14 法廷の異文化と司法通訳
中国籍被告人を裁く時
著者 | 岩本 明美 訳 |
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ジャンル | 社会・経済・環境・政治 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 |
出版年月日 | 2009/11/10 |
ISBN | 9784894897410 |
判型・ページ数 | A5・58ページ |
定価 | 本体700円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
一 内なる国際化の陰で
1 在日外国人の増加と外国人事件
2 司法通訳人とは
3 要通訳事件の具体的事例
4 司法通訳の特殊性
5 裁判所にとっての司法通訳
二 訴えかける中国籍被告人
1 日本の法廷にて
2 中国の法廷にて
三 耳を傾ける紛争仲裁者
1 街道居民委員会と調停人民委員会
2 仲裁者たちの経験則
四 中国籍被告人たちの文化的・歴史的背景
1 清代を例とする近代中国の司法
2 現代中国の司法
3 中国農村に見る象徴的事例
4 「法治国家」と「伝統的法文化」
五 誤解の背景と司法通訳
1 日本と中国のもめごと処理方法
2 多文化共生と法律
3 誤解の挟間に立つ司法通訳人
おわりに
あとがき
内容説明
裁判員制度により身近になった法廷。しかし、そこには法律以外に文化の壁が立ちはだかることがある。日中の裁判風景を比較しながら、裁くことの難しさや意味を考える。ブックレット《アジアを学ぼう》14巻。
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おわりにより
本書では「司法通訳」を題材に取り上げる。ここでいう司法通訳とは、日本で犯罪にかかわった日本語を解さない外国人が、逮捕、取り調べ、起訴、公判等の一連の刑事手続きに付される各段階で行われる通訳のことを指す。司法関係者にとって、司法通訳といえば、一般的に刑事手続きの過程における外国籍被告人の権利保障、適正かつ公正な公判審理の実現に必要不可欠なものであるとの側面が認識されていたため、これまでにマスメディアや国会で取り上げられる司法通訳の問題といえば、通訳人の数の確保とそれにまつわる制度的問題がメインであった。
しかし実際に司法通訳人を介した公判(要通訳裁判)を観察すると、そこには法廷にいる者たちすべての様々な「思惑」とそのすれ違いが、実に多く渦巻いている。そしてそれらの「思惑」の背景にあるもの、すれ違いの原因までを見渡したとき、現在、司法通訳の抱える問題が、制度的問題だけではないことがわかる。
そこで本書ではまず、司法通訳の現状や、これまでに議論されてきた問題について俯瞰し、まず「司法通訳」に関する各者の考えとその対応策を明らかにする。それらを踏まえたうえで、「法文化」「コミュニケーション」という言葉をキーワードとして、別視点から「司法通訳」を見つめなおすと、そこでは司法関係者にさえはっきりと認識されていない課題が浮き彫りとなってくる。すなわち、それぞれの「思い」はなぜすれ違うのか、そのすれ違いはどこから生まれるのか、という異文化との接触によって生まれる問題である。この問題は、司法界やその関係者が、司法通訳の問題として認識するばかりでなく、「内なる国際化」の時代を迎えた日本の社会でも広く認識されるべき問題である。
本書が、司法通訳についての理解を広め、認識を変え、多文化共生社会を再考するほんの一助となれば幸いである。
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著者紹介
岩本明美(いわもと あけみ)
1977年、山口県岩国市生まれ。
大阪大学(旧大阪外国語大学)大学院言語社会研究科地域言語社会専攻修了。修士(言語文化学)。
中国国営企業にて通訳翻訳業務を行う傍らフリーランスでの翻訳も行う。
主な論文に「日本の裁判における中国籍被告人の発言についての一考察―中国の紛争処理過程との関連性に着目して」(通訳翻訳学専修コース2007年度課題研究論文集)、「北京語言大学日中同時通訳修士課程における通訳実習の特徴と課題」(『通訳研究』NO.7)がある。