12 境界の考古学
対馬を掘ればアジアが見える
かつて要塞の島として閉ざされた「辺境」対馬。豊かな遺跡からは境界なき時代のアジアの躍動が浮かび上がる。
著者 | 俵 寛司 著 |
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ジャンル | 歴史・考古・言語 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 |
出版年月日 | 2008/11/10 |
ISBN | 9784894897397 |
判型・ページ数 | A5・60ページ |
定価 | 本体700円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
一 考古学の「境界」──戦後対馬と日本考古学
1 戦前の対馬と考古学
2 「日本の考古学」と東亜考古学会
3 東亜考古学会対馬調査とオリエンタリズム
4 九学会連合対馬調査と「日本考古学」
5 戦後対馬調査の残したもの
二 「境界」の考古学──対馬の先史・原史・古代
1 「対馬」の誕生
2 対馬の先史
3 対馬の原史・古代
4 原史・古代対馬の集落
5 原史・古代対馬の土器
6 原史・古代対馬の金属器文化
7 まとめ──「南北市糴」の新たな可能性
おわりに──「境界」の未来
内容説明
戦前は要塞の島として閉ざされ、戦後は植民地なき日本考古学の眼が注がれた「辺境」対馬。豊かな遺跡・資料を正視する時、そこには境界なき時代のアジアの躍動が浮かび上がる。ブックレット《アジアを学ぼう》12巻。
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はじめに
さて、本書のタイトル「境界の考古学」には「考古学の境界」という意味をも含ませている。本来の意味は、もちろん地理的「境界」に関するものである。対馬は、日本列島と朝鮮半島の「境界」であり、また広くは、ユーラシア・アジアの大陸世界と環太平洋の海域世界との「境界」である。ほかにも目的によって大小いくつもの地理的「境界」を設定できようが、ただし、必ずしもそれらは文化的内容を意味するものでもない──たとえば日本文化、朝鮮文化など──ことは注意しておく必要がある。
もう一つの意味は、「考古学」という学問の「境界」に関するものである。考古学は、一般的には、物質文化により人類の「過去」を研究する学問といわれる。同じく「過去」を研究する歴史学(文献史学)と似ているが、歴史学が、基本的には文字記録のある時代や文化(文明)を対象にするのに対して、考古学は、人類発祥から現在までの数百万年といわれる長い時間幅を扱うことができる。加えて、無文字社会を含めた世界の広大な地域文化を対象にできる点では人類学にも近い。歴史学としての考古学にしろ、人類学としての考古学にしろ、「科学的思考」にしたがって研究するという点はなんら変わらない。ただし、先にふれたように、近代的思考そのものが問われている現在、考古学もほかの人文社会科学と同じく、複数の学問領域の知見を借りることなどによって、その問いに答えていく必要性もあるのではないだろうか。
「対馬」を研究対象とする時、そこは地理的境界であるとともに、「考古学の境界」を浮き彫りにしてくれるところでもある。本書ではこの二つの意味を踏まえ、以下に述べる二つの主題を考えてみたい。
第一節では、戦後まもなく対馬で実施された二つの調査(一九四八年の東亜考古学会調査、一九五〇・一九五一年の九学会連合調査)について取り上げる。近代的概念である「国境」や「国家」「民族」を実体化させる役割を果たしてきた日本の人文社会科学、特に考古学が、近代(戦前)においていかなる思想的・実践的立場にあり、そしてそれが現代(戦後)どのように「継続」したのか、個々の調査成果よりもむしろ、それぞれの学会をめぐる歴史的背景や言説についてみていくことで、対馬が抱えるにいたった問題を浮き彫りにし、「境界の考古学」へのアプローチを試みることにしたい。
第二節では、対馬の先史・原史・古代について考古学の側面から論じる。対馬では、これまでも数多くの考古学的調査がなされてきたが、埋葬遺跡からの資料が多く、他地域との十分な比較も難しかった。しかし近年、弥生時代から古墳時代にかけてのまとまった集落遺跡が調査されるなど、かつて知られていなかった当時の対馬の人々の生活・文化の具体像が明らかになりつつある。本書では、そうした新しい資料や関連する研究の成果なども取り入れながら、「考古学の境界」に関わるいくつかのテーマについて考察してみたい。……
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著者紹介
俵 寛司(たわら かんじ)
1967年対馬生まれ。
九州大学大学院比較社会文化研究科日本社会文化専攻博士後期課程修了。博士(比較社会文化)。
現在、東京外国語大学特定研究員(サイバー大学世界遺産学部客員講師)。
主な論著に、「近代としての「東洋」考古学」(『東南アジア考古学』26号、2006年)、「戦後対馬と日本考古学」(Quadrante 9、東京外国語大学海外事情研究所、2007年)、『対馬ヤマネコブック エコツーリズム特集』(共編、みつしま印刷、2004年)などがある。