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21 ミャンマーの土着ムスリム

仏教徒社会に生きるマイノリティの歴史と現在

仏教国に流入したムスリムたち。人口の一割を占めるという彼らが、さまざまな軋轢の中、この国を故郷として生き抜く姿を描く。

著者 斎藤 紋子
ジャンル 社会・経済・環境・政治
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2010/11/10
ISBN 9784894897489
判型・ページ数 A5・62ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに

一 仏教徒社会のなかのムスリム

 1 ミャンマーにおけるムスリム
 2 インド人移民の増加──植民地時代
 3 インド系であること、ムスリムであること──ミャンマー社会との関わり

二 バマー・ムスリムという主張とその背景

 1 バマー・ムスリムとは
 2 バマー・ムスリム意識の高まり──インド人ムスリム増加の中で
 3 歴史叙述にみられる特徴

三 現代のバマー・ムスリム──組織活動からみる彼らの意識

 1 ミャンマー社会へのアピール
 2 土着民族としてのバマー・ムスリム
 3 過去を学んで現在を知る──歴史教育の重視

四 新しい世代に向けた教育―イスラームセンター夏季講習

 1 夏季講習の概要と目的
 2 民族と信仰
 3 ミャンマー社会におけるバマー・ムスリムの活躍

おわりに

注・参考文献

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内容説明

古くはアラブやインドとの交易により、また植民地時代に流入したムスリムたち。人口の一割を占めるという彼らが、さまざまな軋轢の中、この国を故郷として生き抜く姿を描く。ブックレット《アジアを学ぼう》21巻。

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はじめに


ミャンマーを初めて旅行したのはもうだいぶ前になる。写真や映像も含めてミャンマーに関する情報は乏しかったため、「仏教徒が多く、また多民族国家でもある」という漠然としたイメージの国を実際に旅行して、どんな人々がどんな暮らしをしているのか自分の目で見てみたいと思っていた。


旅行中に私が感じたことの一つは、インド系と思われる人が予想以上に多い、ということである。実は、ミャンマーは他の東南アジア諸国と同様、一九世紀半ばごろからの植民地化によって多くのインド人や中国人が流入したという歴史を持っている。こうした歴史的背景から考えれば、インド系や中国系の人々がミャンマーに比較的多く暮らしていても不思議ではないと思われるだろう。しかし、このインド系・中国系移民については、一九四八年にミャンマーがイギリスから独立した後、多くが帰国したと説明されることが多い。そのため、ミャンマーに暮らす人々はビルマ族とその他土着民族がほとんどだと考えていた当時の私にとって、容姿から判断してインド系と思われる人々が決して少なくないことは驚きであった。こうしたインド系の人はどのくらい暮らしているのだろうか、帰国あるいは出国した人が多いと言われる中、彼らはなぜミャンマーに残ったのだろうか、などのことがずっと気になってはいたが、その後しばらくの間、残念ながらインド系の人々と深くかかわる機会はないままであった。


そしてミャンマー留学中の二〇〇三年、ある先生からの紹介で一人のインド系ミャンマー人Sさんにインタビューをした。Sさんはイスラーム教徒であった。母方の祖母がカレン族であるというSさんは、ミャンマーで生まれ、ミャンマー国籍をもち、彼自身ミャンマー人だと思っているというが、インド系の容姿をし、イスラームを信仰するがゆえに、ミャンマー社会でさまざまな困難を経験していた。仏教徒が多いミャンマー社会においてムスリムに対する風当たりが強いことは感じていたが、その実態については知らなかったことも多く、驚いたり、妙に納得したりしたのをよく覚えている。その時の話は、その後にムスリムを対象に行なったインタビューを考えればほんの導入部分に過ぎなかったが、インド系の人々の中のムスリムに焦点を当てて論文を書こうと決めるのに十分なインパクトがあった。


本書では、仏教徒が多数を占めるミャンマー社会において、民族的にも宗教的にもマイノリティであるムスリム住民が、社会に自らをどのように位置づけようとしているのかを明らかにしていく。ここで扱うムスリム住民は、ミャンマー国民でありながら、ミャンマー社会の一員として暮らす上で様々な困難に直面している。しかし、彼らは、イスラームを信仰するバマー(ビルマ族)、すなわち「バマー・ムスリム(あるいはミャンマー・ムスリム)」と称し、土着民族、あるいは国民としての意識を強く持って暮らすことを積極的に選択している。彼ら自身の自己認識は、移民の子孫ではなくバマーであり、そしてムスリムである。以下、まず第一節ではミャンマーのムスリムについてミャンマー社会との関わりも含めて概観する。次の第二節からは本書で焦点をあてるバマー・ムスリムを取り上げ、一九三〇年代にバマー・ムスリムという主張を始めた理由、また彼ら自身による歴史叙述の特徴を明らかにする。そして第三節では、現在、バマー・ムスリムが植民地時代とは異なった状況の下でミャンマー社会に対し自分たちの存在をどう示しているのか、さらに自分たち自身を現在のミャンマー社会にどう位置づけようとしているのか、バマー・ムスリムの歴史を教えることに力を入れている理由は何か、ということを明らかにする。続く第四節では、実際に行なわれている講習会を例に、バマー・ムスリムの新しい世代に対してどのような教育をおこなっているのか、バマー・ムスリム意識をどのようにして伝えていこうとしているのかを考察する。


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著者紹介
斎藤紋子(さいとう あやこ)
1970年、東京都出身。
東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程単位取得退学。博士(学術)。
現在、東京外国語大学、上智大学、津田塾大学非常勤講師。上智大学アジア文化研究所客員研究所員。
おもな論文:「ビルマにおけるムスリム住民に対する見えざる「政策」:国民登録証にまつわる問題」『言語・地域文化研究』第13号(東京外国語大学大学院、2007年)、‘The Concept of Citizens and Non- Indigenous Residents under the Ne Win Regime : From the 1982 Burma Citizenship Law and Related Materials.’ Edited by Justin Watkins and Masami Arai. Proceedings of the SOAS/TUFS Postgraduate Symposium: London, 20-21 February 2006. 東京外国語大学大学院21世紀COEプログラム「史資料ハブ地域文化研究拠点」研究叢書。

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