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ベトナムの社会と文化 1

ベトナムの社会と文化 1

未開拓だった社会研究の拠点として創刊。特集 21世紀のベトナム研究 ベトナムが問うアジア研究、論文、資料、翻訳、エッセイ。

著者 ベトナム社会文化研究会
ジャンル 定期刊行物
シリーズ 雑誌 > ベトナムの社会と文化
出版年月日 1999/06/30
ISBN 9784938718756
判型・ページ数 A5・448ページ
定価 本体3,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

創刊にあたって (末成道男)

【論文】

ベトナム北部の父系親族集団の一事例──儒教的規範と実態 (宮澤千尋)
ベトナムのハノイ地域にみられる「戦いと癒し」──伝統医療の文化社会的フィードバック機能に関する一考察 (板垣明美)
ベトナムの禳星儀礼  大西和彦
ベトナム南部・ソクチャン省D村における信仰と祭祀 (中西裕二)
村の葬送儀礼と国家──ベトナム北部・紅河デルタ農村の事例より (高岡弘幸)
オーストラリアのベトナム仏教寺院の宗教実践 (川上郁雄)
慣習法と自然資源の管理 (ゴ・ドゥク・ティン/津村文彦訳)
ハノイの華僑に関するノート (芹澤知広)
ベトナム中南部のチャム族の宗教──チャムとバニ (中村理恵)
フンメーザン訊問調書──1911年ヴェトナム北部苗族反乱指導者の供述 (武内房司)
ザライの慣習法 (樫永真佐夫)

【研究ノート・資料】

タイー族・ヌン族の村での暮らし──ベトナム少数民族地域でのフィールド調査の体験から (伊藤正子)
ルオン・ヴァン・カン一族の家譜 (岡田建志)
レンドン──ベトナム・ベト族の一種の心霊歌舞形式(ゴ・ドゥク・ティン/末成道男訳)
南ベトナム社会の明郷集団 (小野敦子)
南部村落・カトリック教会関係年表 (萩原修子)
中部ベトナムにおける木霊崇拝について (L・カディエール/樫永真佐夫訳)
改良郷約マニュアル (比留間洋一訳)
ベトナム中部高原年表 (樫永真佐夫)

【特集 21世紀のベトナム研究 ベトナムが問うアジア研究】

タイのベトナム人 (石井米雄)
歴史学は生き残れるか? (桃木至朗)
メコン・デルタ農村調査から (高田洋子)
中越「国境考古学」の半世紀 (吉開将人)

【書評】

(漢喃研究院『社村名による神跡索引』)
(社会科学通信院『神跡・神勅書目』) (宇野公一郎)
(ジエップ・ディン・ホア著『グエン村──ベト族村落調査?』) (川上 崇)

【エッセイ】

「彼ら」との距離 (中村理恵)
ベトナムの犬 (大野美紀子)
埋葬隊あれこれ (中西桂子)
ベトナムの「民」について (末成道男)

 越文・英文目次
 執筆者紹介

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内容説明

近年、発展著しいベトナムだが、政治・経済や観光情報以外は未知の部分が多い。本誌は、人類学をはじめ未開拓だった社会研究の拠点として創刊。論文、資料、翻訳、さらに学際的交流の場として多彩なエッセイを収録する。


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創刊にあたって
ベトナム社会文化研究会代表 末成道男 

本誌は、ベトナムの社会および文化に関する論考、資料、エッセイなどを掲載するものである。


ベトナムは、日本にとって古来、遣唐使の阿倍仲麻呂、御朱印船期の日本人町、元寇の侵攻撃退、日露戦争後の留学受け入れと閉め出し、太平洋戦争期の侵入、ベトナム戦争期の米軍後方支援、近来の経済関係の強化といった深い関係にあるにもかかわらず、情報はごく一時期の歴史や政治経済関係に偏っていて、その社会文化についての理解は不十分である。例えば、1980年代までの出版目録の大部分を占めるのは、ベトナム戦争関係のものであり、その他も政治経済の実利的なものに留まっている。最近ようやく市民レベルでの交流も始まり文化に関する書物も増えているが、表面的印象を綴った旅行記を超えないものが大半である。表面的に感じられる日越の相似性や異質性といったものが掘り下げられず、「アジア人はみな兄弟」とか儒教や仏教の共有といった大雑把なかたちで説明されることが多い。これらも、現在のベトナムの姿を伝える点では貴重であるが、「行って見てきた」経験を単に記しただけでは、既成の常識の上塗りとなったり、偏りをいたずらに強化する恐れもなしとはしない。社会文化の十分な理解には、過去の文献資料依存や、相対化されない現地側の説明や、既成の西欧社会分析の枠組みの流用ではなく、地元での参与にもとづく他者の観察が必要である。


