(魯凱族) (笠原政治)
  パイワン(排灣族) (松澤員子)
  プユマ(卑南族) (蛸島直)
  アミ(阿美族) (馬渕悟)
  ヤミ(雅美族)[タオ(達悟族)] (野林厚志)
  平埔族 (清水純)

 [エッセー]研究の角度
    楽園に移り住んだ人たち──蘭嶼のヤミ (森口恒一)
    映像資料の価値と活用 (野林厚志)
    アミの各年齢層の人への接し方 (原英子)

第三章 言語研究への誘い (土田滋)

  台湾原住民諸語の種類と下位分類
  台湾原住民諸語の特徴

 [エッセー]つきあいさまざま
    pisaitsutan to bunus(「蕃刀」を預ける) (馬渕悟)
    アミの市場と食生活 (長沢利明)
    束縛されない時間 (原英子)

第四章 考古学・歴史学の眼差し

  台湾先史文化の起源をめぐって (野林厚志)
  台湾原住民の歴史学的研究について (小林岳二)

 [エッセー]歴史を歩く
    霧社事件とタイヤル民族 (長沢利明)
    ツォウと日本時代 (宮岡真央子)
    ツォウをめぐる二つの伝説 (宮岡真央子)

付 録 資料編

  一 主要参考文献 (笠原政治・小林岳二・中西裕二ほか)
     入門書・研究の手引き
     日本統治時代の記録と研究
     文化・社会研究
     各民族の文化と社会
     言語研究
     歴史研究(霧社事件)
     文学と芸能
     原住民運動・原住民の著作
     写真集・図録
     紀行文、伝記、エッセイなど

  二 施設・団体一覧 (小林岳二・末成道男・陳文玲・野林厚志)
     日本国内の資料センター
     台湾の原住民関係博物館
     台湾原住民関係の民間団体
     インターネットのホームページ
     台湾で原住民関係資料を購入するには

  三 音楽・映像案内 (陳文玲・宮岡真央子)
     音楽・日本発売
     音楽・台湾発売
     ビデオ・台湾発売

  付表・台湾原住民諸語比較基礎語彙 (土田滋)

  原住民関係略年表 (小林岳二)

  索引
  写真図表一覧 
  
  台湾原住民研究への招待
 台湾原住民──その過去と現在

このページのトップへ

内容説明

人類学、言語、歴史、考古等の最新の研究を基に、多様な文化および歴史と現状を紹介する初の入門書。体験エッセーを始め、年表や文献案内、基礎語彙比較表、施設紹介、ホームページやCDまで収めた総合小百科。


*********************************************


はじめに
執筆者を代表して
笠原政治

本書は、文化人類学や言語学、考古学、歴史学などを専門にする日本の研究者が中心になって、台湾原住民とその文化、台湾原住民研究の歴史と現状を紹介するためにまとめた入門書である。単行本でこれに類するものは、日本語でも、また中国語やその他の言語でも、いままでには書かれたことがない。つまり、本書は台湾原住民に関する初の入門書と言ってよいであろう。


台湾原住民をとりまく近年の状況は複雑に入り組んでおり、基本的な知識がなければ十分に理解できない事柄が少なくない。たとえば、この「原住民(ユェンチュゥミン)」という名称は、おそらく多くの読者にとってあまり耳慣れない言葉であろう。彼らはかつて日本統治期に「高砂族」と名付けられ、戦後は長らく「高山族」「山地同胞(山胞)」などと呼ばれてきた。それが最近になって、自分たちの方から新たに「原住民」と名乗り始めたのである。では、なぜ彼らはそう自称するようになったのか。また、中国語で「原住民」という言葉が選ばれた理由は何なのだろうか。この名称の問題一つをとっても、背景にはかなり複雑な事情が絡んでいるのである。


