テレビが映した「異文化」
メラネシアの人々の取り上げられ方
映像による「刷り込み」が現地へのイメージを作り出している現実を、数十年にわたる資料から分析。「報道が覆い隠す」現実をえぐる。
著者 | 白川 千尋 著 |
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ジャンル | 人類学 |
シリーズ | アジア・グローバル文化双書 |
出版年月日 | 2014/03/31 |
ISBN | 9784894891456 |
判型・ページ数 | 4-6・224ページ |
定価 | 本体2,500円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
序論
Ⅰ テレビ番組でメラネシアの人々はどのように取り上げられてきたか
Ⅱ メラネシアの人々の描かれ方
Ⅲ 図書におけるメラネシアの人々
Ⅳ メラネシアの人々の取り上げられ方の系譜
Ⅴ テレビ番組と文化人類学
結論
あとがき
引用文献
資料 『朝日新聞』に掲載された番組内容の解説記事
内容説明
創成期からテレビが茶の間に送り出してきた膨大な「異文化」映像。
その「刷り込み」が現地へのイメージを作り出した歴史を、数十年にわたる資料をもとに多様に分析。「報道」が覆い隠す皮肉な現実をえぐる。
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まえがき
太平洋の島々は、ポリネシア、ミクロネシア、メラネシアの三つの地域に分けられることが多い(図1参照)。ポリネシアには、イースター島、ニュージーランド、ハワイと、それらの島々を結ぶことによってできる三角形の内側に入る島々、たとえばサモア、タヒチ、トンガなどが含まれる。いずれも太平洋の東方に位置する島々である。これに対して、ミクロネシアには、それよりも西側に点在する島々のうち、グアム、パラオ、ヤップといった赤道より北に位置する島々が、またメラネシアには、ソロモン諸島、ニューカレドニア、ニューギニアといった赤道よりも南に位置する島々が入る[印東 二〇〇二:四─六]。
本書の舞台となるのは最後に挙げたメラネシアである。とはいえ、本書ではメラネシアの島々や人々などを直接の対象とするわけではない。本書で目を向けるのは、これらの島々で暮らす人々を取り上げた日本のマスメディア、とりわけテレビ番組である。そうしたテレビ番組のなかで、メラネシアの人々とその生活する地域がどのように取り上げられてきたかを明らかにすること。それが本書の主な目的である。
ところで、なぜメラネシアの人々とその生活する地域を取り上げたテレビ番組に焦点を当てるのか。以下ではその理由について簡単に触れておきたい。
メラネシアに着目するのは、ひとえにこれまで私がメラネシアの国の一つであるヴァヌアツで文化人類学的な研究や国際協力活動に携わってきたためである。多くの文化人類学者の例に漏れず、私も日本とヴァヌアツの間を何度も往復し、また長期間の滞在を通じて、彼の地の人々とその社会や文化に関する理解を深めようとしてきた。しかし、自分の理解が多少なりとも深まるにつれて、自分のもっているヴァヌアツの人々に関するイメージや認識と日本で周りにいる人々のそれとの違いに否応なしに目が行くようになった。
その一つの契機は大学で教えるようになったことである。ヴァヌアツで研究などを行ってきたため、授業では必然的にヴァヌアツやそのほかのメラネシアの国々や地域に関する話題を取り上げることが多い。そうした話題をめぐって学生たちとやりとりするうちに、彼ら彼女らのもっているメラネシアの人々に関するイメージや認識が、自分のそれとかなり違っているのではないかという印象をもつようになった。その印象は大学で教えはじめてから数年を経た後も大きく変わらず、そのためかえってその違いに目が行くようになったのである。そして、それとともに学生たちのもっているイメージが形づくられてきた背景について知りたいと思うようになった。
メラネシアの人々とその生活する地域を取り上げたテレビ番組に焦点を当てるのは、以上のような関心による。もちろんイメージの形成過程を考える際には、テレビ番組以外のさまざまなものごとにも目配りする必要があるだろう。しかし、追って序論であらためて触れるが、かつて私が学生を対象として行ったメラネシアのイメージに関するアンケート調査によれば、非常に多くの学生たちが自分のもっているイメージの情報源としてテレビ番組を挙げていた。
現代の日本で人々の情報源としてテレビ番組が重要な位置を占めていることは、ほかの研究者も指摘していることである。たとえば萩原滋は、二〇〇一年から二〇〇七年にかけて毎年、首都圏の大学の学部生を対象として海外に関する情報の入手経路に関する調査を行い、半数以上(年によっては七〇パーセント弱)の学生がテレビを主な情報源としていることを明らかにした。そして、それを踏まえて「インターネットの発達によって海外情報の入手経路は多様化しているが、テレビが依然として主導的役割を果たしていることに変わりはない」と述べている[萩原 二〇〇七:一四]。また、健康に関する情報の面でも、テレビがもっとも有力な情報源になっているとの指摘がある[飯島編 二〇〇一:六六]。これらの指摘や先に触れた私のアンケート調査の結果などを念頭に置くならば、ほかのメディアに比べてテレビ番組の影響力はきわめて大きいとみることができる。本書で主にテレビ番組に焦点を当てるのはそのことによる。
本書では、一九六〇年代から二〇〇二年までの約四〇年間に放送された番組を対象として、そこにおけるメラネシアの人々とその生活する地域の取り上げられ方を時間軸に沿ってみてゆく。ただし、その傾向をよりはっきりと浮き彫りにするべく、補足的な形ではあるが、一般向けの図書にも目を向ける。また、本書で対象とするテレビ番組と文化人類学者や文化人類学的な著作物の関係についても明らかにしたい。その理由については序論で述べる。
本書の構成は次の通りである。まず序論で本書の視点や意義などについて簡単に述べた後、第Ⅰ章と第Ⅱ章で一九六〇年代から二〇〇二年までに放送されたテレビ番組におけるメラネシアの人々とその生活する地域の取り上げられ方について、その全体的な傾向や特徴などを明らかにする。続く第Ⅲ章ではそれらをより明確なものとして位置づけるべく、一般向けの図書に関する検討を行う。また、第Ⅳ章では複数の番組の間で対象の選び方や描き方が共有されたり、受け継がれたりしていった系譜を具体的に跡づけることを試みる。そして、第Ⅴ章で一連のテレビ番組と文化人類学者や文化人類学的著作物の関係を時間軸に沿って明らかにした後、最後に結論で日本のテレビ番組におけるメラネシアの取り上げられ方をめぐって考察を行い、本書を締め括る。
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白川 千尋(しらかわ・ちひろ)
1967年生。 博士(文学)(総合研究大学院大学)。
大阪大学大学院人間科学研究科准教授 文化人類学。
メラネシアや東南アジア大陸部をフィールドとして、呪術と科学の関係や、国際協力・開発援助と文化人類学の関係に関する研究などを行っている。 主要業績に、『南太平洋における土地・観光・文化─伝統文化は誰のものか』(明石書店、2005年)、『カストム・メレシン─オセアニア民間医療の人類学的研究』(風響社、2001年)、『呪術の人類学』(川田牧人と共編、人文書院、2012年)など。