15 社員力は「文化能力」
台湾人幹部が語る日系企業の人材育成
初めて明かされた日系企業の人材育成のツボ。彼らの役割や能力を「文化能力」と定義することから見える、21世紀の管理術。
著者 | 岸 保行 著 |
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ジャンル | 社会・経済・環境・政治 |
シリーズ | ブックレット《アジアを学ぼう》 |
出版年月日 | 2009/11/10 |
ISBN | 9784894897427 |
判型・ページ数 | A5・66ページ |
定価 | 本体800円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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目次
1 日系企業の進まない「現地化」
2 本書の主眼
3 日系ものづくり企業における台湾人中核マネジャーの必要性
一 台湾日系ものづくり企業を訪ね歩いて
1 調査の概要
2 なぜ、ものづくり企業か
二 日系ものづくり企業で蓄積される文化能力
1 日本語の能力
2 我慢と忍耐力
3 チームワーク力(協調性)
4 細かさを理解する能力(細かさの理解)
三 「文化能力」の獲得を促進する三つの要因
1 長期勤続
2 日本への研修制度
3 日本人との関わり
四 「文化的媒介」行為と媒介者
1 文化的媒介者
2 翻訳的適応
3 文化的隙間(cultural holes)を埋める「媒介者」
4 「文化的媒介者」の役割
5 文化を媒介する台湾人中核マネジャー
6 「老板」志向の台湾人と意図せざる結果としての第二次社会化
7 本書の文化的媒介者モデル
五 総括
1 これまで明らかになったこと
2 本書の特色
3 おわりに
あとがき
内容説明
現地長期勤続幹部からの聞き取り調査によって、初めて明かされた日系企業の人材育成のツボ。彼らの役割や能力を「文化能力」と定義することから見える、二一世紀の管理術。ブックレット《アジアを学ぼう》15巻。
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はじめに
……しかし、実際にアジアに進出した日系企業の内部をよく見てみると、日系企業から簡単に流出していく人材が一方でありながら、他方、長期に勤務を続ける者もいることが分かる。北米と東アジアに進出した同一の日系企業の現地子会社で働く現地人マネジャーに焦点を当てた研究では、勤続年数と転職経験の比率を質問票調査から明らかにしているが、それによれば、「一〇年以上の勤続年数者の比率」と「転職経験なしの比率」が明らかに違っている。男性比率、平均年齢はほぼ変わらないにもかかわらず、「一〇年以上の勤続年数者比率」、「転職経験なしの比率」は北米のほうが、東アジアに対して相対的に高い。つまり、東アジアの日系企業に勤める現地人マネジャーは、いったん入社したらそのまま勤め上げる人々が、ある程度いることも分かっている。
東アジアのマネジャーには、転職経験がない人々がおり、一〇年以上の勤続年数を有しているものが半数近くを占めていることは、東アジアに進出した日系企業にとっては、重要な意味をもっている。しかし、これまでの研究では、日系企業サイドへの調査結果から、東アジアに進出した日系企業では、人材の流動性が高いことが言われ、現地人材の定着率の低さが指摘されてきた。つまり、そのことは、日系企業を離れる人材ばかりに目が向けられ、日系企業に留まっている人材には、あまり目が向けられてこなかったということを示している。しかし、北米に進出した日系企業に比べて、東アジアに進出した日系企業で働くマネジャーたちは、総じて長期勤続傾向が強く、転職経験者も少ない。このようなマネジャーの存在は、日系企業にとってどのような意味をもつのか、なぜこのようなマネジャーが日系企業のなかで生成されてきたのか。これまでの研究では、これらの点に関してはあまり言及されてこなかった。
本書では、これまであまり顧みられてこなかった、このような日系企業に留まっているマネジャーを対象にし、以下のような問題関心に立脚して論を展開していこうと考える。
東アジアに進出した日系企業で働くマネジャーとは、どのような役割を果たす存在で、日本企業側からはどのような期待をもたれているのか。さらには、どのような理由から日系企業に留まり、それはどのような意味があるのか。
2 本書の主眼
本書の主眼は、台湾に進出した日本のものづくり企業内部において、長期にわたって留まる現地人マネジャーの役割を中心に考察を進めることである。日系企業内部における異なる文化的背景をもった人々の協働を詳細に探求することにより、企業内部の異文化インターフェイス面で働く台湾人長期勤続マネジャーの役割を描き出そうとするのである。現在、台湾日系企業で長期勤続している中核的なポジションにいるマネジャーが、日系企業に入ってきてから今日までの軌跡を彼ら・彼女ら自身の「語り」から見ていき、労働に対する価値観や職場規範の内面化、さらには自らの役割をどのように意味づけているのか、日系ものづくり企業内部での自らの変化をどのように捉えているのかに注目する。
日系ものづくり企業のなかで、日本人との「異文化協働体験」を通じて、いかに台湾人マネジャーが、日系ものづくり企業内部で重要となる諸要素を獲得し、新たな価値の内面化を進行させていくのか。そして、日系企業内部での日本人との「異文化協働体験」の過程で、いかにして日本人駐在員からの信頼を獲得していくのか、キーワードとして「文化能力」を用いながら、その動的な側面に焦点を絞りながら、現地人中核マネジャーをみていこうと思う。
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著者紹介
岸 保行(きし やすゆき)
1979年、東京都生まれ。
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程修了。博士(学術)。
早稲田大学助手を経て、現在は早稲田大学特別研究員を務める。
主な論文に「台湾日系企業における『現地化』」(『異文化コミュニケーション』第9号)、“Should a Good Staff be Culturally Specific?”(KO, Sangtu edt. Dispute and Cooperation in North East Asia, 2008、Yonsei University)などがある。