とはいっても、本書の主旨は、そうしたさまざまな疑問に対して個々に何らかの解答を提供することではない。ここではもっと基礎的な知識として、いままでに行われてきた諸分野の研究と、そこから得られた知見をわかりやすいかたちに整理し、まずは台湾原住民に関心を寄せる読者のために研究の案内役をつとめることにしたい。疑問が残るという方は、ぜひ本書に示してある研究文献やその他の資料、施設案内などを通して、それぞれに理解を深めていただきたいと思う。


なお、このような一般向けの入門書をなぜ日本の研究者が作るのか、という点については多少の説明が必要であろう。歴史的な経緯からいえば、戦前の植民地統治時代に、はじめてこの台湾原住民に関して組織的な実地調査や資料収集を行い、研究のための基礎づくりをしたのは、当時これらの人々に接していた日本人たちであった。とくに日本の文化人類学は、学問の源流そのものの一つが、戦前期の台湾原住民研究(その頃の言葉では「高砂族研究」)に発しているとさえ言うことができる。戦後は、当然のことながら台湾の研究者による研究活動が中心となり、そこにヨーロッパ人やアメリカ人などの研究、さらに最近では原住民自身による研究も加わって、戦前期とは比較にならないほど裾野が広がってきているが、その一方で日本の研究者も、主に植民地時代を経験していない戦後世代が、現在にいたるまで継続的な研究活動を行ってきた。したがって、戦前段階からの研究史を現時点であらためて見直し、台湾原住民とその文化を広く紹介するためには、日本の研究者にも果たすべきそれなりの役割があるわけである。もとより、日本語で書かれた本書に、さまざまな制約や誤解、あるいは認識のかたよりが出てくることは避けられないであろう。もし本書がいずれ中国語などに翻訳され、台湾や諸外国の研究者、あるいは当事者である台湾原住民の方々に読まれることになれば、そこから、批判や論争を含む広範な対話が生まれてくるものと期待される。幸いそのような方向に進んだときには、このささやかな入門書も、たんなる研究の案内役という以上の意義を持つことになろう。


もう一つ、言葉の使い方についておことわりしておきたい。本書では、日本統治時代までの歴史、あるいは研究史の経緯を述べるところなどで、カッコ付きではあるが、しばしば「蕃」「蕃族」といった過去の差別的表現を使わざるをえない。そのような蔑称が、歴史的事情に言及するときを除いて現在いっさい通用しないことは、あまりにも当然である。同様に、「高砂族」「高山族」「山胞」などの旧名称も、すでに死語になったと言うべきであろう。なお、いままでよく使われてきた「種族」という語に対して、本書はできるだけ「民族」という言い方をすることとし、各民族の名称についても、「○○族」という表記を避けて、文脈上わかりにくい箇所にだけ中国語の表記を併用する、という形式をとることにした。言うまでもなく、文中に示される著書・論文名などはこうした言葉の使い方とは別である。


本書は、台北の順益台湾原住民博物館(林清富董事長)の研究助成の成果によるものである。また、風響社の石井雅氏には、構想の段階から執筆者たちと同じ道程を伴走していただいた。ご支援とご協力に対して心から感謝申し上げたいと思う。

*********************************************


執筆者紹介
笠原政治(かさはら まさはる)横浜国立大学
小林岳二(こばやし がくじ) 学習院大学大学院
清水 純(しみず じゅん)  日本大学
末成道男(すえなり みちお) 東洋大学
蛸島 直(たこしま すなお) 愛知学院大学
陳 文 玲(ちん ぶんれい)  東京都立大学大学院
土田 滋(つちだ しげる)  順益台湾原住民博物館
長沢利明(ながさわ としあき)東京理科大学
中西裕二(なかにし ゆうじ) 福岡大学
野林厚志(のばやし あつし) 国立民族学博物館
原 英子(はら えいこ)   日本順益台湾原住民研究会
松澤員子(まつざわ かずこ) 神戸女学院大学
馬渕 悟(まぶち さとる)  北海道東海大学
宮岡真央子(みやおか まおこ)日本順益台湾原住民研究会
森口恒一(もりぐち つねかず)静岡大学

このページのトップへ