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風水思想を儒学する 3

「百偽一真」「末流猥雑」と儒教側から排撃され続けてきた風水。中国思想史の底流をなす巨大な「格闘技」を平易に示した風水思想史。

著者 水口 拓寿
ジャンル 歴史・考古・言語
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2007/11/10
ISBN 9784894897298
判型・ページ数 A5・66ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに──四庫全書の中の『発微論』
 1 本書の主題と構成
 2 風水とは何か
 3 龍と穴と砂と水

一 『発微論』の著者と執筆目的
 1 著者は蔡元定か蔡発か
 2 何を「発微」する著作なのか

二 『発微論』の構成と各篇の論述内容
 1 計一六篇の名称と、それらの配列
 2 「陽中有陰、陰中有陽」の存在論、及び「地理」と「人事」の相関論
 3 「陰陽配対」「陰陽中和」を念頭に置いた選地原理
 4 「気を逃さずに受け止めること」を念頭に置いた選地指導
 5 天と人の相関論──風水的世界観における人為の偉大と限界

三 『発微論』の思想的特徴──「儒理」の在処をめぐって
 1 『四庫全書総目提要』が『発微論』に与えた評価
 2 原則として風水に批判的であった四庫館臣──「百偽一真」と「理に近い」
 3 『発微論』の中に見出された「儒理」(1)──陰と陽の二元論をめぐって
 4 『発微論』の中に見出された「儒理」(2)──天と人の相関論をめぐって

四 南宋時代~清朝時代中期における術数学の変質
 1 「形から易へ」から「易から形へ」へ
 2 「易学の分派」としての術数学

五 儒教知識人からの風水思想批判に応えて
 1 もう一つの風水思想史──風水思想に対する批判の系譜
 2 転機としての宋朝時代──道学の出現
 3 風水思想を批判する論理(1)──不孝な行為の誘発をめぐって
 4 風水思想を批判する論理(2)──天に関する観念の相違をめぐって
 5 「二つの風水思想史」における『発微論』と『四庫全書総目提要』の位置

おわりに――風水思想を儒学する

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内容説明

「百偽一真」「末流猥雑」と儒教側から排撃され続けてきた風水は、批判の言説を克服する試みの中で次第に「構造改革」を成し遂げてきた。中国思想史の底流をなす巨大な「格闘技」を平易に示した「もう一つの風水思想史」。ブックレット《アジアを学ぼう》3巻。


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はじめに


四庫全書の中の『発微論』


まずは、本書に登場する「主演俳優」と「助演俳優」をご紹介しよう。主演俳優の名を『発微論』といい、助演俳優の名を『四庫全書総目提要』という。二人はいずれも中国に生まれたが、同じ時代に誕生したわけではない。初来日を果たしたのはいつだったか、今となっては不明のようだ。二人の寿命が、将来いつまで続くのかも分からない。


清朝時代(一六四四~一九一二)中期の乾隆帝(一七三五~一七九五在位)の命により編纂された「四庫全書」は、約三五〇〇に及ぶ文献を、四部四四類に分けて採録する巨大な叢書だが、その「子部」の「術数類」の中に、「相宅相墓之属」と題して一一の風水書が収められている。一一という数量や、三五〇〇分の一一という比率を、多いと見るべきか、少ないと見るべきかはともかく、四庫全書所収文献の公式な解題集として、「四庫館臣」(以後「館臣」と略す)と総称される編纂者自身の制作した『四庫全書総目提要』(以後『提要』と略す)(一七八二)において、それらの風水書の内で、相対的に最高の評価を与えられたものの一つが『発微論』である。同書に対する館臣の評語は、肯定的な言葉が羅列されているように見え、また少なくとも直接には、否定的な言葉を全く差し挟まない。


本書の主題は、『発微論』という風水書が、四庫全書及び『提要』においてこのような待遇を受けた所以を探ることである。なぜなら、それは風水書というものにとって、十分に稀有な現象なのだ。意外に思われるかもしれないが、風水という占術は、中国社会において、必ずしも顕彰の対象となってこなかったのであり、むしろ風水思想の沿革は、儒教思想に基づいて風水思想を批判することの系譜と、常に併走してきたと表現して差し支えない。そうした流れは『提要』にも受け継がれたのであって、故に風水という占術や、風水書という文献ジャンルに対する館臣の態度は、不信や蔑視をこそ基調としていたのである。


作業の過程は、全部で三つの段階から成る。まず、『提要』が施した解題に水先案内を請いながら(全面的に従うわけではないが)、『発微論』の思想構造を把握するという段階である。次に、『提要』が風水書を初めとして、一群の「術数学」書を批評するにあたっての基本的姿勢を、『発微論』の解題という個別の事例を通じて吟味する段階である。最後に、『発微論』と『提要』を、広く宋朝時代(北宋 九六〇~一一二七、南宋 一一二七~一二七六)から清朝時代中期に至る風水思想の沿革と、風水思想批判の系譜の中で捉え、両書の言説をそれぞれ歴史上に定位する段階である。以上の三段階は、本書の第一~三節・第三~四節・第五節に対応している。「風水思想を儒学する」という書名に、奇異を覚えられた方もあろうけれども、読み進んでゆかれるにつれて、私がそこに込めた意味を了解していただけるだろう。

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著者紹介
水口 拓寿(みなくち たくじゅ)
1973年生。
東京大学教養学部(文化人類学)、大学院人文社会系研究科(東アジア思想文化)に学ぶ。
2000年より2002年まで、松下アジアスカラシップにより台湾の中央研究院民族学研究所に留学。日本学術振興会特別研究員を経て、現在は東京大学大学院人文社会系研究科で助教を務める。
これまでの著作に、「風水説における『気』思想の画期─『劉江東家蔵善本葬書』をめぐって」(『東方宗教』94号、日本道教学会、1999)、「人格としての祖先、機械としての墓─福建上杭『李氏族譜』に見る風水地理観念」(『中国哲学研究』18号、東京大学中国哲学研究会、2003)、『宋史禮志二譯注』(小島毅と共編著、文部科学省特定領域研究「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成」王権理論班、2007)などがある。

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