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10 タイの開発・環境・災害

繋がりから読み解く防災社会

環境社会学の立場からインド洋大津波を分析。開発→環境破壊→災害というサイクルに潜む人災要因。被害を最小限にとどめる方策を探る

著者 中須 正
ジャンル 社会・経済・環境・政治
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2008/11/10
ISBN 9784894897373
判型・ページ数 A5・64ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

一 はじめに
 1 インド洋大津波との遭遇から
 2 本書の主題

二 災害とは何か
 1 災害とは何か
 2 リスク
 3 リスク社会論
 4 環境クズネッツ曲線
 5 災害からの復興に関する理論

三 タイの開発・環境・災害とその繋がり
 1 開発・環境・災害の全体像
 2 タイの開発・環境・災害の繋がり

四 タイ・日本における環境社会変革の発展過程
 1 タイの国家計画及び開発・環境・災害事例の潮流
 2 タイの環境運動の発展過程
 3 タイの環境政策の発展過程
 4 日本の環境社会変革過程の潮流
 5 環境社会変革過程の時間軸での繋がり──タイ・日本の比較
 6 タイと日本の環境社会変革過程における繋がり

五 インド洋大津波の被害
 1 被害の概観
 2 被害のインパクト
 3 タイにおける被害
 4 インド洋大津波とタイの開発・環境・災害の繋がり
 5 インド洋大津波とタイの開発・環境・災害と社会の繋がり
 6 インド洋大津波とタイの開発・環境・災害と日本の繋がり

六 おわりに

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内容説明

環境社会学の立場からインド洋大津波の被害を分析。開発→環境破壊→災害(公害)というサイクルに潜む人災の要因を指摘。被害を最小限にとどめる方策を探る。ブックレット《アジアを学ぼう》10巻。


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本書の主題


本書は、このインド洋大津波との遭遇を契機に研究の使命(ミッション)を深めた「タイの開発、環境、災害」を、環境社会学の視点から述べていくものである。特徴は、「開発」「環境」「災害」というものが実は繋がり深い関係にあることを示し、その繋がりをマクロ的な視点から述べること、さらにその視点から長期にわたるフィールドワークをベースとしたタイ社会との相互作用の分析、さらには日本との比較を加えていることにある。


そのため、本書のキーワードは、「繋がり」となる。すなわち、1,タイの開発・環境・災害はそれぞれどのように繋がっているか。2,タイの開発・環境・災害と社会は、どのように繋がっているのか。そして、3,それらが、どう日本と繋がっているのか、を、社会システム及び比較の視点を通して述べることにある。


まずは、使用する中心的な用語を確認し、マクロ的な視点で概観したあと、環境社会学的視点で主題に迫っていきたい。


一 災害とは何か


1 災害とは何か
ユネスコは、日本語で自然災害と言われている事象をナチュラルハザード(Natural Hazard)とナチュラルディザスター(Natural Disaster)の二つの概念に分け、前者を「自然的に発生する物理現象で、地震、火山噴火、地すべり、津波、洪水、及び干ばつを含むもの」、後者を「ナチュラルハザードによる結果もしくは影響を示し、持続可能性の深刻な切断及び、経済社会発展の崩壊」としている。これは、自然現象に人間社会における被害が加わって、初めて自然災害となることを示すものであり、言い換えれば、被害発生あるいは被害拡大の度合に、社会条件が大きく影響することを説明しているといえる。


つぎに、ヨーロッパの中核的防災機関であるベルギーのカトリックルーバン大学災害疫学研究センター(CRED:Center for Research on the Epidemiology of Disaster)の災害の定義を見てみると、CREDは、災害を「状況及び出来事によって、地域の許容度を超える状態であり、国内国際レベルでの外的な支援を求めることが必要となる状態」としている。また、同大学のCREDデータベースへの災害件数の登録条件をみてみると、災害は、(1)一〇人以上の死者が報告されたもの、(2)一〇〇人以上の被災者が報告されたもの、(3)非常事態宣言が発令されたもの、(4)国際的援助要請が出されたもの、の四項目のうち一つ以上を満たすことである[Cred Crunch 2005: 2]、としている。これらは、災害と社会の関係を考察するうえでの一つの目安になるであろう。


また日本の開発援助機関でもあるJICA(国際協力機構)の報告書によれば、災害は、次のように定義づけられている。


自然の加害力-社会の防災力=災害(死傷・被害)
認識の基本は、自然の加害力から社会の防災力を引いたものが災害、であり、社会の防災力を最大にし、災害を小さく、かつ持続的にするための方法について検討しようとしている。しかし、関連する個々の要素は「物理・社会・歴史・文化・政治等の多くの分野にまたがっていると思われるため、目的とする方法がこれらの分野に共通する変数や記述方式で表現できるかどうか判らない」としている[国際協力事業団 一九九八:一〇]。


本書では、環境・開発との繋がりからとらえる立場をとるため、災害を狭義に「人類の開発行為による環境の改変がもたらした自然災害及び公害」と定義して議論をすすめたい(図1)。すなわち災害を天から降ってくる天災とせず、人災の部分に絞り込むことによって、抑止・コントロールし得る可能性を探るという立場をとるわけである。……

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著者紹介
中須 正(なかす ただし)
1967年、島根県出身。
東京都立大学大学院社会科学研究科社会学専攻博士課程単位取得。
現在、(独)防災科学技術研究所契約研究員、実践女子短期大学非常勤講師。
主な論文・著書に、‘Victims of Natural Disasters: The Indian Ocean Tsunami and Hurricanes Katrina-Rita’, John P.J. Dussich and Kieran G. Mundy (ed.), Disaster Victimization:Understanding and Responding to the Impact and Needs of Disaster Victims, 2008 Seibundo Publishing Co., Ltd. 、「環境運動における専門家集団の役割:三島・沼津・清水石油化学コンビナート反対運動の教訓」『実践女子短期大学紀要 第29号』(2008年、晶文社、共著)、『危機対応社会のインテリジェンス戦略』(2006年、日経BP社、共著)、「社会格差と自然災害による人的被害:インド洋大津波によるタイにおける被害を中心に」『防災科学技術研究所研究報告69号』(2006年、防災科学技術研究所)、「ハリケーン・カトリーナによる人的被害拡大過程:ニューオリンズの事例」『防災科学技術研究所主要災害調査41号』(2006年、防災科学技術研究所)、「タイにおける環境運動と環境政策」『タイ研究4号』(2003年、日本タイ学会)、などがある。

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