内モンゴル自治区フフホト市シレート・ジョー寺の古文書
ダー・ラマ=ワンチュクのコレクション
有力寺院とその属民の契約文書。当時の経済状況や日常生活、漢化の状況や多民族間の軋轢なども、激変する社会を活写する重要資料。
著者 | 楊 海英 編 雲 廣 編 |
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ジャンル | 書誌・資料・写真 |
シリーズ | モンゴル学研究基礎資料 |
出版年月日 | 2006/12/20 |
ISBN | 9784894898714 |
判型・ページ数 | B5・132ページ |
定価 | 本体1,200円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
一 シレート・グーシゆかりの寺
二 シレート・ジョー寺の興衰
三 燃えて、美しい寺
四 シレート・ジョー寺の経済状況
五 シレート・ジョー寺の末寺
第二章 文書の入手経緯とその概要
一 ユンシェープ家と文書
二 文書の概要
三 文書の意義
第三章 テキスト(影印)
内容説明
寺院縁起・文書解題及び51点のモンゴル語・漢語文書を収録。有力寺院とその属民との契約文書には、当時の経済状況や日常生活が克明に示され、さらに漢化の状況や多民族間の軋轢なども読みとられる。激変する社会を活写する重要資料。
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本書より
本書は中国内モンゴル自治区フフホト(呼和浩特)市内に建つ古刹、シレート・ジョー(延寿寺)寺に伝わる古文書の一部を解題し、公開するのを目的としている。
これらの古文書は現在、シレート・ジョー寺のダー・ラマであるワンチュク(87歳)が保管している。文書を修繕し、初歩的に整理したのはフフホト市在住の雲廣である。雲廣と楊海英の共同研究の成果として、本書が生まれたのである。
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最近、清朝時代のモンゴル史を専門とする萩原はモンゴル国国立歴史中央アルヒーブ所蔵の裁判文書類を用いて、ジェブツンダムバ・ホトクトの隷属民イケシャビナルに対する清朝時代の司法支配に関する研究を行い、清代モンゴル社会の構造研究に新天地を切り開いた。フフホトのシレート・ジョー寺所伝の文書類も多岐にわたっており、寺院を中心に形成された独特な社会の実態を分析するのに欠かせない資料である。
本書所収の51点のモンゴル語・漢語文書の意義について、簡単に述べておこう。
第一に、清朝時代におけるチベット佛教寺院の僧侶とその属民シャビナルが主役と当事者をつとめる契約文書の形式及びその内容が豊富に示されたことである。契約文書のなかで、ほとんどの場合、寺院名は抬頭あつかいとなっている。以前に金峰が中心となって編纂し、六輯からなる『呼和浩特史蒙古文献資料匯編』にもシレート・ジョー寺を含むフフホト城内のチベット佛教寺院に関する文書が多数収録されている。そのなかには、寺院名を挙げてから、「叩頭せよ」と続いて書いてあった例もある。
寺院名が抬頭あつかいされているのに対し、清朝皇帝の年号は必ずしもそうではない。チベット佛教は清朝の国教であり、清朝皇帝は教団の保護者であると同時に、文殊菩薩の化身でもあるように振舞っていた。教団と皇帝との関係を考えるうえで、興味深い資料である。
契約文書のなかには、乾隆期から嘉慶期にかけて、複数の時代に跨るものもある。契約内容を再確認しあったり、あるいはまったく新しい内容で再契約したりした例が見られる。契約が終了した場合には、例えば、No.16やNo.17のように「無用となった文書」との一筆が書き込まれたものもある。
第二に、清朝時代のシレート・ジョー寺はフフホト城ないしは内モンゴル地域において、もっとも政治力と経済力を有していた寺院の一つであった。そのような寺院の経済状況の実態を如実に語る内容が文書に織り込まれている。属民シャビナルの畜群構成、法会の際に献上された品々、土地や建物の賃貸収入などの情報が含まれている。また、僧侶たちが日常、どんなものを消費していたかを示す資料もある。
第三に、フフホト城とその周辺地域に住むトゥメト・モンゴル人や寺院の属民シャビナル社会の漢化を歴史的に考察するのに重要な手係りが示されている。遊牧地の開墾(No.45)や用水路をめぐるトラブルなどの出来事が示す清朝時代における内モンゴルの多民族社会のリアリティは、新しいモンゴル研究に光を当てる材料である。
第四に、本書の文書群にはたくさんの人名や地名が登場する。頻繁な政権交替と激しい開発が続く中国内モンゴル地域において、過去にどのような地名が存在し、そこにどんな人々が暮らし、そして、いかに変化してきたかを考察するうえでも、重要なデータである。
フフホトのシレート・ジョー寺の文書の全容はまだ不明のままである。本書所収のものは、大海原のなかの一滴に過ぎない。今後、それらの膨大な文書が逐次公開されることに従い、清代におけるモンゴル社会の実態も解明されるであろう。
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編者紹介
楊海英(Yang Haiying)
1964年、中国内モンゴル自治区オルドス地域生まれ。モンゴル族。
1987年、北京第二外国語学院大学アジア・アフリカ語学部日本語科卒業。同大学助手を経て1989年春来日。1995年総合研究大学院大学博士課程修了、文学博士。
現在、静岡大学人文学部助教授。
主な著書: 『草原と馬とモンゴル人』(2001年、日本放送出版協会)、『オルドス・ モンゴル族オーノス氏の写本コレクション』(2002年、国立民族学博物館・地域研究企画交流センター)