その点で、長期滞在による集中調査を主要な方法とする文化人類学に課せられた責任は重い。それにも関わらず、つい最近まで空白にひとしかったのは、外国人に対しては村落レベルでの調査の門戸が閉ざされていたことによる。こうした状況は1990年代に入って徐々に好転しつつあり、歴史学が先行する形で現地調査が行われるようになった。現在でも、他の多くの地域のように自由に長期の現地調査が行える状態ではないが、それに近づく形での調査が試みられ、結果も出始めている。人類学だけでなく、歴史学を始め諸分野による現地調査はそれぞれ補完的効果をもつものであり、とくに現在のような変容の激しい時期においては、その協力による総合的把握は必須のものですらある。


本誌発刊の企画は、もともと、自主ゼミの性格をもつベトナム社会文化研究会の同人雑誌として成果を発表しようという話から始まった。当研究会は、1992年から東京大学東洋文化研究所で週1回有志が集まって開かれ、WoodsideのVietnam and the Chinese Model、Cadi俊reの樹木崇拝や葬式についての論文、Phan Ke BinhのViet Nam Phong Tucなどの購読やそれぞれの個人発表を行ってきており、(1)それらについての発表や資料的価値のあるものを盛り込んで刊行する予定であった。そのうち、メンバーがフィールドに出る機会も増え、また、メンバー以外の現地調査も活発に行われるようになった状況から、むしろ広い交流の場とする方がいっそう意味があると思われ、さらに最初に予定していた会員からの篤志に加えて、故王?興氏の夫人より研究のための無条件のご寄付を頂いたので、(2)市販形式での出版が可能になり、周辺のベトナム関係研究者に広く呼びかけることにしたものである。


なお、本誌の創刊が、21世紀に向けてベトナム研究の飛躍的発展の予想される時期に重なることを記念して、それぞれの専門分野においての展望を自由に語っていただく特集「21世紀のベトナム研究──ベトナムが問うアジア研究」を企画した。呼びかけの時期が遅れたこともあって、今回だけでは完結したものにはならなかったので、次号でも継続してゆきたい。本号では主に歴史・考古からの発言および問いかけがなされたが、これらをふまえてのご意見、とくに人類学その他の幅広い分野からも活発な発言を期待したい。


また、本誌では、本文および本文に掲載できなかった資料をも含めて、デジタル化して収録したCD-ROM版別冊を出すことにしている。将来的にはコストの制約からより自由で、しかもマルティメディア形式の発表にも馴染むCD-ROM版が本誌の主体となっていくことも想定しているが、当面、文字数の長大なものや画像など紙の印刷に収まりにくい資料を発表する受け皿にしたいと考えている。これについても積極的な提言をお待ちしている。



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執筆者紹介
末成 道男 (東洋大学社会学部教授)
宮澤 千尋 (南山大学人類学研究所助教授)
板垣 明美 (横浜市立大学国際文化学部人間科学科助教授)
大西 和彦 (ハノイ工科大学日本語センター・ベトナム語教室教員) 
中西 裕二 (福岡大学人文学部助教授)
高岡 弘幸 (県立高知女子大学文化学部助教授)
川上 郁雄 (宮城教育大学教育学部助教授)
ゴ・ドク・ティン (ベトナム国家社会科学院民俗学研究所所長)
津村 文彦 (東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程)
芹澤 知広 (奈良大学社会学部専任講師)
中村 理恵 (ワシントン州立大学人類学部大学院)
武内 房司 (学習院大学文学部教授)
樫永真佐夫 (東京大学大学院総合文化研究科博士課程)
伊藤 正子 (東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程・日本学術振興会特別研究員)
岡田 建志 (大東文化大学非常勤講師) 
小野 敦子 (ピープルスタッフ株式会社/名古屋大学文学部東洋史学科卒業)
萩原 修子 (熊本学園大学商学部講師)
比留間洋一 (京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程)
石井 米雄 (神田外語大学学長)
桃木 至朗 (大阪大学文学研究科助教授)
高田 洋子 (敬愛大学国際学部助教授)
吉開 将人 (東京大学東洋文化研究所助手)
宇野公一郎 (東京女子大学現代文化学部教授)
川上  崇 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科 修士課程)
大野美紀子 (立命館大学大学院文学研究科研究生)
中西 桂子 (福岡女学院短期大学非常勤講師)

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